弁護士視点で知財ニュース解説

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「仏壇じまい」 お寺が使用すると商標権侵害??

intellectual_01.jpg愛知県の葬儀斡旋業者から柳谷観音大阪別院・泰聖寺に対して通知書が届き,住職が困惑されているとう記事を目にしました。

通知書の内容は,「仏壇じまい」は愛知県の業者の登録商標であるため,お寺のホームページに記載されている「仏壇じまい」という表示の削除を求めるもののようです。

「仏壇じまい」という言葉は,仏壇を処分する際に,お坊さんが供養して仏壇の中から位牌を取り出すことを指す言葉で,昔風にいうと「性根抜き」のことです。

「性根抜き」は,仏壇を購入した際に僧侶が「お性根入れ」を行うことから,処分する際に魂の宿っている仏壇から性根を抜くという純粋な宗教行為です。

私も仕事柄,借地人の建物を撤去するという場面に出くわすことがあるのですが,昔の家でですと大抵の場合,仏壇が設けられています。

建物を取り壊すときに仏壇も一緒に取り壊されるのですが,その際,お坊さんを呼ばれて「性根抜き」をされる業者と,されない業者があります。

業者さんが,お坊さんを呼ぶかどうかは,仏壇に魂が宿っているということを信じているか否かによるものであり,専ら宗教上の理由です。

ところで,愛知県の業者が登録している「仏壇じまい」という商標は,役務商標といわれるもので,業として役務を提供し,又は証明する者が,その役務について使用するものです。

商標における「役務」は,「商品」と対になるものとして使用されており,有体物である「商品」とは異なり,無体物を提供するものを広く指します。

お坊さんによる「性根ぬき」は,形式的に解釈すると,商標法上の「役務」にあたることになるのでしょうが,商標法が定められた目的に遡って検討した場合,「役務」に該当しないことになるのではないかと考えています。

商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護すること」を目的とした法律です。

これをさらに詳しく説明すると,商標法は,他人が商標を無断使用して商品・役務の出所の混同が生じることを防止することにより,商標を使用する者の業務上の信用が維持され,この結果,公正な競争秩序を維持し,商品・役務の品質改良等の営業努力による営業者間の競争が活発に行われるようにすることで,産業の発展に寄与し,需要者の利益を保護することを目的とする法律であるということになります。

このように,商標法が適用される前提として,営業者間において競争が行われていることが前提になるのです。

ここで,法律は異なるのですが,不正競争防止法に関する重要な最高裁判決があります。

まず,不正競争防止法では,登録されていない商品や役務の出所表示であっても,周知であり,類似する表示を使用することによって需要者に混乱を生じさせるおそれがある行為を不正競争行為と定め,差止め,損害賠償の対象となります。

ある宗教法人の名称使用が問題となった事案で,最高裁は,平成18年に,不正競争防止法の「営業」は,宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないと判断し,不正競争防止法の提供を排除しています。

登録されていない周知な出所表示を保護する不正競争防止法が宗教法人の宗教活動やこれと密接不可分の行為に適用されないというのであれば,営業者間の競争が活発に行われることで産業の発展に寄与することを目的とする商標法も宗教活動やこれと密接不可分の行為に適用されないと考えるべきです。

お坊さんによる「仏壇じまい」(「性根抜き」)は,人の信仰を前提に,昔から行われている純粋な宗教的行為です。

このような行為に登録された商標の効力が及ぶというのは,先に示した最近の最高裁の考え方も考慮すると,非常に違和感があります。

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