フェアユースとは,著作権の権利行使制限について,アメリカ著作権法で採用されている考え方です。
アメリカ著作権法では,以下の4つの判断基準のもとで公正な利用(フェアユース)に該当すると評価されれば、著作権の行使が制限される(著作権侵害にあたらない)ことになります。
- 利用の目的と性格(利用が営利性を有するか、非営利の教育目的かという点も含む)
- 著作権のある著作物の性質
- 著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性
- 著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響
日本の著作権法では,著作権の行使が制限される場合について包括的な規定はなく,30条ないし47条の9において個別列挙されていました。
著作権を制限する規定の定め方としては,アメリカと日本とでは大きく異なり,どちらの方法が良いのかについては長らく議論されてきたところです。
アメリカのように包括的に定めた場合,立法を待つことなく裁判所の判断によって著作権の行使が制限される場合を規定することができるため,社会のニーズをいち早く実現することができます。
他方,著作権の行使が制限される場合について裁判所の判断に委ねた場合,権利者,利用者の双方にとって予測可能性が損なわれることになります。
著作権の制限規定を包括的に定める方法,個別に定める方法のいずれにもメリット・デメリットが存在し,制限規定が個別に列挙されていることに慣れてしまっている私たちにとって,予測可能性の低下というデメリットの方が強く意識されるのではないでしょうか。
今般の改正は,このような中で,「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備」という目的のもと,著作権法の制限規定の一部に包括規定を設け,それに属する過去の制限規定を例示規定として整理されたわけです。
包括的な制限規定が設けられたのは,以下のものです。
- 表現の享受を目的としない利用(30条の4)
- コンピュータでの効率的な著作物利用のための付随利用(47条の4)
- 新たな知見・情報を生み出す情報処理の結果提供に付随する軽微利用(新47条の5)
著作権の制限規定は,以下の行為類型に分類され,1及び2については包括的が設けられ,3については個別規定に委ねられていると整理されることとなりました。
- 権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型
- 権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型
- 権利者に及び得る不利益が一定程度存在するが,公益的政策等を実現するために必要となる行為類型
表現の享受を目的としない利用
社会では,著作物を利用する者が,著作物に表現された思想または感情を享受して,知的・精神的欲求が満たされることから対価を支払うと考えられ,著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない行為は,著作権者の対価回収の機会を奪うことにはならず,権利者の利益を通常害することにはならないと考えることができます。
このような権利者の利益を通常害さないと評価することができる行為類型が新30条の4に規定されています。
コンピュータでの効率的な著作物利用のための付随利用
コンピュータにおける既存利用の円滑化・効率化,維持・復旧を目的として著作物を利用する場合,既存利用と独立して,著作物に表現された思想・感情の享受の機会を発生させるものではなく,権利者に対価回収の機会が与えられなくても権利者の利益を通常害するものと評価することができません。
このような権利者の利益を通常害さないと評価することができる行為類型が新47条の4に規定されています。
新たな知見・情報を生み出す情報処理の結果提供に付随する軽微利用
自己の関心に合致する著作物等の書類情報や所在に関する情報を提供するサービス(所在検索サービス)や情報解析によって新たな知見や情報を生み出すサービス(情報解析サービス)は,社会的意義が認められる一方で,著作物の利用の程度を軽微なものにとどめれば,権利者に与える影響は小さなものにとどまります。
このような権利者の利益を害する程度が軽微であるにもかかわらず社会的意義を認めることができる行為類型が新47条の5に規定されています。