弁護士視点で知財ニュース解説

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朝日新聞社 記事「盗用」発表

cont_img_48.jpg朝日新聞社は,北海道版に掲載された連載記事が,北海道新聞社出版の写真集の「事実上の盗用」にあたるとして,連載を中止し、記事を取り消すと発表しました。

朝日新聞社の記事は,「ひと模様 大道芸人 ギリヤーク尼ヶ崎さん」というこので,北海道函館市出身で,大道芸人歴50年のギリヤーク尼ヶ崎さんの人生を振り返るという内容の記事のようです。

朝日新聞社は,「事実上の盗用」にあたる部分を,北海道新聞社出版の写真集の文章と比較した対照表を発表しています。

記者の説明では,写真集の文章をもとにした「下書き」を予め用意し,取材の中で,下書き部分をギリヤークさんに確認してもらい,上書きするかたちで連載記事を作成したとのことです。

写真集の文章は,ギリヤークさんが口述し,執筆者が文章を作成したインタビュー記事なのですが,インタビュー記事の著作者が誰であるかというのは,口述者と執筆者のインタビュー記事への関与の内容によって決定されます。

口述者が単に素材を提供したに過ぎない場合には執筆者の単独著作物となりますし,口述者と執筆者の共同著作になる場合もありますし,口述者の発言が原著作物,インタビュー記事が原著作物を翻案した二次的著作物になる場合もあります。

北海道新聞社は,写真集の文章が北海道新聞社とギリヤークさんとの共同著作物であると発表しており,北海道新聞社としては,ギリヤークさんが,単に素材を提供した以上の関与をしているという認識をもっているようなのですが,いずれにしても,写真集の文章を利用するためには,北海道新聞社の承諾が必要になります。

さて,著作権は,著作物に対する複数の権利の総称なのですが,その中の権利として複製権,翻案権というものがあります。

最高裁は,「著作物の複製」を,「既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう。」と定義しており,「言語の著作物の翻案」を,「既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」と定義しています。

最高裁が示す翻案権の定義から,翻案権を侵害するか否かの判断は,「著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか否かによって判断されることになります。

一般的には,元になる著作物の創作性の程度が高く,または創作性が認められる部分が多く,新たな著作物に付加された部分の創作性の程度が低い,創作性が認められる部分の付加の量が少ない場合や,元になる著作物の要素が新たな著作物にとって必要な部分に使用され,不必要な部分に付加された要素が存在する場合には,翻案権侵害と評価される傾向にあります。

逆に,元になる著作物の創作性の程度が低く,または創作性が認められる部分が少なく,新たな著作物に付加された部分の創作性の程度が高く,創作性が認められる部分の付加の量が多い場合には,翻案権侵害ではないと評価される傾向にあります。

朝日新聞社が発表した対照表を前提しますと,明らかに複製権侵害と認められるもの,少なくとも翻案権侵害は認められるものがあります。

そもそも,事前に写真集の文章をもとにした「下書き」を用意していたという記者の説明を前提にすると,連載記事から,写真集の文章の表現上の本質的な特徴が見てとれるのは当然のことであり,少なくとも翻案権を侵害する記事になるのは必然ではないかと思うのです。

記者が取材をするにあたり,予め取材対象者を把握しておくことは必要な作業であり,例えば,写真集の文章に基づきギリヤークさん経歴を整理し,取材を行った上で記事を作成するということは認めらえることです。

しかし,写真集の文章に基づき記事の下書きを作成しておき,ギリヤークさんから確認を行い,下書きに手を加えるという行為は著作権法上認められない行為ですし,このような作業は,もはや取材と呼べるものでもありません。

朝日新聞社が危機感をもって,今回のような対応を行ったことも十分に理解することができます。

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