弁護士視点で知財ニュース解説

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ブロックチェーンを利用した著作権管理

cont_img_01.jpg経済産業省は,楽曲や映像作品の制作者に関する情報をインターネット上で管理し,適切な対価が支払われる仕組み作りに乗り出すようです。

ミュージックビデオでは,作詞家,作曲家,編曲者,振付師,実演者など実に様々な人が関与して一つの作品ができあがっています

経済産業省では,ブロックチェーンの技術を用いて,一つの作品に関与した複数の者に,衡平に利益を分配したり,一括して著作権を管理するシステムを開発していく方針を締示しました。

ある楽曲の作曲者や作詞者などの情報を登録し,楽曲を編曲して演奏する別の作品が作られた場合には追加して登録する,その楽曲や歌詞に合わせた振付けが加われば登録していくというイメージで,ブロックチェーンを用いることで登録内容の真正が維持されているという設計です。

一つの作品に関わった複数の著作者に,作品に対する寄与度に応じて利益を分配できることや,楽曲や歌詞だけでなく,振付けや実演者の権利を保護することができることから,非常に有用なシステムであると思います。

ただ,登録されたものの全てが著作物であることを前提に,管理が行われていく懸念があります。

著作物とは,思想や感情を創作的に表現したもので,表現の方法には様々な方法があります。

同じ思想や感情が表現されたとしても表現方法が違うことによって,楽曲,歌詞であったり振付けという形で,私たちの目にふれるようになるわけです。

楽曲は,リズム,ハーモニー,メロディーによって構成され,歌詞は文字によって構成されており,それぞれの要素を選択して一つの作品を仕上げるのに,非常に多くの選択肢が存在するため,選択の幅が非常に広く,創作可能な範囲が広いといえます。

他方で,振付けは,人の体で実現可能な範囲で表現されるものですので,楽曲や歌詞と比較して,表現の幅が非常に狭く,創作可能な範囲も狭くなります。

この結果,楽曲や歌詞と振付けとでは,創作性有無の判断,つまり著作物であるか否かの判断に違いが出てきます。

例えば,映画「Shall we ダンス?」の社交ダンスの振付けが著作物であるかどうかが争われた東京地裁平成24年2月28日判決では,次のように判断されています。

  • 基本ステップは,ごく短いものであり,かつ,一般的に用いられるごくありふれたものであるため著作物性は認められない。
  • 基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることを考慮すると,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップに属するありふれたものとして著作物性は認められない。
  • 既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れたものは,既存のステップと組み合わせてダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものについては,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することから著作物性を認めるのは妥当ではない。
  • 基本ステップや基本ステップをアレンジしたもの,新たなステップを組み合わせるなどして一つの流れのあるダンスは,単なる既存のステップの組み合わせにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性が必要である。

振付けの創作性,つまり著作物性の判断が非常に厳格に行われていますが,これは,振付けには表現の幅に制限があるからなのです。

また,著作権法では,歌詞,楽曲や振付けの創作を行った著作者のほかに,著作物を舞い,演奏し,歌うなどを行う実演家も保護されています。

ここで,ポイントなのが,実演家が保護されるためには,実演家が歌っている瑕疵や演奏している楽曲,振付けが著作物であること,つまり創作的に表現されたと認められるものでなければなりません。

例えば,歌詞や楽曲が著作物であるものの,振付けが著作物と認められない場合,実演家の歌や演奏は著作権法により保護されますが,振付けの部分は著作権法により保護されないということになるのです。

今回,経済産業省が打ち出したシステムで一つの作品に関与した複数の者に,貢献度に応じて利益を分配する分には問題ないと思います。

作詞家,作曲家,実演家が,振付けが作品に貢献しているのであれば,著作物であると否とにかかわらず,振付けを作りだしたという労力を評価して利益を分配するということがあっても全く問題ないのですから,作詞家,作曲家,実演家が納得している限り,振付師に利益を分配することに問題がありません。

他方で,作品を管理するという側面からみると,経済産業省が打ち出したシステムは大きな問題を抱えていると言わざるを得ません。

振付けを含めた作品全体を管理し,作品に関与した複数の者の著作権を侵害していると警告し,警告を受けた者が作品の使用をやめ,損害を賠償した場合,警告を受けた者は,法的に使用することが認められる振付けの使用をやめ,利益分配と同一の基準で振付師にも賠償金が配当されることになると思います。

ところが,先ほどの東京地裁が示した,振付けの著作物性の判断を基準とすると,法的には振付けを使用することに問題ない,本来であれば振付師が賠償金を得ることがないにもかかわらず,前記したとおりの結果となってしまうわけです。

経済産業業者が打ち出したシステムは,画期的で非常に有用なシステムではあると思うのですが,権利の過剰行使や不当な利得を得る危険性をはらんでいるということに留意する必要があると思います。

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