弁護士視点で知財ニュース解説

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リツイート者の発信者情報の開示(最高裁令和2年7月21日判決)

cont_img_56.jpgリツイート者の発信者情報の開示に関する重要な最高裁判決が下されました。

ツイートした者が,写真家に無断で,写真家が撮影して自身のウェブサイトにアップしていた写真の画像を複製し,ツイッター上にアップしていたところ,それをリツイートした者も写真家の著作権を侵害する情報を記録した者として発信者情報開示の対象となるかが問題となりました。

リツイートそのものは,写真家の写真画像を複製,公衆送信,公衆送信可能な状態に置く,譲渡,貸与,翻案する行為ではありませんので,写真家のこれらの権利を侵害しているわけではありません。

ただし,元の写真画像には,©マークとアルファベットで表記された写真家の氏名を付加されており,ツイートされたものにも同一のマークと氏名が表示されていました。 ところが,リツイートの際のトリミングによって写真の上下が一部削除されたことにより,リツイートした際に表示された画像には©マークとアルファベットで表記した氏名が表示されていませんでした。

写真家は,リツイートした者が写真家の氏名表示権を侵害している,そのような侵害情報を特定電気通信設備の記録媒体に記録しているとして,リツイートした者の氏名や住所等を開示するように求めたわけです。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条においては,「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,『侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき』,『当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき』に,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し,当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。」とされています。

それでは,リツイートの際に,トリミングによって写真家の氏名が表示されない写真画像が表示されることが,リツイートした者による氏名表示権の侵害にあたるのでしょうか。

また,リツイートした者は,侵害情報を特定電気通信設備の記録媒体に記録している者にあたるのでしょうか。st259.jpg

まず,著作権法19条1項では,「著作者は,その著作物の原作品に,又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し,そのが実名若しくは変名を著作者名として表示し,又は表示しないこととする権利を有する。」と規定されており,同条2項では,「著作物を利用する者は,その著作者の別段の意思表示がない限り,その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示することができる。」と規定されています。

ツイッター側は,著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,著作権法が定める著作者の各権利(同法21条ないし27条)に係る著作物の利用に限定され,リツイートはこれら当たらないため,氏名表示権を侵害しないと主張しました。

これ対し,最高裁は,著作者人格権が著作者と著作物の結び付きに係る人格的利益を保護するものであるとの理由で,「著作物の公衆への提供若しくは提示」が,著作権法が定める著作者の各権利係る著作物の利用に限定されず,どのような方法であれ,公衆に提供,提示されていればよいと判断し,ツイッター側の主張を退けました。

また,ツイッター側は,リツイートの表示画像をクリックすると元画像を見ることができ,元画像には©マークや氏名が表示されているので,「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」を行っていると主張しました。

しかし,最高裁は,リツイートのウェブページとは別個のウェブページに表示されているに過ぎない,ユーザーが表示画像をクリックして元画像を見るという事情もうかがえないとの理由で,リツイートした者が著作者名を表示したことにならないと判断し,リツイートした者が写真家の氏名表示権を侵害していると結論づけました。

さらに,ツイッター側は,リツイート者が,権利侵害となる画像データを記録媒体に記録しておらず,侵害情報の発信者ではないと主張したのに対し,最高裁は,リツイートした者の主観的認識いかんにかかわらず,リツイートにより,本件元画像ファイルへのリンク,リツイート画面の表示データをサーバーの記録媒体に記録してユーザーの端末に送信し,これによってリンク先である本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから同端末に元画像のデータを送信していることを理由に,権利侵害となる画像データを記録媒体に記録しているといえると判断しました。

そして,最高裁は,リツイートした者の発信者情報を開示することを認める判断を下したわけです。

この最高裁判決には反対意見が付されています。 それは,写真画像の無断アップロードをしたのはツイートした者であって,リツイートした者ではない,トリミングにより氏名表示部分が表示されなくなったのは,ツイッターのシステム仕様によるものであり,リツイート者は表示の仕方を変更することができず,ツイッターを運営する会社によって行われたものと評価できるというものです。

また,反対意見では,わいせつ画像や誹謗中傷画像等ではなく,一見しただけでは侵害画像であるか判断できない,本件のような写真画像の場合,リツイートする者は,出所や著作者の同意等について逐一調査しなければならないことになるが,このようなことをリツイートする者に強いると,社会的に重要なインフラとなっているツイッター等のSNSの利用を差し控えなければならなくなり不都合であると指摘されています。

反対意見で述べられていることは,全くそのとおりであり,リツイートをする者は,写真画像に手を加えておらず,氏名を表示するか否かを選択する術がないわけですから,そのようなリツイートをする者の行為をもって氏名表示権侵害の成立を認めるのは明らかに誤りであると思います。

また,今後,ツイートされた記事に写真,絵,まとまりのある文書などが掲載されている場合,それをリツイートする場合,これらの著作者に調査して,確認作業を行う必要が出てきますが,このようなことを行うことは事実上,不可能ですので,リツイートによる拡散を控えなければならなくなります。

個人的には,ツイートする方も,リツイートする方が発信者情報の開示の対象となり,著作権侵害を理由に訴えられる可能性があることから情報の発信を躊躇し,ツイートする方,リツイートする方の両方に過度な委縮効果をもたらすことになるのではないかと懸念しています。

ツイートをされる方は,自身の責任によって情報を発信するので,発信者情報の開示の対象になることを甘受するべきであると思いますが,情報を拡散するリツイートされる方が,これを甘受しなければならないというのは,承服しかねるところがあります。


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