弁護士視点で知財ニュース解説

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「アイドルのダンスを踊ってみた」は違法?

cont_img_56.jpg日経電子版「アイドルのダンスを踊る娘 動画サイトへ投稿は違法?」という記事に,つぎのような「Q&A」が掲載されています。

Q.アイドル歌手のダンスを娘が踊る姿、動画サイトに載せたい!

A.許可を得ているWebサイトや楽曲以外は違法

そして,この記事では,「楽曲」,「歌詞」,「振り付け」のいずれもが著作権の対象となり,楽曲に載せて振り付けを再現しながら歌唱する姿を動画サイトにアップするには,それぞれの著作権者(著作権管理会社)の許可が必要とされています。

また,この記事では,動画サイトの中には,楽曲や歌詞の著作権を管理している管理会社と包括契約を締結しているところがあり,一般の方が,著作権の対象となる楽曲を演奏したり,歌唱したとしても著作権侵害にならないことも紹介されています。

まず,確認しておかなければならないことは,著作権管理会社が管理しているのは,「楽曲」と「歌詞」であり,「振り付け」まで管理しているわけではなく,動画サイトが管理会社と包括契約しているのは,あくまで「楽曲」と「歌詞」の利用だけです。

管理会社と包括契約している動画サイトであったとしても,アイドルに「振り付け」を提供した振付師との間で利用契約が必要になるわけです。

ここで問題となるのが,振付師がアイドルに提供した「振り付け」が,何でもかんでも著作権によって保護されているのかということです。

著作権は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」を保護の対象としていますが,表現の対象によっては,人が選択できる表現幅が広いものと狭いものとがあります。

このことを,文章を例にして説明すると,文章が長くなればなるほど文章表現の選択の幅が広くなりますが,短くなればなるほど文章の選択の幅が狭くなり,最終的には単語,文字という単位に至り,創作の余地が完全になくなります。

楽曲や歌詞は,比較的選択幅の広い音や文字を任意に選択して制作され,一定程度の長さが確保されており,そこに作曲家や作詞家の個性を表現する余地が多く確保されているといえます。

他方,「振り付け」は,人の身体の動きよって表現されるものですから物理的な制約があります。

さらに,アイドルの「振り付け」ということになると,楽曲や歌詞との整合性の問題がありますので,身体の動きによって表現できる幅というものが,より一層制約されることになります。

ですから,アイドルの「振り付け」が著作権法によって保護されるかどうかを検討する場合には,問題となる「振り付け」のどの部分に,他には存在しない振付師の個性が表現されているのか(創作性が認められるのか)ということが厳密にチェックされることになります。intellectual_01.jpg

この点に関して非常に参考になる東京地裁の裁判例があります。

映画「Shall we ダンス?」の社交ダンスの振付けが著作物であるかどうかが争われた東京地裁平成24年2月28日判決では,次のように判断されています。

  • 基本ステップは,ごく短いものであり,かつ,一般的に用いられるごくありふれたものであるため著作物性は認められない。
  • 基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることを考慮すると,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップに属するありふれたものとして著作物性は認められない。
  • 既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れたものは,既存のステップと組み合わせてダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものについては,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することから著作物性を認めるのは妥当ではない。
  • 基本ステップや基本ステップをアレンジしたもの,新たなステップを組み合わせるなどして一つの流れのあるダンスは,単なる既存のステップの組み合わせにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性が必要である。

東京地裁では,基本ステップは,ごく短い身体の動作であり,創作性が入る余地がないことから著作権の保護の対象にならない,基本ステップにアレンジを加えたものであっても,基本ステップを認識できる範囲のものは,創作の入る余地が非常に限られていることを理由に著作権の保護の対象とならないとされているのです。

そして,新しいステップであったとしても,ごく短いものは身体の動きの自由を過度に制限することになることを理由に著作権の保護の対象にならないとされていますが,ステップが,ごく短い身体の動きであるため創作性が入る余地が非常に限られていることも理由の一つとして挙げられると思います。

さらに,基本ステップや基本ステップをアレンジしたもの,新たなステップを組み合わせるなどして一つの流れのあるダンスについても,他のダンスと比較した場合に顕著な特徴を有するといった独創性を備えている場合に限り著作権の保護の対象とされています。

この裁判例は,アイドルに提供する「振り付け」についてもあてはまるものと考えており,この裁判例を前提にする限り,著作権法によって保護されるアイドルの振り付けは非常に限定されるのではないかと考えています。

「アイドルのダンスを踊ってみた」を動画サイトにアップする際,振付師の著作権侵害ということに注意しなければなりません。

しかし,動画サイトで過度な自主規制が行われることがないように,どのような「振り付け」が著作権法によって保護されることになるのかとういことを,もっと厳密に検討する必要があるのではないでしょうか。

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