弁護士視点で知財ニュース解説

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盗作であると言われる作品が著作権侵害になる基準

「この作品は,あの作品の盗作である」とマスコミなどで騒がれることがあります。

そのような作品が他人の著作権を侵害していることになるのかの判断は,文学的,芸術的,学術的,あるいは娯楽を提供するものとしての作品の評価とは明らかに異なります。

通常,ある作品が盗作であるか否かの判断は,比較する二つの作品の時代や環境といった背景事情の共通性,作品としての構成,大まかなストーリーの構想,キャラクター設定の共通性などによって判断されますが,著作権侵害であるか否かは,そのようなレベルで判断さているわけでありません。

cont_img_45.jpg著作権法における盗作であるか否かの判断基準を理解するには,著作権法において保護されている著作物が,どのようなものであるについて理解しておく必要があります。

そもそも,著作権法において,著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています。

つまり,著作物は,具体的に表現されたものであり,その具体的に表現されたものを基準に,それが複製されているか否かを判断することになるわけです。

一般的に,盗作であるか否かの判断となっている作品の背景事情,作品としての構成,大まかなストーリー構想,キャラクター設定の共通性は,具体的な作品の背後に存在する作品に関するアイデアに過ぎず,他人の作品のアイデアを模倣したとしても,著作権法上は,他人の作品を複製したことにはならず,著作権(複製権)を侵害することにはならないのです。

過去に,NHK大河ドラマ「武蔵」が映画「七人の侍」の著作権を侵害しているか問題となり, 知的財産高等裁判所で判断されたことがありますが,この問題においては,両作品は,作品としての構成や大まかなストーリー構想などが類似するだけであって,著作権を侵害しないと判断さています。

また,最近でも,映画「カメラを止めるな」が舞台「GHOST IN THE BOX」の盗作である テレビドラマ「玉川区役所 of the DEAD」と漫画「就職難!!ゾンビ取りガール」の盗作であると騒がれたことがありますが,二つの作品の具体的な表現を比較すると,表現のレベルでは二つの作品は異なるものであると,個人的には考えています。

さて,ここまで,盗作と呼ばれる作品が,著作権の中でも複製権を侵害するのかについて説明してきましたが,著作権法では,翻案権という権利も存在します。st187.jpg

翻案権とは,著作物を翻訳し,編曲し,若しくは変形し,又は脚色し,映画化するなどの権利と定められています。

上記した例示からも明らかなとおり,翻案権は,異なる表現方法の間で問題になるだけでなく,同一の表現方法の間でも問題となります。

例えば,オリジナルの映画が存在し,そのオリジナル作品を前提に新たな映画を制作するという場合にも翻案権が問題となるわけです。

それでは,翻案権とは,どのような権利なのでしょうか。 翻案権は,裁判所において,原著作物により表現されている内面的な表現形式を維持しつつ,外面的な表現形式を変更することと理解されています。

そして,文章の著作物に関する判決ではあるものの,名古屋地裁平成16年7月29日判決においては,「問題となっている作品が,右著作物と外面的表現形式すなわち,文章,文体,用字,用語等を異にするものの,その内面的表現形式すなわち作品の筋運び,ストーリーの展開,背景,環境の設定,人物の出し入れ,その人物の個性の持たせ方など,文章を構成する上での内容的な要素を同じくするものであり,かつ,原作品に依拠しているもの」を原作品の翻案であると判断されています。

裁判所においては,原作品と翻案との関係は,上記したものと理解されており,基本的には,上記した基準で判断されていると言われています。

翻案権においては,表現の背後にある作品の筋運び,ストーリーの展開,背景,環境の設定,人物の出し入れ,その人物の個性の持たせ方などの共通性が問題になるわけですから,先ほど説明した具体的な表現の背後にあるアイデアの共通性が問題になるわけです。

この結果,単なるアイデアの模倣と翻案権侵害との判断が極めて難しくなります。

複製権が侵害されたと主張する裁判の多くでは,複製権侵害のみならず翻案権侵害の主張も行います。

しかし,多くの裁判例では,複製権侵害が否定されると,詳細な理由が付されることなく翻案権侵害も否定されているというのが実情です。

翻案権といえども,著作権の一つを構成する権利ですから,現に存在する表現と離れて侵害か否かの判断を行うことは許されず,現に存在する表現を一段抽象化して比較し,共通事項が多い場合には翻案権侵害が認められ,これが少ない場合には,さらに抽象化したレベルでの共通性しか認めることができないため翻案権侵害が認められず,単なるアイデアが共通しているだけであると,個人的には整理をしています。

ただ,具体的な判断の場面では,「一段抽象化する」ことによって抽出されるものの認定が難しく,客観性が担保されていないため判断に苦慮するところではあります。

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