弁護士視点で知財ニュース解説

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脱獄iPhoneの販売は商標権侵害なの?

中古のiPhoneに,非公式のアプリをダウンロードすることができるように改造した脱獄iPhoneが販売されていますが,2020年3月3日,脱獄iPhoneを販売して250万円の売上を得ていた少年が,故意の商標権侵害で京都府警に検挙されました。

cont_img_67.jpg商標法には,故意に商標権を侵害した場合の刑事処罰規定が設けられていて,刑罰の内容は,10年以下の懲役,1000万円以下の罰金,あるいはその両方が科されると規定されています。

それでは,どうして,商標が付された商品を改造して販売する行為が商標権を侵害することになるのかについて検討を行いたいと思います。

民事事件ではあるもののiPhoneの事件と類似する事件について裁判所で判断されたものがあります。

東京地裁平成4年5月27日判決です。

この事件では,任天堂のファミコンが改造され,それを販売する行為が商標権を侵害することになるのかということが問題となりました。

ファミコンに加えた改造の内容は,高速連射機能,ビデオ出力端子,ステレオ音声出力端子,スローモーション機能を付け加えるというものでした。

ただし,ファミコンには任天堂の登録商標が付されたままでしたが,改造して販売していた者は,自らの出所を示す表示として「HACKER JUNIOR」という表示も付していました。

東京地裁において,販売者は,次のとおりの主張を行いました。

  • 自らの出所を示す表示として「HACKER JUNIOR」を付しているので需要者は改造品を任天堂の商品であると誤解することはない
  • 任天堂が正規に販売したファミコンを中古品として購入しており,任天堂が最初に販売した時点で商標権は消尽している

この消尽論ですが,ファーストセール・ドクトリンとも呼ばれており,商品が転々売買されることを前提に,購入者,転得者,さらにその先の者に商標権を主張することができるとすると,円滑な取引が阻害されることになるため,権利者から合法的に取得した場合,それ以降の譲渡に商標権は及ばないという考え方です。

消尽論は,商標権についてのみ適用されるものではなく,最高裁は,特許権に関して判断した判例の中で,知的財産共通の原理であると判示しおり,国内取引に関する限り,全ての知的財産に適用されるものです。

以上の販売者の主張に対して,東京地裁は

  • 「HACKER JUNIOR」の表示が付されているが,任天堂の登録商標が付されているため,需要者が任天堂の商品であると誤解するおそれがある。
  • 改造後の商品につき任天堂は品質に責任を負えないが,それにもかかわらず任天堂の登録商標が付されていると,任天堂の登録商標の品質保証機能を害するおそれがある。
  • 消尽論は商品が同一ある限りにおいて適用されるが,改造されて商品の同一性が維持されておらず消尽論が適用される余地はない と判断し,ファミコンを改造して販売する行為が商標権侵害にあたる。

と判断しました。

この東京地裁平成4年5月27日判決を理解するためには,商標とは何かを理解する必要があります。intellectual_01.jpg

そもそも,商標は,自他識別機能を有するものにつき,一定の要件に当てはまらないものが特許庁で登録されて保護されることになります。

そして,商標が有する自他識別機能というのは,自らの商品や役務と他人の商品や役務とを区別する出所表示機能を有していることになります。

この商標が有する自他識別機能が,商標の中核的機能であるといえます。

自信の商品や役務と他人の商品や役務とを区別することを目的に登録商標が使用され続け,需要者から提供されている商品や役務が一定の評価を受けるようになると,登録商標に信用が化体するようになり,登録商標が付されていることが,一定の品質を証明するようになります。

このような登録商標は,品質保証機能を獲得したということになるわけです。

さらに,登録商標に対して信用が化体すると登録商標が付されていることで商品や役務が選択されるという状態になることがあります。

これは多くの世界的なブランドの登録商標において認められるものですが,このような状態になると,登録商標が宣伝・広告機能を獲得しているということになります。

東京地裁の事例では,改造品販売者は,商標の中核的機能である出所表示機能を害していないから商標権を侵害していないと主張したのですが,裁判所はこれを否定し,さらに,商標の品質保証機能も害していると判断したわけです。

それでは,仮に,自らの出所表示を大々的に示し,販売にあたっても自らの商品であることを示し,需要者が出所を誤認混同するおそれがない状態にしていた場合,すなわち,商標権の出所表示機能を害していない場合に商標権侵害が成立するのでしょうか。

大阪地裁平成6年2月24日判決においては,包装に登録商標が付された商品を小分けして,小分けした商品の包装に登録商標を販売する行為が商標権侵害にあたると判断されています。

この事例では,販売者は,登録商標の権利者の商品として商品を販売しているわけですから,出所表示機能を害しているわけでありません。

しかし,商標権者が,小分けされた商品の品質を保証できない状況で登録商標が使用されており,登録商標が有する品質保証機能を害すると判断しています。

確かに,小分けを行いますと,遺物が入る可能性や商品が化学的に変質してしまう可能性があります。

この程度の抽象的なものであったとしても,裁判所では品質保証機能を害するとして商標権侵害を認めているわけです。

現に改造を行って品質に変化を加えている場合には,より一層,商標権者としては品質を保証することができないわけですから,商標権侵害が成立すると考えておくべきです。

ですから,脱獄iPhoneのように改造した商品を販売する行為は,商標権を侵害すると考えておくべきです。

なお,最高裁昭和46年7月20日判決においては,真正商品に包装を解くことなく,再包装したものに登録証商標を付する行為が問題となった刑事事例で,商標権侵害を認め有罪判決が下されています。

近時においては,商標権侵害か否かの判断は,単純に登録商標を使用しているという事のみでは認められておらず,登録商標の如何なる機能を害しているのかを問題としており,前記した如何なる機能も害していないものについては商標権侵害を認めないという実質的な判断を行っています。

ですから,上記した最高裁の考え方が,現在においても維持されているのかということについては甚だ疑問ではありますが,無視することができない判例であることには間違いありません。

脱獄iPhoneと商標権の関係についてお話しをしますと,車の改造はどうなるのかのかという質問をよく受けます。

自動車には,登録商標が付されています。 自ら改造を行って,これを使用するという行為は,コピー商品の購入のところでもお話ししましたが,その者のもとでは付された登録商標は商標ではありませんので,何ら問題はありません。

これに対し,自動車を改造して販売する者のもとでは付された登録商標は商標ですので,iPhoneと同様に商標権侵害にあたると考えておくべきです。

ただし,自動車を改造する行為は,古くから行われていることで,このような楽しみを奪うと,自動車そのものが売れなくなる可能性があります。

また,自動車メーカーが販売している自動車を改造し,レースに出場させるなどして,自社が販売している自動車の性能を示しており,市場において改造が加えられることを許容しているところがあります。

ですから,自動車の場合,法的に商標権侵害が成立するものの,商標権者が権利を行使していないだけであると考えておくべきです。

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