知的財産
知的財産

知的財産とは

知的財産とは,人の知的な活動の成果の総称です。

知的財産は,知的創作物と営業標識とに分類されると説明されていますが,この説明は正確ではありません。

知的財産には,創作性をともなうものと,創作性をともなわないもの,物として存在するものと,物として存在しないものることがあります。

また,知的財産の中には,知的活動の成果であるとともに,営業標識として機能するものもあります。

そして,知的財産は,人の知的な活動の成果の総称ですので,時代の流れとともに,知的財産という言葉によって表現されるものは拡大していくわけです。

知的財産権の種類

知的財産とは,人の知的な活動の成果の総称で,時代の流れとともに対象が拡大していくものですので,知的財産の種類を限定的に列挙することはできません。

日本には,知的財産の創造,保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進することを目的にした知的財産基本法という法律があります。

知的財産基本法では,知的財産を,発明,考案,植物の新品種,意匠,著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって,産業上の利用可能性があるものを含む。),商標,商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと定義されています。

知的財産は,上記したものに限りませんが,知的財産には,どのようなものがあるかということを理解する上で非常に参考にはなります。

知的財産の中には,行政庁への登録手続を行い,登録されてはじめて保護されるものと,登録手続を経ることなく当然に保護されるものがあります。

ちなみに,特許庁での登録によって発生する権利のことを産業財産権といいます。

そして,法律によって保護されることが定められているものと,判例によって保護されること確認されているものがあります。

また,知的財産は,権利として直接保護されるものと,特定の行為が禁止されることの反射的効果として保護されるものがあります。

特許権

特許権とは,特許法によって保護される権利で,特許発明を業として独占的に実施することができる権利です。

特許法では,特許を受けた発明のことを特許発明といい,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいうと定められています。

つまり,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもので,特許を受けたものだけが,特許権によって保護されるわけです。

ちなみに,発明は,技術的思想であって物として存在するわけではありませんので,特許発明も物として存在するわけではありません。

特許を受けるには,特許庁に出願を行って,当該発明が,公知の技術ではないこと(新規性の要件),その発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が,公知技術から容易に想到することができないこと(進歩性の要件)が認められなければなりません(登録要件)。

また,当該発明が,公の秩序,善良な風俗や公衆の衛生を害するおそれがないことも必要となります(不登録要件)。

特許庁において,これらの要件をみたしていると判断されて登録された発明だけが特許権によって保護されるわけです。

ただし,特許庁において登録されたとしても,出願の際に提出した願書の記載内容が特許法に定められた基準をみたしていない,出願時には新規性の要件や進歩性の要件が備わっていると判断されたものの,これらの要件がみたされていない場合,特許庁に申立てる(無効審判の申立て)こととで特許を無効にすることができます。

また,無効審判の申立てを行わなくても,特許権が,そのような特許発明に基づいて特許権を行使して裁判を申立てた場合,訴えられた相手方は,当該特許発明が特許庁において無効にされるべきものであると主張して,特許権の行使を阻止することができます。

特許権侵害の判断方法については,以下の動画で確認してください。

特許権侵害とは、どのような状態をいうのかについて【特許法・特許権】- Youtube

実用新案権

実用新案権とは,実用新案法によって保護される権利で,登録実用新案を業として独占的に実施することができる権利です。

実用新案法では,実用新案登録を受けた考案を登録実用新案といい,考案とは,物品の形状,構造又は組合せに関する自然法則を利用した技術的思想の創作をいうと定められています。

つまり,物品の形状,構造又は組合せに関する自然法則を利用した技術的思想の創作で,実用新案登録を受けたものが,実用新案法によって保護されるわけです。

ちなみに,考案は,発明と同様に技術的思想ですので,物として存在するわけではありません。

実用新案権は,特許権と同様に,特許庁に出願し,登録されることで権利が発生するのですが,特許権のように新規性の有無などの実体審査が行われることがありません。

物品の形状,構造又は組合せに関する考案は,願書の形式が整っていれば登録されるわけです。

ただし,実用新案権を行使するには,特許庁に実用新案技術評価の請求を行い,登録要件を備えているか否かの審査を受ける必要があります。そして,権利を行使する前に,実用新案技術評価書を提示して警告を行う必要があります。

そして,実用新案技術評価においては,新規性の要件,進歩性の登録要件や不登録要件等の有無が判断され,これらの要件がみたされていると判断されない限り,権利行使することができません。

また,実用新案技術評価によって登録要件が認められると判断されたとしても,特許発明と同様に,無効審判の申立てにより無効となることがありますし,裁判において権利行使ができなくなる場合があります。

実用新案権侵害の判断方法は,特許権侵害の判断方法と同じです。

意匠権

意匠権とは,意匠法によって保護される権利で,登録意匠及びこれに類似する意匠を業として独占的に実施することができる権利です。

意匠法では,意匠登録を受けた意匠のことを登録意匠といい,意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩若しくはこれらの結合,建築物の形状等,又は画像であって,視覚を通じて美観を起こさせるものをいいます。

物品,建築物,画像は,全体だけでなく,それぞれの部分も含まれます。

また,画像は,機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限ります。

物品や建築物の意匠は,物品や建築物と一体不可分の関係にあると理解されているので物として存在しますが,画像の意匠は,物として存在するわけではありません。

意匠登録を受けるには,特許庁に出願を行って,当該意匠が,公知の意匠,公知の意匠と類似する意匠ではないこと(新規性の要件),その意匠に係る物品等を製造したり販売したりする業界において,その意匠の属する分野において通常の知識を有する者が,公知意匠から容易に創作することができないこと(創作非容易性の要件)が認められなければなりません。

また,当該発明が,公の秩序,善良な風俗や公衆の衛生を害するおそれがないこと,他人の業務に係る物品,建築物又は画像と混同を生じるおそれがないこと,物品の機能を確保するために不可欠な形状,建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる,画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠でないことが必要になります。

ちなみに,これらの意匠が登録されない理由は,意匠権によって物品の機能そのもの,建物や画像の用途そのものを保護することがないようにするためです。

特許庁において,これらの要件をみたしていると判断されて登録された意匠だけが意匠権によって保護されるわけです。

ただし,特許発明と同様に,無効審判の申立てにより無効となることがありますし,裁判において権利行使ができなくなる場合があります。

意匠権侵害の判断方法については,以下の動画で確認してください。

商品のデザイン保護 1【意匠法・不正競争防止法・特許法】- Youtube

商標権

商標権とは,指定商品又は指定役務について独占的に登録商標を使用する権利です。

また,指定商品又は指定役務について登録商標と類似する商標,類似する指定商品又は指定役務について登録商標と同一の商標,類似する指定商品又は指定役務について登録商標と類似する商標を使用することを禁止する権利が別途認められています。

商標法では,商標登録を受けた商標のことを登録商標といい,商標とは,人の知覚によって認識することができるもののうち,文字,図形,記号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音その他政令で定めるものであって,業として商品を生産し,証明し,又は譲渡する者がその商品について使用をするもの,あるいは,業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするものと定められています。

特許権,実用新案権,意匠権は,人の創作活動の成果を保護する権利であるのに対し,商標権は,営業標識を保護する権利です。

商標登録を受けるには,商標法に定められた6つの登録要件をみたし,19の不登録要件に該当しないことが必要になります。

特許庁において,全ての登録要件をみたし,全ての不登録要件に該当しないと判断されて登録された場合にのみ商標権を行使することができます。

ただし,特許発明と同様に,無効審判の申立てにより無効となることがありますし,裁判において権利行使ができなくなる場合があります。

著作権

著作権とは,著作者に与えられる権利のことです。

著作者は,特許などと違って何らの手続を行わなくても,当然に著作権を得ることができます。

著作権法において,著作者は,著作物を創作する者,著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものと定められています。

著作権法では著作物が例示されており,著作権法で例示された著作物は,次のとおりですが,以下のもの以外でも,思想又は感情を創作的に表現したものである限り,著作物として保護の対象となります。

  1. ① 小説,脚本,論文,講演その他の言語の著作物
  2. ② 音楽の著作物
  3. ③ 舞踊又は無言劇の著作物
  4. ④ 絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物
  5. ⑤ 建築の著作物
  6. ⑥ 地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物
  7. ⑦ 映画の著作物
  8. ⑧ 写真の著作物
  9. ⑨ プログラムの著作物

著作権法で例示された著作物を見れば明らかなとおり,著作物の中には,物として存在するものと,物として存在しないものの両方が含まれています。

著作者は,著作物に対して著作権を有するわけですが,著作権には著作人格権と著作財産権とが存在します。

著作人格権には,公表権,氏名表示権,同一性保持権があります。

そして,著作財産権には,複製権,上演権・演奏権,上映権,公衆送信権(公衆送信可能化権を含む。),口述権,展示権(美術の著作物,公表されていない写真の著作物に限る。),頒布権(映画の著作物に限る。),譲渡権(映画の著作物を除く。),貸与権(映画の著作物の複製物を除く。),翻訳権・翻案権があります。

著作人格権は,一身専属的な権利であるため第三者に譲渡することはできませんが,著作財産権は,第三者に譲渡することができます。

ただし,翻案権を譲渡するには,翻案権が譲渡の対象となっていることが明記されていないと譲渡の対象に含まれませんし,翻案権を譲り受けたとしても,同一性保持権の処理をしていなければ,当該権利を侵害することになるので注意が必要です。

ちなみに,著作権の全体像については,以下の動画で確認してください。

著作者の権利である著作権について【著作権法・特許法・意匠法】- Youtube

写真の著作物

ネット上で商品の売買が頻繁に行われるようになり,無断で他人の商品写真を使用することでトラブルになるということ頻発するようになりました。

裁判所では,長い間,写真の著作物を,「被写体の選択・組合せ・配置・構図・カメラアングルの設定」,「シャッターチャンスの捕捉」,「被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等)」,「陰影の付け方」,「色彩の配合」,「部分の強調・省略」,「背景」等の諸要素を,一枚の写真に創作的に表現したものと考えられていて,被写体の選定はあらかじめ定められ,被写体をありのままに撮影しただけの商品写真は,写真の著作物にはあたらないと考えられてきました。

ところが,知財高裁平成18年3月29日判決では,オートフォーカス・デジタルが主流となり,カメラレンズの選択,露光の調整,シャッタースピードや被写界深度の設定,明るさ等が自動で行われるようになったこと,構図やシャッターチャンスが人為的操作によるものか偶然の結果なのかの判断ができないことを理由に,撮影の結果得られる写真からのみ著作物性の判断を行い,撮影された写真に個性が現れていれば写真の著作物と認めると判示しました。

そして,商品写真を写真の著作物と認めました。

ただし,商品写真の著作権を極めて限定的に考えて,他人の商品写真を,ほぼそのまま利用した場合にのみ著作権侵害を認めると判示しました。

商品写真については,以下の動画でも説明していますので,参照してください。

商品写真【著作権・複製権侵害】- Youtube

ソフトウエアの保護

ソフトウエアは,プログラムの著作物として著作権によって保護されるとともに,特許庁に出願を行って登録されれば特許権によっても保護されることになります。

著作権による保護は,プログラムの著作物としての保護ですので,一定の作用・効果を実現するために現に制作されたプログラムが基準となるのに対して,特許権による保護は,技術的思想が保護の対象となるため,プログラムに関して,一定の作用・効果を実現するアイデアが基準となりますので,特許発明として登録することができるのであれば,特許権によって保護する方が,はるかに広い範囲の保護を受けることができます。

ただし,特許権による保護を受けるためには,プログラムに関して,一定の作用・効果を実現するアイデアが公知なものではなく,プログラムの作成に従事するものが,公知のプログラムを前提に,容易に想到することができないものでなければ特許発明として登録されませんので,特許権によって保護されるプログラムというのは限られたものになります。

他方,著作権による保護においては,一定の作用・効果を実現するために現に制作されたプログラムに,制作者の個性が現れていればよいので,保護の対象となるプログラムの範囲が広くなります。

ソフトウエアの保護を検討する場合には,上記した特徴を理解した上で,特許権により保護していくのか,あるいは著作権法によって保護していくのかを考える必要があるのです。

ゲーム

ゲームソフトは,最高裁において,映画の著作物にあたるとされています。

著作権法では,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」を「映画の著作物」に含むと規定されています。

ゲームはプレイヤーの選択により,極めて多くのストーリー展開があり得ますが,それも予め設定された範囲の中での選択にすぎませんので,上記した定義に当てはまるわけです。

ゲームが映画の著作物である以上,権利者の許可なく,私的な利用を超えてゲーム展開を録画する行為,ゲーム展開をネットで配信する,配信のためにアップロードする行為は,複製権や公衆送信権,公衆可能化権を侵害することになります。

ただし,ゲームメーカーの中には,ガイドラインを定め,一定の条件でゲーム実況を認めている場合があります。

任天堂は,個人に限定しているものの,発売または配信が開始されたゲームについては投降やストリーミング配信を認めており,発売または配信前のものは,任天堂が公開した動画・静止画に限定するという内容のガイドラインを定めています。

通常の方法で行われるゲーム実況は,ゲームメーカーにとってもマイナスではありませんが,必ずガイドライン等を確認して行なうようにしてください。

ゲーム実況については,以下の動画でも説明していますので参照してください。

ゲーム実況と著作権法の関係について【著作権法】- Youtube

営業秘密(営業情報・ノウハウ)

顧客名簿などの営業情報やノウハウといった技術情報を直接保護する法律は存在しません。

しかし,不正競争防止法では,営業秘密に対する一定の行為を不正競争行為と定め,当該行為が差止めや損害賠償の対象となっています。

このように,営業情報やノウハウは,一定の行為を規制することにより,その反射的効果として,間接的に保護されているわけです。

不正競争防止法においては,秘密として管理されている生産方法,販売方法,その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものを営業秘密と定義し,営業秘密を対象とした一定行為が不正競争行為と定められています。

不正競争防止法においては,以下の図で,赤色で示された行為が不正競争行為とされています。

営業秘密に関する不正競争得行為は,大きく分けて,情報保有者から,窃取などの不正な手段で取得した場合と,何らかの契約に基づいて正当に取得した場合とに分けることができます。

不正な手段で取得した場合には,取得の段階から不正競争行為にあたり,正当な手段で取得した場合には,取得した後の図利加害目的を有する行為以降が不正競争行為になります。

営業秘密の転得者は,不正取得あるいは図利加害目的であることにつき,悪意あるいは善意重過失となったとき以降の行為が不正競争行為となります。

営業秘密(営業情報・ノウハウ)

元従業員の転職や独立を契機に,従業員がもともと勤めていた会社と,元従業員や転職先の会社,新設した会社がトラブルに発展することが少なからずあります。

元従業員は,正当取得後の図利・加害目的の開示,転職先の会社や新設した会社は,図利・加害目的で開示されたことを知って,または,知らないことに重過失があって情報を取得して使用,あるいは,取得時には重過失が認められなくても,悪意または善意重過失の状態で使用を継続しているという不正競争行為にあたるとしてトラブルになるわけです。

転職や独立した元従業員が,もともと勤めていた会社から,当該会社が保有していた営業秘密を提供されていた場合,元従業員が当該営業秘密を,転職した会社や新設した会社に提供した場合,転職した会社や新設した会社が悪意,善意重過失の場合には,不正競争行為にあたります。

しかし,営業秘密は,秘密として管理された,有用な情報で,かつ,非公知でなければなりませんが,多くの場合で,秘密として管理されたという要件が満たされていません。

また,そもそも,元従業員が,勤めていた会社の業務を行う中で獲得した営業上,技術上の情報であって,勤めていた会社が保有する情報を提供されたものではないということが少なからずあります。

仮に,問題となっている情報が,技術上の情報で,それが自然法則を利用した技術的思想である場合には,それは特許法上の職務発明となって,原始的に元従業員に帰属し,元従業員が勤めていた会社が,元従業員から特許を受ける権利を譲り受けていない限り,元従業員が務めていた会社が保有する情報ではありませんので,不正競争行為にあたらないことに留意する必要があります。

詳細については,以下の動画を参照してくだい。

退職した従業員と営業秘密との関係【不正競争防止法、特許法】- Youtube

職務発明

職務発明とは,従業員がした発明であって,その発明の性質上,使用者(当該従業員を雇用している会社や個人)の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに至った行為がその使用者における従業員等の現在又は過去の職務に属する発明を言います。

発明は,発明を行った者に原始的に帰属します。

使用者は,従業員が行った発明が職務発明にあたる場合にのみ,特許を受けた発明を無償で実施することができるだけです。

従業員が業務命令に基づいて行った発明であったとしても,賃金を支払っているという理由で当該発明が使用者に帰属することはありません。

仮に,使用者が職務発明を,使用者のものとして特許出願すると,他人の発明を無断で特許出願(冒認出願)したことになり,従業員は,特許を受ける権利や登録された特許発明を従業員に移転するように求めることができます。

また,冒認出願は,特許無効理由となりますので,登録された特許発明が無効になってしまいます。

ただし,特許法では,使用者が,就業規則などで,予め特許を受ける権利を承継することを取り決めておくこと(予約承継)を認めています。

予約承継の定めがありますと,職務発明は,原始的に使用者に帰属することになります。

そして,予約承継の定めがある場合には,従業員には,使用者から相当の利益を受ける権利が与えられます。

ここで,「相当の利益」の決定は,使用者側で一方的に決定することはできませんし,職務発明を使用者に承継する対価として合理的なものでなければなりません。

つまり,相当な利益は,使用者と従業員等との間の自主的に取決められ,その内容に合理性が求められるわけです。

仮に,相当な利益の決定方法が,使用者と従業員との自主的に取決めに基づくものでない場合や,相当な利益に合理性が認められない場合には,従業員は,使用者に対して,相当な利益の支払いを求めることができます。

使用者には,もともと職務発明を無償で実施する権利がありますので,使用者は,職務発明を承継したことで独占的に実施することができた利益と無償実施することができた利益の差額を,従業員の貢献度に応じて,従業員に支払うことが求められるわけです。

有名な青色発光ダイオード事件では,このような考え方に基づいて,従業員に支払うべき利益が200億円であると判断された裁判例があり,その他にも高額な支払いを認めた裁判例が存在します。

このようなことにならないためにも,職務発明を使用者に帰属させる場合には,自主的な取決めに基づいて合理的な相当の利益を提供することを定めておく必要があるのです。

ちなみに,自主的な取決めに基づいて定める合理的な相当の利益は,職務発明を承継したことで独占的に実施することができた利益と無償実施することができた利益の差額を,従業員の貢献度に応じて算定して支払う必要はありません。

また,報奨金などの金銭の支払いだけでなく,海外留学の機会を提供する,使用者等の株式を有利な条件で購入する権利(ストックオプション)を付与する,しかるべきポストに就ける,これらの複数を提供してもよいわけです。

デザインの保護

商品などのデザインを保護するデザイン保護法というものが存在しませんので,既存の法律を駆使して保護していく必要があります。

商品などのデザインを保護するために検討しなければならない法律は,意匠法,商標法,著作権法,不正競争防止法,民法になります。

意匠法や商標法によって商品などのデザインを保護するためには,予め特許庁に対して出願を行って登録しておく必要がります。

ちなみに,意匠は,公知の意匠や公知の意匠と類似する場合や,公知の意匠から容易に創作することができる場合には登録されません。

また,商品などのデザインを立体商標として登録するには,長期にわたって使用されることで,出所を表示するものとして認識されていることが必要になります。

これらの要件をみたさない,あるいは,事前に登録手続を行っていなかったという場合には,著作権法や不正競争防止法による保護を検討することになります。

商品などのデザインが著作物であると認めるための要件として,裁判所では,長らく,単に個性が表現されているだけでなく,「本来の用途から離れて,独立に鑑賞の対象となる」という要件が求められてきましたが,知財高裁平成27年4月14日判決では,デザインチェアーについて「本来の用途から離れて,独立に鑑賞の対象となる」の要件が不要であると判断し,個性の表現が認められれば著作物と認めると判断しました。

ただし,上記判決では,保護範囲を極めて限定的にして,完全なコピーといえるような場合にだけ複製権を侵害すると判断しています。

他方で,デザイン書体が著作物であるか否かを判断した最高裁平成12年9月7日判決では,書体としての利用を離れて,「独立に鑑賞の対象となる」という要件を求めています。

商品デザインについて,最高裁判決がありませんので,断定的なことはいえませんが,商品については,「独立に鑑賞の対象となる」という要件が不要で,より自由利用の要請の高い文字に関するものについては「独立に鑑賞の対象となる」という要件が必要という整理で落ち着くのかもしれません。

不正競争防止法では,他人の商品形態と実質的に同一の商品形態を譲渡等する行為が不正競争行為と定められていますので,商品のデザインを保護するにあたり不正競争防止法は極めて有効な法律といえます。

ただし,不正競争防止法でこのような規定が設けられた趣旨は,先行して投下した資本の優先回収にあることから,不正競争行為の対象となる商品形態には,従前の商品には存在しなかった部分が必要になります。

また,上記した趣旨から,従前の商品に存在しなかった部分を開発するために,優先的に回収させてあげないといけない程の資本の投下が行われている必要があります。

これは,結果的に,従前の商品には存在しなかった部分に開発者の創意工夫が存在することを求めていることと等しいと,個人的には考えています。

ちなみに,商品形態に関する不正競争行為は,が市場に登場してから3年以内の商品が対象となりますので,3年を経過した場合には,不正競争防止法により保護することはできません。

商品形態に関する不正競争行為に該当しない場合には,出所表示に関する不正競争行為を検討することになります。

商品の形態は,長期にわたり販売したり,短期間であっても強烈な宣伝広告を行うことによって,商品の形態を見れば,誰の商品であるか判断できるようになります。

このような商品の形態には出所表示機能が備わっており,この点を捕えて出所表示機能に関する不正競争行為として保護を図っていくことになります。

ちなみに,出所表示に関する不正競争行為が成立するには,出所表示としての周知性,需要者に混同のおそれを惹起させていることが必要になります。

ところで,商品形態が出所表示機能を備えているということは,他の商品形態と区別することができるということですから,他の商品にはない特徴的な部分というものが必要になります。

つまり,商品形態が開発されたときは当然のこと,その後も,他の商品が採用していない部分が存在し,当該商品と他の商品を区別することができる必要があるわけです。

ここまで見てきたとおり,商品のデザインは,意匠法,商標法,著作権法,不正競争防止法を駆使して保護していくわけですが,残念ながらいずれの法律によっても保護されない場合もあります。

その場合であっても,類似の粗悪品を販売され,営業上の信用が毀損されている場合には,民法に基づいて損害賠償が認められることがありますので,最終的には,営業上の信用の毀損の有無まで検討する必要があります。

商品などのデザインの保護は,動画でも説明していますので,参照してください。

商品化権

商品化権とは,コミック,アニメ,映画,テレビドラマなどに登場するキャラクター,実在する人物や動物,建築物等の形状,名称,題名等を商品化したり,宣伝,サービス等に使用させる権利などをいいます。

キャラクターや実在する人物や動物等には,顧客を引き付ける力(顧客吸引力)があるため,商品などの販売数を増加させる効果を期待して商品化が行われるわけです。

キャラクターの絵は,著作物にあたりますし,多くのキャラクターの容姿が商標登録されていますし,商標登録されていなくても不正競争防止法上の出所表示にあたる可能性があります。

キャラクターの名称の多くは,商標登録され,商標登録されていなくても不正競争防止法上の出所表示にあたる可能性があります。

コミック,アニメ,映画,テレビドラマの題名も,様々な商品などを対象にして商標登録が行われています。

また,最高裁において,顧客吸引力を有する著名な人物の氏名や肖像等は,パブリシティ権として,排他的に利用する権利が認められ,氏名や肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する,商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する,肖像等を商品等の広告として使用するなどの場合に損害賠償等を認めるとされています。

他方,動物や建物などの物が有する顧客吸引力の保護については,最高裁で否定されています。

パブリシティ権や物が有する顧客吸引力の保護については,以下の動画でも開設していますので,参照してください。

コミック,アニメ,映画,テレビドラマなどに登場するキャラクター,実在する人物の形状,名称,題名等は,様々な法律で保護の対象となっていますので,権利者から商品化権の設定を受ける必要があります。

また,動物や建物等の物の形状や名称が有する顧客吸引力は,法的な保護を受けることができませんが,写真や絵画として存在させることで著作権の問題が発生したり,名称が商標登録されている可能性もあるため,商品化権の設定を受けるのが無難といえます。

まとめ

ここでは,知的財産権について,基本的な内容について一部紹介しましたが,実際に発生するトラブルの解決や,トラブルを回避するための対策を行うためには,ここに記載することができなかった様々な知識や,経験が必要になります。

当事務所では,あらゆる知的財産を取扱っていますので,遠慮なく当事務所にご連絡ください。

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