弁護士視点で知財ニュース解説

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EU 新著作権法の骨子案を示す

EUは,20年ぶりの著作権法改正において,検索エンジンで表示される検索結果に対して著作権使用料を課すこと,動画投稿サイトでの著作権侵害の取締り強化することを骨子とする考えを示しました。

今回示されたEUの考えは,グーグルなどの検索サイトやユーチューブなどの動画配信サイトのようなプラットフォームに対する法律による締め付けであることは間違いなく,既存メディアによる新興勢力に対する締め付けであるとの憶測も出ているところであり,多くの否定的な意見が寄せられているところです。

しかし,検索エンジンの検索結果において著作物の一部を引用する行為と動画投稿サイトとでは明確に区別して議論する必要があります。

cont_img_56.jpg動画に限らず他人の著作物を承諾なくインターネット上で配信する行為は,著作権を侵害する行為となります。
そして,日本では,インターネット上においてそのような場を提供する行為も著作権侵害行為となります。

日本では,古くから,著作権者の承諾なく楽曲の録音物を再生し,顧客に歌唱をさせるカラオケ店による著作権が侵害について議論がされており,店側が機械を操作して楽曲を再生した場合に限らず,顧客が機械を操作して歌唱する(店側は楽曲を演奏する,歌唱させる場を提供しているだけ)場合にもカラオケ店の著作権侵害が認められています。また,著作権を侵害するような形でカラオケの機器をリースするリース業者の著作権侵害を認めた裁判例も存在します。

他人に著作権を侵害する行為を行わせ,それによって利益を得ている者に著作権侵害の責任を求めていく考え方を,一般的にカラオケ法理と呼ばれています。
そして,このカラオケ法理と呼ばれる考え方は,カラオケ店の責任を追及する場面だけではなく,第三者に著作権侵害行為を行わせて利益を得ている者の責任を追及する場合に広く適用されています。

動画配信で有名なニコニコ動画(ニコ動)は,対外的に著作権を侵害する動画に関する情報提供をもとめ,情報提供があった動画に対しては積極的に削除するスタンスを示すようになり,事前登録したデータに基づいて著作権侵害動画を自動的に削除することができる「ライツコントロールプログラム」を改良し,動画削除の実績を積極的に示すようになりました。

また,ニコ動は,代表的な動画である「歌ってみた」,「演奏してみた」などで著作権侵害の責任を問われることがないように,JASRACとの間で,JASRAC管理楽曲の包括使用許諾契約を締結し,JASRACに対して一定の使用許諾料を支払うことで,投稿者が自由に楽曲を歌う,あるいは演奏する動画をアップすることができる対応をとっています。

カラオケ法理の適用範囲については厳格な線引きが必要であるものの,基本的な考え方については決して誤ったものではなく,動画サイトに著作権を適用していくことは,同種サービスの衰退や創作の意欲を減退するものではないと考えています。
そして,動画投稿サイトでの著作権侵害の取締り強化を打ち出したEUの考え方についても基本的には誤っていないのではないのかと考えています。

他方,検索エンジンによる検索結果の表示における著作物の一部表示については,動画投稿サイトの問題とは全くの別の問題であり,別の観点から慎重に検討する必要があると考えています。cont_img_27.jpg
検索エンジンによる検索結果の表示に他人の著作物の一部を表示する行為は,欧米ではフェアユースの問題として,日本の著作権法では,他人の著作物の引用の問題として議論されるべき問題です。

そもそも,著作権といえども絶対的な権利ではなく,様々な観点から制限を受けることになります。
日本の著作権法では,著作権が制限を受ける場合が列挙されていて,法律で定められた場合にのみ著作権が制限されることになります。
他方,欧米では,著作権の制限規定の有無は別として,著作権の制限につき一般条項が設けられています。
これが,「フェアユース」と呼ばれるものです。

米国の裁判所がとるフェアユースの考え方を簡単に説明すると,

  1. 利用の目的と性格(利用が商業性を有するか,非営利の教育目的か等)
  2. 著作権のある著作物の性質
  3. 著作物全体との関係における利用された部分の量及び重要性
  4. 著作物の潜在的利用又は価値に対する利用の及ぼす影響を考慮して,

著作物の公正な使用と認められる場合には著作権の行使が制限されるというものです。

日本の著作権法においても,著作権制限規定の一般条項であるフェアユースの考え方を取り入れるべきであるか否か議論されていますが,現在のところ取り入れられておりません。

さて,日本の著作権法では,「公表された著作物は,引用して利用することができる。」と規定されており,この規定を根拠に引用に該当する場合には著作権侵害にあたらないと説明されています。
日本の裁判所において引用とは,

  1. 引用して利用する側の著作物と引用して利用される側の著作物とが,明瞭に区別されていること
  2. 公正な慣行に合致すること
  3. 報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われているものであること

の要件を充たす場合であると考えられています。

検索結果の表示において著作物の一部を表示する行為は,様々な表示の方法が存在するところではありますが,代表的な検索エンジンの例を前提にする限り,個人的には,上記のいずれの要件にも該当するものと考えています。

ドイツでは,ニュース提供者の著作物の一部を引用する場合に著作物利用料の支払義務が発生することを定めた法律を設けたが,多くのニュース提供者がアクセス数や広告収入の減少を嫌って利用料の徴収を行っていないといわれています。
ドイツの例は,法規制が実態経済に即していないことを示しおり,市場が法規制の有害性を明確に示している例であると思います。
検索結果の表示において著作物の一部を表示する行為につき一定のルールは存在してよいのだと思うのですが,過度に制限した場合には法を無視した形で経済活動が行われることが目に見えるような気がします。

検索結果の表示において著作物の一部を表示する行為は,一部表示を盾にして限度を超えた著作物の利用(著作権者に損害を与えるような利用)を抑止するために一定のルールが必要なのでしょうが,どのような表示であったとしても利用料の支払いを義務付けられるということになると,現在行われている検索サービスの提供を受けることができない恐れがあることにも十分配慮する必要があると考えています。

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