弁護士視点で知財ニュース解説

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ブランド時計の購入にまつわる法律問題

近時,非常に人気が高い高級ブランド時計。

オーデマ ピゲ,パテックフィリップ,ヴァシュロン コンスタンタン,ブレゲ,ランゲ&ゾーネといった老舗の五大ブランをはじめ,フランク ミュラー,ウブロ,ロレックス,オメガ,パネライなど世界的に著名な高額時計は枚挙にいとまがありません。

特に,リシャール ミルは,超高精度のムーブメント,大胆なデザイン,強気の価格設定,有名スポーツ選手とタイアップしたブランド展開力などにより,20年前に設立されたブランドでありなが世界的にも著名で,一度は手首に巻き付けてみたい一品ではないでしょうか。

本日は,これらの高額時計の購入にまつわる法律問題を解説していきたいと思います。

コピー商品の輸入


 先に列挙した時計に限らず,いわゆるブランド時計と言われる時計のメーカーの名称やロゴは,例外なく世界中で商標登録され,当然に,世界的にみても有力な市場といえる日本においても商標登録されています。

ですから,例えば,ロレックスという名前やロレックスのロゴを付した時計を製造する,販売する,販売のために展示するなどの行為を行うと商標権侵害となり,製造や販売などが差止められ,損害賠償の対象になり,故意に行っている場合には刑事罰の対象にもなります。

以前,フランク ミュラーのパロディ時計を製造,販売している「フランク三浦」という名称の商標登録が認められるかが裁判所で問題になったことがありました。

「フランク三浦」という名称は,明らかにフランク ミュラーを意識しており,販売している時計もフランク ミュラーの時計の形状やデザインを意識したものです。

フランク ミュラーが自社のブランドイメージを保護するため「フランク三浦」の商標登録を阻止したいと考えるのは当然のことで,特許庁では「フランク三浦」の商標登録を認めないと判断されました。

ところが,裁判所は,両社の一見して分かる商品の違い,価格設定,販売方法の相違などから,購入を検討する者が両社の商品を見間違えて購入することはないという取引の実情を考慮して,フランク ミュラーと「フランク三浦」は商標として類似しない判断し,「フランク三浦」の商標登録を認めました。

私は,大阪で弁護士を行っている関係で,一時期,「フランク三浦」の時計をされている方をよく見かけましたが,時計を凝視しなくても,明らかにフランク ミュラーの時計とは区別することができました。

おそらく,高額な時計を購入された経験のない方であっても両社の時計を間違えることはないと思いますし,特に,フランク ミュラーの時計を購入されている方が,「フランク三浦」の時計と見比べて「フランク三浦」を選択するということもあり得ないと思うのです。

知財に携わる弁護士としては,少し不謹慎かもしれませんが,「フランク ミュラーさん,大阪のシャレですやん。」,「これくらいは,よろしいでしょ。」と言いたくなるところです。

問題は,「フランク三浦」のように区別することができないブランド時計のコピー商品です。

世界的に著名な時計は非常に高額であるため,誰でも購入することができるものではありませんし,最近では,世界中でブランド時計がはやっており,正規代理店や百官店で目当ての時計を手に入れることも困難になっています。

そこで,購入が検討されるのがコピー商品です。

現在の商標法では,「業として」,商品などにロゴなど付する行為,ロゴなどが付された商品を譲渡,引き渡し,輸入するなどの行為を行う者のもとでは,付されたロゴ等は商標なのですが,「業として」行っていない者のもとでは,付された同じロゴなどが商標であると評価されません。

「業として」いない者のもとでは,商品に付されたロゴなどが商標でないわけですから,その商品を購入したり,輸入する行為は商標権侵害とはなりません。

他方,海外の業者は,業として輸出しているために,日本の商標法に違反する行為を行っていることになりますが,日本の法律は,海外に及びませんので,結果として日本の商標法が問題となることはありません。

この結果,自身で使用するために,海外の業者からブランド時計のコピー商品を輸入しても商標権侵害にならず,輸入することが認められているわけです。

コピー商品の個人使用目的での輸入については,youtube動画でも説明していますので,興味のある方は,一度ご覧になってください。

ところが,2021年5月に公布された改正商標法では,「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が商標法の「輸入」に含まれると規定されました。

なお,この法律は,2021年5月から1年6ヶ月以内に施行されることになっていますので,施行日が近づいています。

従来であれば,海外の業者が,海外で行う輸出には日本の法律が及ばないので問題なし,自身で使用する目的で行う輸入は商標権侵害にあたらないので問題なしで,自己使用目的のコピー商品の輸入は商標権侵害とはならず,商標権侵害品の輸入する禁止する関税法にも違反しなかったのですが,海外の事業者が,輸入しようとしている者を利用して,海外から日本にコピー商品を持ち込ませる行為が「輸入」にあたり,海外の事業者の日本における行為を商標権侵害と評価され,関税法との関係で輸入できなくなるわけです。

なお,改正商標法が施行されても,自身で使用する目的で行う輸入は商標権侵害にあたらないという解釈には変わりがありませんので,コピー商品を海外の業者から購入しても法律に違反するわけではなく,お咎めを受けることはありませんが,法律的に,代金を支払ったにもかかわらず商品を手に入れることができなくなります。

並行輸入品の販売

正規代理店などで購入困難なブランド時計が,プレミア価格で販売されており,正規代理店の価格の数倍の価格で販売されている時計もめずらしくありません。

それでは,並行輸入業者が国内で正規のブランド時計を販売する行為は,は商標法との関係で問題ないでしょうか。

結論から申し上げると,一定の条件を満たしている場合には,並行輸入品を日本で販売する行為は認められています。

「一定の条件」は,最高裁が示した基準になるわけですが,

  1. 外国における商標権者またはその商標権者から使用許諾を受けた者により,当該商標が適法に付されたものであること。
  2. その外国における商標権者と日本の商標権者が同一人または法律的もしくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,その商標が日本の登録商標と同一の出所を表示するものであること。
  3. 日本の商標権者が直接または間接的に商品の品質管理を行い得る立場にあることから,並行輸入品と日本の商標権者の商品とが,登録商標の保証する品質で差がないと評価されること。

海外で適法に販売されているブランド時計を日本に持ち込み,日本で販売する限りでは,最高裁が示した三要件をみたしていますので,日本で並行輸入を販売する行為は商標権侵害にあたりませんので問題ないということになります。

商標と並行輸入の問題は,youtube 動画においても説明していますので,興味のある方は参考にしてください。

並行輸入品販売店とのトラブル

最近では,並行輸入品販売店で,代金の大半を支払った上で入手困難なブランド時計を予約したが,何年たっても時計が手許にこないために支払った代金の返還を求めて,並行輸入販売店との間でトラブルになることが少なくありません。


予約した時計に対する情熱が冷める,予約した当時とは経済事情を大きく変化して予約した時計を購入する余裕がないなど,予約してから長い年月が経過すると,購入を断念したくなるのも無理はありません。


支払った代金の返金を求めることができるか否かは,時計の予約をした際の並行輸入品販売店との合意内容次第ですが,並行輸入品販売店は,通常,手に入ることが予定される期間を設定して,それを説明しているはずで,それが書面化されている場合には,事前の説明と異なり,それが社会通念上も甘受できない程度に至っている場合には,改めて相当期間を設定して通知し,その期間内に予約していた時計が引き渡されない場合には,予約を解消して支払った代金の返還を求めることができる可能性はあります。

ただし,多くの場合,引渡しが可能な年月日を特定せず,仮に特定されていても,それは引渡しを保証するものではないと記載された書面を取り交わした上で予約していることが多いと思いますので,予約の解消は困難なことが多いのではないかと考えています。

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