弁護士視点で知財ニュース解説

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放送コンテンツのインターネット配信に向けた課題

cont_img_56.jpg最近,テレビ番組等の放送コンテンツがネット配信されるようになってきています。

放送とネットでの配信が同時行われ,ネットで,見たい時に見るオンデマンド配信も行うというサービスは,視聴者の利便性が高まるという目的だけではなく,テレビ離れの問題に直面している放送事業者が,あらたな収益源を確保するという意味でも不可欠なものとなっています。

放送とネットでの同時配信や,放送コンテンツのネットでのオンデマンド配信は,技術的には問題なく行うことができ,5G通信による高速・大容量通信が広まっていきますと,その需要も高まっていきます。

ところが,現在の著作権法がこのような新たなサービスを提供するにあたり妨げになっています。

放送では,様々なコンテンツが利用されており,例えば,原作,脚本,歌詞,楽曲,報道や映画などの映像,新聞や雑誌など記事,写真,イラスト,美術品などが含まれています。

これらのコンテンツの著作者には,著作物について,公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信送信を行う独占的な権利が認められています。

つまり,放送やネット配信により著作物を利用する場合には,事前に著作者の承諾を得ておく必要があるわけです。

ところが,著作者との接触をとることができず許諾を得ることができない,あるいは,許諾にあたっての条件が折り合わないという問題があります。

また,著作権法では,俳優,歌手などの実演家の権利が定められており,実演家の場合のルールが極めて複雑なものとなっています。

そもそも,実演家は,無断で,自らの実演を録音・録画,インターネット上での配信,放送,有線放送されない権利を有しています。

そして,実演家が許諾した市販用音楽CD等に収録された実演は,報酬を支払うことによって,放送,有線放送に使用することができ,補償金を支払うことによって,IPマルチキャスト放送の事業者が放送対象地域内でテレビ放送やラジオ放送を受信して同時に送信することができます。

しかし,同時送信でなければ実演家の許諾を得なければ送信することができず,実演家あるいは実演家が権利の管理を委託している団体から許諾を得る必要があります。cont_img_27.jpg

他方,実演家の許諾を得て,映画に録音・録画された映像に対しては,実演家の権利が及びませんが,放送局,有線放送局が,実演を放送することについて実演家の許諾を得た場合(放送実演)には,録音・録画の許諾を得ていなくても録音・録画することが認められるものの,許諾を得た放送以外の目的で利用する場合,例えば,ビデオグラム化,BS放送局,CS放送局や海外の放送局への販売,オンデマンド配信等を行う場合,には,実演家の許諾を得なければならず,実演家,あるいは管理団体。所属事務所等を介して許諾を得る必要があります。

また,補償金を支払うことによって,IPマルチキャスト放送の事業者が放送対象地域内でテレビ放送やラジオ放送を受信して,同時に送信することが可能ですが,同時送信でない場合には,実演家の許諾を得なければ送信することができず,先ほどと同様の許諾を得る必要があるわけです。

レコード製作者は,CD等が放送や有線放送に使用された場合に,放送局に対して報酬を請求することができ,IPマルチキャスト放送の事業者が放送対象地域内で同時送信された場合には補償金を請求することができ,許諾なくCD等をサーバー等の自動公衆送信装置に蓄積されない,あるいは入力(ウェブキャスト,インターネット放送の場合)されないことを求めることできます。

ですから,放送や有線放送,これと同一の放送地域に同時に送信する場合には,報酬や補償を支払うことによって利用することができるのですが,時を異にして送信するには,レコード製作者の許諾を得る必要があるわけです。

このような現在の著作権法の規定状況を踏まえて,文化審議会著作権分科会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会においては,放送との同時配信に限らず,一定期間のなかでリニア放送と意図して時間をずらして配信するものや,その一定期間終了後に再活用する配信などを含め,放送コンテンツのインターネット配信に係る事業者の多様なニーズ(将来的な事業の見通しを含む。)に対応した措置を検討するとされています。

さらに,レコード(CD等)及びレコードに録音された実演並びに映像実演の利用円滑化から検討することとしつつ,著作権の取扱いを含むその他の課題についても,放送事業者からの要望が強いことを踏まえ,その緊急性・重要性に応じて,継続的かつ総合的に検討を行うこととするとされています。

既に,NHKでは,放送番組を放送とインターネットで配信するサービスを開始していますので,レコード(CD等)及びレコードに録音された実演並びに映像実演の利用円滑化については,20121年の法改正が予定されているところです。

今般予定されている著作権法改正によって,実演家やレコード製作者との関係では,金銭的な保障を行うことでインターネット上での送信が可能になると予想されるのですが,問題は,著作者との関係で問題となる著作権です。

先の小委員会においては,権利情報を集約したデータベースの充実,利便性向上,著作権等管理事業者による集中管理の促進など,運用面の改善を着実に進めることにするとされており,運用面の改善で対応し切れないと考えられる課題については法整備を検討し,著作権の例外規定である営利を目的としない公の伝達(38条3項),行政機関における演説等の利用(40条2項),著作物の放送に当たっての裁定(68条)を放送コンテンツのインターネット上での送信に拡充することを検討するとされています。

この著作者との権利関係の処理については,今しばらく検討に時間を要することが予想されます。 

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