弁護士視点で知財ニュース解説

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種苗法違反有罪判決破棄

cont_img_50.jpg広島高裁松江支部は,平成30年11月9日,種苗法違反により懲役1年6月,執行猶予4年,罰金200万円を言い渡した鳥取地裁の判決を取消し,審理を鳥取地裁に差戻しました。

種苗法という法律は,あまり聞きなれない法律ですが,植物の新品種の保護等を目的とした法律です。

植物の新品種は,日々の研究によって生み出されるものであり,発明などと同様に,多くの時間や労力,資金を投入したことの成果物です。

このような植物の新品種が,第三者によって自由に模倣することができると,植物の新品種を生み出そうとするインセンティブを削いでしまうことになります。

そこで,種苗法は,発明と同様に,新品種の登録出願が農林水産省に対して行われ,審査請求が行われた結果,登録の要件が備わっていると判断された場合に品種登録が認められます。

そして,品種登録が認められると育成者権が付与され,育成者権は,原則,登録の日から25年間存続します。

権利者は,登録された新品種について,以下の各行為を独占的に行うことができます。

  1. 登録された品種の種苗を生産し,調整し,譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為
  2. 登録された品種の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し,譲渡若しくは貸渡しの申出をし,譲渡し,貸し渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(1に記載された行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合)
  3. 登録された品種の加工品を生産し,譲渡若しくは貸渡しの申出をし,譲渡し,貸し渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(1,2に記載された行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合)

そして,故意に育成者権を侵害した場合には,特許権等と同様に刑事罰の対象となります。

ところで,新品種として登録が認められるための要件の一つに,公然と知られた他の品種と「特性」の少なくとも一部が明確に異なること(区別性)があります。cont_img_34.jpg

この区別性については,出願の際に,説明書を添付し,類似の品種と明確に区別される品種の形質及び特性を記載することによって示す必要があります。

特定の品種の形質は,植物の外観から判別することができるものであれば判断に苦慮するということはありません。 しかし,外観から判断することが容易でない生態的形質については,当該品種に属する農林水産植物の種類についての知識や,既存品種と特性の異なる新品種の育成に精通していなければ判断ができません。

今回の事件では,弁護側は,問題となる品種がキリンソウ種として登録されているが,実際はタケシマキリンソウ種に属するため,区別性の要件が満たされていないとして品種登録が無効であり,育成者権を侵害した事実は存在しないとして無罪を主張していました。

そして,広島高裁松江支部は,鳥取地裁が育成者権の無効理由が存在するか否かにつき審理が尽くされていないとして,審理のやり直しを命じたわけです。

日本で改良された農作物は世界中で評価されるようになり,海外で生産され日本に逆輸入されることが多くなってきました。 それにともない,育成者権に基づく逆輸入品の流通を阻止する必要性が高まっており,あまり知られていない種苗法が脚光を浴びるようになりました。

世界での日本の農作物に対する評価の高まりとともに種苗法の重要性は増していきます。 これを機に,種苗法に対する知識を身に着けておくべきではないかと考えています。

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