弁護士視点で知財ニュース解説

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リーチサイト「はるか夢の址」運営者に実刑判決

cont_img_39.jpg1月17日,大阪地裁で,リーチサイト「はるか夢の址」の運営者3人に対して,それぞれ懲役3年6カ月,懲役3年,2年4カ月の実刑判決が言い渡されました。

執行猶予が付されることなく3年以上の刑が下されるというのは,著作権侵害に対する刑事罰としては極めて厳しい判決であると思います。

様々なメディアの報道内容を見ると,リーチサイトの運営行為のみよって今回の刑事罰が下されたと誤解するようなものも少なくありませんが,そういうわけではありません。

今回,起訴された事実には,2016年から2017年にかけて,権利者の許可を得ることなく,コミック「ナルト」などをインターネット上で公開していた行為が含まれており,純粋に,リーチサイトを運営していたことで刑罰が科されたわけではありません。

コミックの違法アップロードについては,著作権法に,10年以下の懲役又は1000万円の罰金(懲役刑と罰金刑がともに科されることもあります。)を科す旨の規定がありますので刑罰を科すことが可能であったわけです。

リーチサイトは,著作権侵害を助長し,それによって収益を得ていることから,著作権法を保護する観点から放置できない行為ではあります。

しかし,リーチサイトの運営者が,違法サイトの運営者と共謀し,共謀正犯,あるいは,ほう助犯と認められない限り,違法サイトに誘導するリーチサイトを運営しているだけでは,罪刑法定主義(刑罰規定の類推適用禁止)の観点から刑罰を加えることはできません。

そして,個人的には,違法サイトに誘導するリーチサイトを運営しているだけでは,差止めや損害賠償(民事事件)の対象にもならないと考えています。

民事事件での著作権侵害の主体(著作権侵害を行ったと評価できる者)は,拡大されてきたという歴史があります。

当初,カラオケスナックの経営者が著作権侵害の主体と評価できるかという問題が裁判所において議論されました。

著作権を侵害しているのは歌っている客であり,店側は,機械を操作し楽曲と歌詞を提供しているだけであり著作権を侵害していないのではないかという議論です。

しかし,最高裁は,店側が楽曲や歌詞を提供し,客が心地よく歌唱することができる環境を積極的に醸成しているなどの点をとらえて店舗経営者の著作権侵害を認めました。

時代がわかりカラオケスナックからカラオケボックスが主流になると,カラオケボックスの経営者が著作権を侵害しているといえるのかという問題が発生しました。

カラオケボックスでは,機械を操作するのもお客さんであり,経営者の関与の程度がより少ないということで問題となりました。

しかし,東京地裁では,経営者の管理下で顧客が歌唱していること,経営者はそれによって利益を得ていることから,著作権侵害の主体をカラオケボックスの経営者である判断しました。

そして,インターネット掲示板が盛んに利用されるようになると,掲示板で著作権を侵害する記事が掲載された場合に,掲示板の運営者が著作権を侵害しているといえるかという問題が発生し,東京高裁では,掲示板の運営者には,投稿者に著作権を侵害する記事を掲載しないように注意を喚起するだけでなく,実際に書込みが行われた場合には適切な是正処置をとる義務があり,著作権侵害の主体として掲示板の運営者も含めるという判断が下されました。

カラオケボックスやインターネット上の掲示板の運営者が著作権侵害の主体と評価されたポイントとして,これらの者が,管理者として支配下にある「ところ」で著作権侵害が行われていることと,それによって収益を得ているということです。

この二つのポイントがリーチサイトに当てはまるかといいますと,管理者として支配下というところがあてはまりません。

著作権侵害の主体性が広範になりすぎ,意図しない対象にまで及ぶ可能性があるため,「管理者として支配下におく」という要件を取り除く,あるいは,要件を緩和するべきではないと考えています。

違法サイトのリーチサイトは,著作権法によって解決されなければならない問題ではありますが,著作権法を改正した上で解決すべき問題であると考えています。

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