弁護士視点で知財ニュース解説

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知財南北問題

カナダのオタワで開かれている環太平洋経済連携協定(TPP)の首席交渉官会合で,新薬の保護期間をめぐる米国と新興国との対立が解けず,新薬の知的財産権保護をめぐる交渉の決着が先送りされることになったようです。

新薬の保護期間に関してはTPP交渉の難航課題の一つであり,世界的な製薬会社を多く抱える米国が保護強化を求める強硬姿勢を崩さないため,事務方レベルの交渉では決着がつかず,閣僚級の交渉に委ねられることになったようです。

このような問題は知的財産の南北問題と言われ,TPP交渉のはるか以前から存在する問題です。

特許ハーモナイゼーションを議論する際には必ず出てくる問題で,主に日米欧と後進国との対立構造が浮き彫りになります。

特に,新薬については,人の生命にかかわる問題であり,後進国側から,新薬に関する特許,特に人の命に係わる新薬に関する特許については権利制限が行われてしかるべきであると主張されます。

また,新薬は,後進国のジャングルの中に存在する化学物質から生成されることも少なくなく,後進国からは,新薬が先進国にのみ帰属するのはおかしいのではないかという主張が行われることもあります。この点についは,生物多様性条約において,ある程度ルール化されてはいるのですが,全ての問題が解決しているわけではありません。

新薬は,膨大な候補物質の中から膨大な時間と莫大な費用を費やして開発されます。一つの新薬開発に数百億円から1000億円以上の費用が費やされることもめずらしくありません。
当然のことながら,新薬開発メーカーとしては,新薬を独占することで莫大な開発費用を回収しなければなりません。

また,世界的にヒットした新薬は,新薬開発メーカーに莫大な利益をもたらし,ヒットした新薬の特許保護期間満了が近づくと株価に影響が出るほどです。

他方,後発メーカーや後発メーカーを多く抱える国としては,貨幣価値の低い国においても比較的安価な価格で,少しでも有効な薬を提供したいという思惑があります。

TPPにおける新薬保護期間に関する交渉も,まさしく従前から存在した議論が顕在化しているわけであり,容易に解決する問題ではないと思われます。

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