東洋ゴム工業は,平成26年7月30日,米国国際貿易委員会(ITC)が,同社製タイヤの意匠権を侵害しているタイヤの輸入・販売の差止めを命じたと発表しました。
東洋ゴム工業は,平成25年8月,ITCに対し,中国やタイのタイヤ製造業者や米国のタイヤ輸入販売業者計23社が東洋ゴム工業の意匠権を侵害していることを理由に輸入,販売の差止めを求めていました。
23社のうち15社は,ITCに対する申立後,侵害品の米国への輸入販売の中止,在庫品の廃棄を条件とする和解に応じ,一部は,侵害品を製造するための金型廃棄及び損害賠償等に応じていました。
ところが,23社のうち8社については,ITCの調査手続に応じなかったことから,手続が進められ,差止命令に至りました。
東洋ゴム工業は,自社のタイヤのトレッドと側面部分のデザインにつき,デザインパテント(日本の意匠に該当するもの)を有しており,それに基づく申立てでした。
なお,トレッドとは,タイヤが地面と接触する部分のことで,ご存じのとおりトレッドから側面にかけて溝が刻まれています。
この溝は,グルーブと呼ばれ,グルーブによって描かれた紋様をトレッドパターンといいます。
グルーブは,タイヤの摩擦性能を制御する為に設けられるもので,第一義的には技術的な理由で設けられます。
ところが,グルーブは,トレッド全体に刻まれ,トレッドパターンは紋様が描かれたように見えるため,第二義的にはタイヤに施されたデザインと捉えることができます。
知的財産法において,技術を保護する法律は特許法であり,グルーブが存在する第一義的な理由が技術的なものであることから特許法によって保護すべきであると考えられなくはありません。
しかし,タイヤのトレッドから側面にかけてグルーブを設けてタイヤの摩擦性能を制御するという技術思想そのものは,以前から存在するものであり,摩擦性能を制御する機能を向上するためにグルーブの形状を新たに発明したとしても,特許の登録要件である進歩性が認められることが困難です。
そこで,グルーブを設ける技術的側面ではなく,グルーブを設けたことにより生まれたデザイン的側面に着眼して意匠登録をして,新たに発明したトレッドパターンを保護するという方法がとられています。
知的財産の分野においては,タイヤのトレッドパターンのように本来適用されるべき知的財産法による保護を受けることが困難な場合に,他の知的財産法による保護を検討するということがめずらしくありません。
また,特許や意匠として登録することが可能であったにもかかわらず登録の手続を行っていなかった場合に,登録を要件としない知的財産法(著作権法,不正競争防止法(他人の表示,商品形態,営業秘密)や民法による保護を求めていくということも珍しいことでありません。
知的財産の保護を検討する場合に,「登録していない」という理由で直ちにあきらめるのではなく,登録を要件としてない知的財産法による保護が可能か否かについて検討しなければならないのです。