弁護士視点で知財ニュース解説

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違法ダウンロード著作権法改正案の項目から削除 自民党方針決定

cont_img_56.jpg政府が今国会提出を目指す著作権法改正案から,自民党が違法ダウンロードに関する項目の削除を求める方針を固めたことが報道されています。

違法ダウンロードについては,動画や音楽について著作権法で定められていますが,これを静止画や論文等に拡大することが検討されており,実に多くの方面から批判や反対論がもちあがっていました。

ご存知のとおり,今回の法改正は,漫画村など,マンガを違法にダウンロードさせて多額の広告収入を得ていた問題が社会問題化したことがきっかけでした。

当初は,ブロッキングを法制化する動きがありましたが,ブロッキングには予め通信の存在を把握しておく必要があり,これが「通信の秘密」に反するとの批判を受け法制化が断念されました。

ブロッキングの法制化の次に出てきたのが違法ダウンロードの対象の拡大化でした。

こちらについても,最も被害を被っているマンガ業界から,次々に反対を表明する意見がもちあがり,違法ダウンロードの対象拡大についても法改正が暗礁に乗り上げそうになっていました。

違法ダウンロードの法制化に,当のマンガ業界を含めた多くの方から批判が出た理由は,その規制対象が広範に過ぎ,萎縮効果があまりにも大きくなりすぎるというところにありました。

ネット上では,「スクショも違法になる。」,「紙で印刷しても問題ないのに,スクショだと違法になる。」等,多くの方が日常的に行っている行為が規制の対象になり得ることに,不安や不満があふれ出すような状態になりました。

動画や音楽の違法ダウンロードが法制化される際,静止画やドキュメントが含まれなかったのは,違法なものと適法なものとの線引きが困難であるというのが一つの理由でした。

今般の法改正に向けた議論においても,この点の議論が十分に行われることがなく,法制化ありきで突っ走った結果が今回の結末であると思います。

規制対象を曖昧にしたまま法制化することの害悪は,最近の中学生らを補導した事件を見ると容易に理解することができます。

昔からあるイタズラで,JavaScriptに無限ループでアラートを出すプログラムがあります。

このプログラムのURLをネット掲示板に書き込んだ中学生らが不正指令電磁的記録供用未遂の疑いで家宅捜索を受けました。

無限ループでアラートを出すプログラムを知らない人にとっては,繰り返しアラートが表示され,パソコンを使用することができないと判断してしまう可能性があります。

ただし,この手の無限ループのプログラムは,タブやブラウザを閉じれば表示しなくなりますし,この手のアラートを次回から表示しないことを選択することができるシステムもあります。

おそらく,私程度のパソコンの知識しかない者であっても,JavaScriptの無限ループの存在を認識しているのですから,多くの人が知っているのだろうと推測されます。

ところが,刑法には,「正当な理由がないのに,人の電子計算機における実行の用に供する目的で」,「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」,「その他の記録を作成し,又は提供した者は,三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」という規定があり,これには未遂の処罰規定も存在します。

女性中学生らネット掲示板に書き込んだURLをクリックすると,無限ループでアラートを表示させ,パソコンを使用している者の意図に反する動作をさせているわけですから,上記した刑法の規定に該当する行為を行っており,そのプログラムを実行した者がいなかったとしても未遂罪で処罰されることになります。

しかし,今回の中学生らの行為が刑法の犯罪にあたるとして,可罰的違法性があるのかという問題があります。

現在の我々の感覚から言えば,可罰的違法性がなく,わざわざ警察が家宅捜査を行った上で,補導するまでのないのではないかという意見が大半を占めるのだと思います。

そもそも,刑法の規定は,コンピューターウィルスを拡散させる行為を取り締まるために設けられた規定で,立法化に向けた議論の中でも,対象となるプログラムが広範に過ぎるのではないかと意見もありましたが,現在の形で法制化が認められました。

法律による規制の対象が広範化した場合,規制の対象に含まれるが,それが罰を加えなければならないほど違法な行為であるかという判断を行う必要があります。

つまり,法を執行する側に広範な裁量を与えることになり,恣意的な法的適用の可能性が高まることになるわけです。

立法する側としては,このような余地を可能な限り狭める努力が必要になるわけですが,今回の違法ダウンロードの対象拡大に関する一連の経緯は,これを怠ったことの結果ではないかと思うのです。

立法化での議論が不十分であったため,違法ダウンロードの対象拡大に関する法改正は,非常にセンシティブな問題になったわけですが,無限ループでアラートを出すプログラムのURLをネット掲示板に書き込んだ中学生らが補導された事例は,違法ダウンロードに関する著作権法改正案をより困難にさせた思います。

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