弁護士視点で知財ニュース解説

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企業の立体商標戦略(2)

cont_img_69.jpgところが,知財高裁が設けられた後,出願している立体商標と現実に市場で流通している商品との同一性が緩和されるようになりました。

知財高裁平成19年6月27日判決で問題となったマグライト(懐中電灯)や知財高裁平成20年5月29日判決で問題となったコカ・コーラのボトルについては,ラベルの有無や印刷文字等の有無,市場において流通せる上で必要となる変更が加えられていたとしても同一性が否定されることはないと判断されました。

これらの裁判例を受けて,「ヤクルトの容器」は,再び立体商標登録出願が行われ,特許庁の審査,審判において登録が認められることがありませんでしたが,平成22年11月に知財高裁が特許庁の審判を取消し,現在では立体商標として登録が認められています。

2018年8月8日付日経電子版の記事では,「ヤクルトの容器」が立体商標として登録されるまでの努力が紹介されています。

また,明治の「きのこの山」が,三度目の出願で立体商標として登録が認められ,三度目の出願では1300人強のうち約9割が形を見ただけで「きのこの山」だと認識したことを示す消費者アンケート結果を提出した例や,「スーパーカブ」が,古い宣伝ポスターや新聞記事,テレビ番組など段ボール二箱分の資料を提出した例が紹介されています。

これらの各社の努力は,「市場において長期間にわたり繰り返し販売されることによって識別性を獲得した」ことを立証することに向けられたものあり,識別性の立証が容易ではないことを示しています。

識別性の立証が容易ではない理由は,特定の商品を複数の事業者が競業することを前提に商標制度が存在するにもかかわらず,特定の商品の販売が特定の事業者に独占されるという結果を回避するためであり,商品形態を商標登録するという要請と,そのことにより商標の機能が予定されていたものから逸脱することを防止する要請とを調整する上で,やむを得ないことだと考えています。

また,最初の出願から登録まで10年を要したエルメスのバッグ「ケリー」と「バーキン」の例が紹介されており,エルメスも,日本でのメディアの記事や広告,各種の認知度調査の結果を提出していたことが紹介されています。

そして,エルメスでは,大量の模倣品の存在により,「ケリー」や「バーキン」の形態の独自性が失われ,他社のバックとの識別性がないと判断されることを回避するため,日本国内の模倣品排除を徹底して行った例が紹介されています。

偽物が市場に氾濫することによって独自性が失われる現象をダイリュージョン(希釈化)と呼ぶのですが,これにより商品形態の出所表示としての機能が否定された事例がギブソンギターです。

もともとギブソンギターは,独自の形態を有しており,ギターを取扱う事業者やギターの愛好家の間では,ギターの形態からそれがギブソン社製のものであると判断することができました。

ところが,日本では,ギター製造業者各社がギブソンギターに類似する形態のギターを安価で販売するようになり,ギブソン社が長年放置したためにギブソンギターに類似する形態のギターが市場にあふれるようになりました。

そのような状態に至ってから,ギブソン社は,日本で,類似した形態のギターの販売差止め,損害賠償を求める訴訟を提起したのですが,裁判所においては,既に日本の市場において,ギブソンギターの形態はギブソン社の商品であることを示す出所表示機能が失われていると判断され,ギブソン社の請求を退けました。

ギブソンギターの事例は不正競争防止法の事例ですが,出所を表示するものとして機能する商標についても同様のことがあてはまります。

エルメスは,商標登録出願を行ってから登録が認められるまでの10年間,出願手続において多大な努力を行っていただけでなく,市場においても出所表示としての機能(識別性)が失われることがないように,偽物排除に不断の努力を行っていたことが紹介されています。

2018年8月8日付日経電子版の記事で紹介された各社の努力の様子は,立体商標出願を検討している事業者にとって非常に参考になります。

識別性の立証との関係で,中小規模の事業者が商品形態を立体商標として登録することは非常に困難なことであり,商品形態の商標登録における課題であると言えます。

ただし,商品形態の商標登録を容易に認めるということは,他社の商品形態選択の余地を制限することになることを忘れてはいけません。

このような商品形態の商標登録の負の面にも配慮した制度運用を,これからも模索していく必要があるのです。

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