弁護士視点で知財ニュース解説

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イッセイミヤケ 「BAO BAO」の類似商品を販売されたとして仮処分の申立て

cont_img_32.jpgファッションブランド「イッセイミヤケ」は,鳥取県に本社を置く「バルコス」が販売するバック「Hanaa-fu(ハナアフ)」が,通称「BAO BAO」というバックに類似するとして,東京地裁に対し,販売差止めを求める仮処分の申立てを行いました。

訴訟を行っていては回復することが困難な損害が発生する場合に,訴訟に先立って,あるいは訴訟と並行して申し立てるのが仮処分です。

この手続により,裁判所が申立てを認めれば,訴訟手続による判決の前に,販売を仮に差し止めることができます。

不正競争防止法では,市場で販売を開始してから3年以内の新たな商品の形態(従前に実質的に同一と判断される商品形態が存在しない)と実質的に同一の商品を販売する行為,他人の周知な出所表示と類似の出所表示を使用し,市場に混同を生じさせる行為を不正競争行為とし,販売などの差止めや,損害の賠償を求めることができるとされています。

イッセイミヤケは,おそらく,実質的に同一の形態の商品を販売していること,イッセイミヤケの周知な表示と類似する表示を使用して市場に混乱をもたらしていることの両方の理由で,裁判所に仮処分の申立てを行っているものと推測されます。

イッセイミヤケの「BAO BAO」は,タイルのような三角形のピースを組み合わせたデザインで,カバンにものを入れると立体的なデザインとなるのが特徴で,今までにカバンとしては存在しなかったデザインであると思いますので,不正競争防止法によって保護される商品であると判断されると思います。

次に,実質的に同一であるといえるかが問題となるのですが,不正競争防止法における実質的同一性の判断は,問題となる新商品の周りに類似した形態の商品がどのように分布しているかによって異なってきます。

問題となる商品の周りに類似する形態の商品が多数存在する場合には,実質的同一の判断は厳格になります(周辺の商品と類似の程度があまりに高いということになると,不正競争防止法によって保護される商品形態ではなくなります。)が,類似するデザインの商品が存在しない場合(問題となる商品の形態が斬新である場合)には,同一性の判断が比較的緩やかになります。

なお,同一性の判断は,店舗で展示されている状態での比較,カバンとして使用した状態での比較のみならず,通常の使用において確認できるカバンの内部のデザインの比較まで行って総合的に判断されることになります。

既に,説明したようにイッセイミヤケの「BAO BAO」は,斬新なデザインであるため,実質的同一性の判断は比較的緩やかに行われることになりますが,実質的同一性の判断は,形態が発揮する機能からは離れて,純粋に外観の比較によって行われます。

「BAO BAO」,「Hanaa-fu」ともに,三角形のピースを組み合わせたデザイン(「Hanaa-fu」では一部長方形のピースも使用されています。)で商品コンセプト(アイデア)は同一です。

しかし,「Hanaa-fu」のカバンを構成するピースは,「BAO BAO」と比較して非常に大きいため,店舗で販売されている状態,モノを入れて使用している状態のいずれにおいても,外観上異なる印象を与えていると思います。

また,カバンを構成するピースの大きさの違いは,カバンにモノを入れた際のカバンの形状変化にも大きな違いとして現れています。

「BAO BAO」のような斬新な形態の実質的同一性を判断する場合,どうしてもカバンのデザインの背後にある商品コンセプト(アイデア)の同一性の影響を受けてしまいますが,このような商品コンセプト(アイデア)の同一性という要素を完全にとりはらって,カバンの外観を純粋に比較評価すると,「BAO BAO」と「Hanaa-fu」とはあまりにも違っていて,実質的に同一であるとは言えないのではないかと考えています。

ところで,商品の形態は,その商品が果たす機能によって決定づけられる形態(技術的不可避的形態:このような商品形態は不正競争防止法よって保護されません。)を基礎に,経済的要因,社会的要因,芸術的要因などの影響を受けて,最終的に決定されます。

つまり,商品の形態は,上記したものであり,商品の出所を表示するものとして存在しているわけではありません。

しかし,商品が繰り返し販売されて使用される,あるいは,短期間のうちにマス媒体を使用して強力な宣伝広告を行うことによって,商品を見ることによって,どの会社が販売している商品であるか判断できるようになります。

このような商品の形態は,商品の出所機能を獲得したと評価され,他人の周知な出所表示と類似する出所表示を使用したという別の不正競争行為にあたる可能性があります。

「BAO BAO」のように有名な商品であれば,カバンの外観をみればイッセイミヤケの商品であると判断することができますので,「BAO BAO」には出所表示機能が備わっていると評価することができますし,周知な表示ということもできます。

しかし,「BAO BAO」と「Hanaa-fu」の外観が類似するために,需要者の間で混同が生じているかというとそうではないと思います。

なお,類似する表示といえるか否かについても,純粋に表示機能を獲得している商品形態の外観を比較するため,商品形態の実質的同一性判断と同様に判断になるのではないかと考えています。

イッセイミヤケの「BAO BAO」は,非常に斬新なデザインであるため,同じコンセプト(アイデア)の商品が出てきた場合,類似すると判断しがちではありますが,不正競争防止法は,特許法とはことなり抽象的なアイデアを保護する法律ではなく,あくまで,現実に存在する商品を比較することによって行います。

当然,商品の斬新さが際立っているため,実際の商品比較においても同一であると評価される可能性も十分にありますが,個人的には,商品形態としても,出所の表示としても,「BAO BAO」と「Hanaa-fu」とは異なっているため,不正競争行為にはならないのではないかと考えています。

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