弁護士視点で知財ニュース解説

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職務発明規定 今秋にも改正へ

現在の特許法では,社員が職務を行う中で行った発明(職務発明)は,社員に帰属し,会社は,職務発明に対して無償の通常実施権を有すると規定されています。

但し,会社は,予め,就業規則に定める方法や社員との合意書を取り交わしておく方法により,社員が発明を行った際に自動的に会社に発明を譲り受けることができます(予約承継)。

しかし,会社が社員から発明を譲受ける際には,相当の対価を支払わなければならないとされており,会社が相当対価の支払いを行った否かということが度々訴訟で争われてきました。

そして,東京地判平14・1・30「青色発光ダイオード事件」(平成13年(ワ)第17772号)においては200億円の支払いを命じる判決が下されるなど,職務発明に関する相当対価の支払いが,会社にとって経営リスクとして認識されるようになりました。

このような判決を受けて,平成16年には特許法が改正され,これら従業員,使用者の個別事情を反映した「相当の対価」の支払いを実現すべく,対価の決定を,原則として両当事者間の「自主的な取決め」に委ねることとし,使用者と従業員との立場の相違などに起因して不合理な対価の決定がなされない場合には,一定の要素を考慮して算定される対価の支払いを強いるというスタンスをとっています。

ここで,不合理であるか否かの判断は,法の過剰な介入を回避すべく,自主的な取決めから対価の支払までの全過程のうち,特に手続的な要素,具体的には使用者と従業員との間の協議の状況などを重視されることになっています。

このような特許法の改正を経た現在においても,産業界からは,「不合理であるか否かの判断」が事後的に行われるため,経営上のリスクが存在するものと認識されており,職務発明を原則会社に帰属させるよう特許法の改正を要望してきました。

特許庁では,平成26年6月,職務発明が社員に帰属するという原則を維持しつつ,「十分な報酬制度」がある企業かどうかを事前にチェックし,条件を満たしている企業に限って,特例として会社に帰属するという方針を示して,具体案の検討を行っていました。

しかし,この方針に産業界から大きな反発があったことから,平成26年9月3日の特許制度小委員会において,条件を満たした一部の企業だけが職務発明を会社に帰属させることができるという制度を採用した場合,「制度が過度に複雑化し,実務に混乱を招くおそれがある」と説明し,職務発明を原則として会社に帰属させるという方針に転換しました。

また,特許庁では,職務発明を原則会社のものとした場合,社員の待遇悪化を招くおそれがあるため,社員の発明に報酬が支払われる制度を法律により義務づけることなども提案していましたが,産業界からは,「どのような報酬を与えるかは各企業にまかせるべきだ」とする反発が強かったため,3日の特許制度小委員会では「勤務規則などで発明者に報奨することを法律で定めることは有意義だ」という意見が示されました。

特許庁では,相当対価の決定については,社員と話し合って就業規則などを決定することを企業に義務づけることなども検討されており,ガイドラインも作成する方向のようですが,現在においても相当対価の支払いに関する就業規則などが存在しない会社が多数存在し,全ての会社に対して規則の義務付けをどのように徹底するか,課題が残っています。

また,違反した会社に対して刑事罰を含めた制裁のあり方についても何らの方針も示されていません。

そのような中で,職務発明を原則会社に帰属させる案に対しては,労働組合や研究者から強い反発があります。

特許制度小委員会では,職務発明を原則会社に帰属させる内容の特許法改正案を,この秋の臨時国会に提出する予定にしていますが,法案を提出できるか,提出された際に法案が成立するか否かは未だ不透明なところがあります。

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