弁護士視点で知財ニュース解説

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違法ダウンロードの適用範囲拡大 

intellectual_01.jpg「漫画村」など,コミックの違法アップロードの問題が顕在化し,違法サイトのブロッキングを含めた法整備について様々な議論が行われているところです。

ブロッキングについては,通信の秘密の問題などがあるため,法制化を断念することが政府内で決定されており,現在,議論されているのが違法にアップロードされたコミック等のダウンロードの違法化です。

映画や音楽の著作物については,平成22年1月より,違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードした場合,たとえ私的使用目的であっても著作権法侵害とされ,平成24年には罰則規定(2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金,併科されることもあります。)も設けられました。

今般,映画や音楽に限定せず,静止画やテキスト等も対象範囲に含めことが,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会において検討されており,平成30年12月7日の中間まとめと論点整理案が公表されています。

ここでは,録音・録画と同様の要件の下,対象範囲を著作物全般に拡大していくことを基本としつつ,並行してパブリックコメント等を通じて,事務局において引き続きユーザー保護が必要となる事例の有無について更なる検証を進めることが適当であり,仮に,その中で,映画や音楽の場合と異なり,ユーザー保護の必要性・正当性が明らかな事例等が確認された場合には,それに即して,悪影響が生じない形での限定方法を検討するとされています。

小委員会においても,音楽・映像以外の著作物(静止画・テキスト等)については,以下の特性があると指摘され,違法化の対象範囲を限定すべきであるか検討が行われましたが,現在のところ,前記したとおり整理されています。

  • 創作の容易性やアップロードの容易性などを背景に,ブログやSNSを含めて,多様な場所に多様な違法ファイルが掲載されている可能性があり,一般のユーザーが気軽にダウンロードを行いやすい環境にある。
  • 特に静止画・テキストについては,ダウンロードした著作物の一部分に違法に利用されたもの(例:著作権法第32条の要件を充足しない引用)が含まれるという場合も想定される。
  • ユーザーによるダウンロードの目的が多様であり,ウェブクリッピング等として,後でじっくりと読むために,その時点では内容を吟味しないまま,ひとまず記録・保存を行うことも広く一般に行われている。
  • ファイル容量が小さく,瞬時にダウンロードが完了することから,ユーザーがダウンロードを手軽に行うことができ,思い留まる時間がない。
  • 有償で販売するために作成されていない著作物も多いと考えられる。
  • 関係する権利者が,組織化されていない者を含め,多数に及ぶこととなる。その結果,録音・録画については抑制的な権利行使がなされてきたのとは異なり,想定されないような権利行使が行われる可能性もある。

日本マンガ学会は,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめに反対する声明を発表しました。

日本マンガ学会が反対を表明する理由は,以下のとおりです。

  • 海賊版研究や2次創作研究が阻害される
  • 研究や創作のための記事や図版のクリッピングも違法になり,研究・創作の萎縮を招く
  • 静止画や文章は,違法アップロードかの判断が難しい
  • 「漫画村」のようなストリーミング方式の海賊版はまったく取り締まれないため,悪意ある侵犯者には効果がないにもかかわらず,一般ユーザーの萎縮を招き,研究・創作を著しく阻害する最悪の結果となる
  • 著作物の私的使用を一方的な便益の受容・消費活動と限定してとらえているが,著作物の利用が新たな著作物を創造する〈生産行為〉でもありうるという点が考慮されていない

小委員会においては,違法化されるのは,あくまで意図的・積極的なダウンロード(複製)行為であり,ユーザーが違法にアップロードされた著作物だと確定的に知っている場合にのみ,ダウンロードが違法となる(「違法だと当然に知っているべきだった」,「違法か適法か判断がつかなかった」等の場合には違法とならない。)とされています。

すなわち,違法ダウンロードの主観的要件において,適用範囲が不当に拡大することがないように「しぼり」をかけていることから問題ないと考えているようです。

しかし,ユーザーが,確定的に違法アップロードされたものであることを認識していたか否かは,警察などの捜査機関が捜査を行ってみて判断できる事項であり,その判断を行うために捜査が先行して行われる可能性があります。

静止画やテキスト等が違法にアップロードされたものであると判断できるサイトからダウンロードする行為といった具合に客観的要件において限定を加えなければ,ユーザからすれば,常に,捜査機関による捜査を心配しなければなりません。

さらに,懸念されることとして,刑事罰も含めてダウンロードの違法化を行うことにより,別件逮捕,勾留が増加する懸念です。

小委員会が指摘するように,ブログやSNSを含めて,多様な場所に多様な違法ファイルが掲載されている可能性があり,一般のユーザーが気軽にダウンロードを行いやすい環境にあるため,意識せずに,違法にアップロードされた静止画やテキスト等をダウンロードしている可能性が一定程度あります。

捜査機関としては,違法にアップロードされた静止画やテキスト等がダウンロードされているという事実が存在すれば,確定的な意図をもって行っていたか否かを捜査することが可能なわけですから,ひとまず,違法ダウロードの罪で逮捕しておいて,違法ダウンロードの捜査を行いつつ,別件の取り調べを行い,証拠がある程度そろったところで,別件である本罪でも逮捕をし,捜査を継続するということもできないわけではありません。

このような可能性が,事実上であっても存在する限り,主観的要件ではなく行為対象を限定していく方向で検討する必要があるのではないかと考えるわけです。

なお,2021年1月1日より,漫画・書籍・論文・プログラム等についても,違法なコンテンツであることを知ってダウンロードする場合は,私的複製の例外規定が適用されず複製権侵害が成立しますので,差止め,損害賠償の対象となります。

また,有償で提供されているコンテンツにつき,違法なコンテンツであることを知ってダウンロードする行為に対しては,2年以下の懲役,200万円以下の罰金,又は両方が科されることになりました。 

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