弁護士視点で知財ニュース解説

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フラダンス訴訟 大阪地裁判決

cont_img_39.jpgフラダンスの指導者のフラダンスの振付けが著作権法によって保護されるかが争われた事件で,大阪地裁が,平成30年9月20日,フラダンスの指導者の主張を一部認める判決を下しました。

大阪地裁の判決では,

フラダンスが特定の歌詞に対応するハンドモーション(一つとは限らない)と典型的なもので構成されるステップから構成されると認定し,

  • 特定の歌詞から想定されるハンドモーションがとられている場合には個性が表れていない
  • 既定のハンドモーションがとられていない場合や,決まったハンドモーションがない場合であっても,同じ曲又は他の楽曲での同様の歌詞部分について他の振付けでとられている動作と同じものである場合には個性が表れていない
  • 既定のハンドモーションや他の類例と差異があるものであっても,それらとの差異が動作の細かな部分や目立たない部分での差異に過ぎない場合には,他の振り付けとの境界が明確でないこと等から個性の表れとみるのが相当ではない
  • 既定のハンドモーションや他の類例との差異が,ありふれた変更に過ぎない場合にも個性の表れとみることができない 一つの歌詞に対応するハンドモーションや類例の動作が複数存在する場合には,その中から特定の動作を選択して振付けを作ることになり,歌詞部分ごとにそのような選択が累積した結果,踊り全体のハンドモーションの組み合わせが,他の類例に見られない場合であっても,それらのハンドモーションが既存の限られたものと同一であるか又は有意な差異がなく,その意味でそれらの限られた中から選択されたに過ぎないと評価し得る場合には,その選択の組み合わせを個性とみることはできないし,配列についても,歌詞の順によるものであるから,個性の表れと認めることはできない

として,いずれも著作権によって保護されないと判断されました。

ところが,ある歌詞に対応する振付けの動作が歌詞から想定される既定のハンドモーションでも,他の種類に見られるものでも,それらと有意な差異がないものでもない場合には,その動作は,当該歌詞部分の振付けの動作として,当該振付けに独自のものであるか又は既存の動作に有意なアレンジを加えたものということができるから,作者の個性が表れていると認めるのが相当であるとされました。

そして,そのような動作も,フラダンス一般の振付けの動作として,さらには舞踊一般の振付けの動作として見れば,ありふれた場合もあり得るとした上で,それを当該歌詞の箇所に振り付けることが他に見られないのであれば,当該歌詞の表現としても作者の個性が表れていると認めるのが相当であり,このように解しても,特定の楽曲の特定の歌詞を離れて動作自体に作者の個性を認めるものではないから,個性の発言を認める範囲が不当に拡がることはないと考えられると判断されました。

なお,ステップについては,基本的にありふれた選択と組合せに過ぎないというべきであり,そこに作者の個性が表れていると認めることはできないと判断する一方で,ステップが既存のものと顕著に異なる新規なものである場合には,ステップ自体の表現に作者の個性が表れていると判断されました。

以上を前提に,それらの歌詞部分の長さは長くても数秒間程度のものに過ぎず,特定の歌詞部分に相当する振付けを著作権の保護の対象としないと判断されました。

しかし,作者の個性が表れている部分やそうとは認められない部分が相まった一連の流れとして成立するものを問題とする場合には,その中で,作者の個性が表れている部分が一定程度にわたる場合には,そのひとまとまりの流れの全体について舞踊の著作物性を認めるのが相当であると判断されています。

一連の流れとして成立する振り付けを対象に,作者の個性が一定程度に及ぶ場合に著作物性を認めるというのは,小説などの言語の著作物における判断と似ており,フラダンスには特定の歌詞に対応したハンドモーションが存在することから言語の著作物と並行的に考えられたのではないかと推測されます。

小説などの言語の著作物は,文字で表現されているのですが,個々の文字や単語に個性が入る余地がなく(造語の場合でも少ないといえます。)著作物として保護されることはありません。

ところが,それが一定程度の長さをもったひとまとまりとなった場合,そこに個性が認められると,一定程度の長さをもったまとまり全体を著作物として保護されることになります。

大阪地裁は,特定の歌詞と特定のハンドモーションが対応しているフラダンスについても,言語の著作物の著作物性の判断と並行的に考えているように思うのです。

ただ,個人的に違和感があるのは,小説などの言語の著作物と,歌詞に対応したハンドモーションが存在し,歌詞をハンドモーションで表現するフラダンスを並行的に考えてよいのかという点です。

言語による表現は,表現方法の選択幅が非常に広いため,他者が他の表現方法をとることが容易です。

他方,身体の動作による表現は,言語による表現と比較して選択幅が狭く,特定のジャンルの踊りという性格を留める限りは,さらに選択幅が狭くなり,他者が他の表現をとることが言語による表現と比較して容易なことではりません。

身体の動作によって表現する舞踊の場合には,言語とは異なる上記特徴があるため,判決では,個性の表れを認めることができない場合を多数挙げ,さらに,個性が認められる場合であっても数秒程度の時間で表現されるものは著作権によって保護されることはないと判断しているのだろうと思います。

しかし,一連のながれのある振付けの中で,一定の時間において個性が表れている部分が存在すれば全体を保護の対象にするというのであれば,結果として,本来保護しないとして除外されたフラダンスの動作を特定の者に独占させることになることを懸念します。

そして,第三者から見た場合に,著作権によって保護されるフラダンスと保護されないフラダンスの区別が容易ではなく,第三者に萎縮させ,結果として,著作権を主張する者が独占することができる範囲が不当に拡大することになる問題があると思うのです。

仮に,今回の判決によって保護される範囲が,今回問題となった特定の楽曲,特定の歌詞のもとで作者が振付けたとおりに踊った場合のみであるとすれば,著作権によって保護される範囲が不当に拡大することがないのでしょうが,今回の判決が,このような範囲に限定して保護するという判示しているのかについては必ずしも明らかではありません。

いずれにしても,今回の問題は,これから議論を尽くしていく必要があると考えています。

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