弁護士視点で知財ニュース解説

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パテントトロール対策

成26年7月10日付日経新聞によると,キャノン,グーグル,SAP,米ベンチャー企業3社は,「LOTネットワーク」(本部:米マサチューセッツ)という名称で,「パテントトロール」対策を行うことで合意したと報じられています。

この「パテントトロール」とは,特許権侵害を理由に和解解決金を得る目的で多数の特許権を取得し,特許権を行使する際には複数の企業に対して多額の損害賠償請求を行っていくということで,近年,日本においても問題となっています。

日経新聞の記事では,平成25年の米国での特許訴訟の件数は6千件に達しており,3年間で特許訴訟の件数は倍増し,そのうち約7割は,「パテントトロール」が原告となっている事案であると説明されています。また,米国には,「パテントトロール」を目的にした会社が200以上存在し,同一の特許で10社以上の会社を訴え,1社あたり1億円から数億円規模の和解金を求める例が多いとも説明されています。

今回の「LOTネットワーク」では,加盟企業が第三者に特許権を譲渡する際に,加盟企業に対して特許権の使用許諾を与えておき,特許権を取得した者から特許権侵害の主張がなされることを未然に防ぐという方法を採用することになっています。

従前,日本の特許法では,通常実施権を設定した(特許権の使用許諾を与えた)場合に,登録をしておかなければ,特許権の譲受人に対して通常実施権の存在を対抗できないとされていたのですが,平成23年の特許改正により登録がなくても特許権の譲受人に通常実施権の存在を対抗することができるようになったため,「LOTネットワーク」が行おうとしていることが日本においても有効に機能することになります。

「LOTネットワーク」のような産業界の動きは,産業界が「パテントトロール」に関して訴えてきたことが,政府や裁判所において対応しきれていないために,自己防衛として打ち出されたものです。

特許法1条では,「この法律は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とする。」と規定されており,そもそも特許法において特許権を保護する究極の目的は,「産業の発展に寄与する」ところにあります。
しかし,「パテントトロール」が行っている特許権の行使は,産業の発展に寄与するものではなく,むしろ産業を停滞させるものとなっています。

ですから,日本でも「パテントロール」による特許権の行使は,特許法1条の目的に反し,民法1条3項の権利濫用にあたり権利行使が認められないという主張が存在します。
しかし,現在のところ,裁判所においてこのような主張が認められた例が存在せず,政府においても「パテントトロール」に関する立法的解決について現実化していません。
このことは,米国においても同様のことがいえます。

以上の背景事情があり,「LOTネットワーク」の設立に至るわけですが,日本では,米国のように「パテントトロール」の問題が顕著に現れていません。しかし,米国の「パテントトロール」会社が,米国においてだけでなく,日本においても権利行使を行い,訴訟になったり,和解交渉になるという事例が散見されるようになりました。

日経新聞によると「LOTネットワーク」は世界のIT,電気,精密機器,自動車など高い技術を持つ企業に参加を呼びかけるとされています。今後「LOTネットワーク」加盟企業が増加し,民間レベルでの「パテントトロール」対策が広まることが望ましい姿だと思います。

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