ブロッキングにより海賊版マンガサイト「漫画村」が閉鎖されて約4カ月になり,海賊版対策有識者会議による「中間とりまとめ」に向けた議論が佳境に入っています。
「漫画村」を閉鎖に追い込んだブロッキングは「DNSブロッキング」といわれているものです。
これは,DNSサーバーがIPアドレスを問い合わせたユーザーに対してダミーのIPアドレスを回答し,本来のサーバーと異なるサーバーに誘導し,警告画面などを表示させる方法で,ユーザーが特定のサイト(海賊版サイトやリーチサイト)のIPアドレスを求めていることを知得することが前提になります。
ところが,電気通信事業法では「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない。」と定められ,最高裁では,「通信当事者以外の第三者が,通信の内容又は存在を知得・窃用し,または,秘密を知得した者が第三者にこれを漏洩すること」と判断されています。
よって,「DNSブロッキング」は,「通信の秘密」を侵害することになるのです。
このような法的に問題を抱えた「DNSブロッキング」ですが,海賊版サイトやリーチサイトへのアクセスを直接的に遮断することになるため非常に効果が高いといわれている一方で,効果が一時的で抜本的な対策にならないとも言われています。
事実,「漫画村」が閉鎖された後,漫画の表紙のみをサイトに張り付け,違法データが保管されているサイトのURLを載せるといった海賊版サイトともリーチサイトともいえるような新たな形の違法サイトが出現しており,急激にアクセス数を伸ばしています。
このサイトでは,画像の保管に,写真共有を目的としたコミュニティサイトを使用していたことから,出版社がコミュニティサイトに削除を求め,コミュニティサイトがこれに応じたため使えない状態になりましたが,数日後には再度違法データがアップロードされているようです。
海賊版サイトは,表立ってURLを公表しておらず,リーチサイトを介して閲覧者を誘導しています。 そして,リーチサイトでは,海賊版サイトのURLのみを掲載しており,現在のところ,リンクの貼付けのみでは著作権侵害にならないという考え方が主流となっているためリーチサイトが野放しの状態にあります。
まず,専ら海賊版サイトに誘導することを目的としたリーチサイトを法規制の対象とする必要があります。
また,リーチサイトは,広告掲載料を主な収益源としていますので,これを断ち切る必要があります。
この点,広告関連団体がリーチサイトへの広告掲載を呼び掛けたとしても,広告掲載を行う業者の多くがこのような団体に加盟していないこともあり効果が薄いと言われています。 専ら海賊版サイトに誘導することを目的としたリーチサイトに金銭を支払って,広告を掲載する行為も法規制の対象に含めることを検討する必要があるのではないでしょうか。
現在の著作権法では,違法にアップロードされたコンテンツを,違法にアップロードされていることを知りながらダウンロードしてPCなどに保存する行為(複製)は違法とされていますが,ここで対象となるコンテンツは,「録音され,又は録画された著作物など」(音楽や動画)に限定されており,マンガは含まれていません。
違法アップロードされたコンテンツを,それと知ってダウンロードする行為の法規制は,当然にマンガや雑誌などにも拡大すべきであり,早急に法改正が行われるべきです。
ところで,現在では,音楽や映画が違法アップロードされて拡散されるという行為は減少していますが,これは,上記した著作権法の改正によるものではなく,音楽業界や映画業界がネット上において正規版の流通に努力してきたからであると言われています。
他方で,マンガ業界は,音楽業界や映画業界が行っているようなネット上での市場努力が足りないと言われています。
マンガは,海賊版のダウンロードに関する法規制が行われていないという環境下で,マンガ業界がネットに背を向けてきたという不作為が,現在の惨状を生み出している最大の理由であると思います。
リーチサイトやリーチサイトに資金を提供する業者の法規制,海賊版ダウンロードの法規制,マンガ業界のネット上での自助努力による海賊版駆逐には時間がかかると思います。
マンガ業界は,「DNSブロッキング」を合法化する法律の制定が強く要望しており,これが認められなければ業界が衰退すると主張しています。
確かに,マンガは,日本が世界に誇れる文化の一つであり,このような文化を支える業者が衰退してよいはずがありません。
しかし,「DNSブロッキング」を導入しなければマンガ業界を保護することができないでしょうか。 音楽業界や映画業界がなし得た海賊版の排除をマンガ業界では行えないという事情があるのか(「DNSブロッキング」導入の立法事実が存在するのか)ということを,よくよく議論してもらいたいところです。