1990年に発売され130万枚の売上,87週にわたってオリコンシングルランキングで100位以内に入るロングセラーとなった「会いたい」の歌詞をめぐり,沢田知可子さんが提訴されました。
沢田知可子さんは,平成25年9月のバラエティー番組で「会いたい」の替え歌を披露。
この替え歌が作詞家の著作者人格権を侵害したとの理由で訴訟が提起されました。
週刊現代によると,「会いたい」の歌詞は,作詞家が幼い頃に死に別れた母との思い出をベースに創作したもののようで,作詞家は沢田知可子さんの替え歌により精神的苦痛を受けたと主張しているようです。
現在報道されている内容から確認しますと,沢田知可子さんの替え歌は,ヒット曲を続けて出さないと安定した生活ができないという内容のようで,
「ビルが見える教室で ふたりは机並べて 同じ月日を過ごした」という歌詞を
「曲が売れた収入で 目黒のマンション手に入れ すぐにバブルがはじけた」と変更し
「今年も海へ行くって いっぱい映画も観るって約束したじゃない あなた約束したじゃない 会いたい」という歌詞を
「カラオケみんなが歌って いっぱいお金入るって全くウソじゃない 歌手は一銭ももらえない 泣きたい」と変更したようです。
著作権法では,作詞家は「著作者」,歌手は「実演家」として,それぞれ財産権や人格権が認められ保護されています。
しかし,歌手は,契約により実演家としての財産権や人格権を行使しないことを合意することが多く,最初に取り決められた報酬を得るだけであるというのが一般的です。
これを「ワンチャンス主義」といいます。
他方,作詞家や作曲家については,歌詞や楽曲がメディアやカラオケなどで使用される度に使用料が支払われます。
なお,JASRACのような管理会社が一定のルールにしたがって作詞家や作曲家に対して支払いを行います。
沢田知可子さんの替え歌は,このような音楽業界の現状を,おもしろおかしく表現して歌ったものなのだろうと思います。
ところで,作詞家などの著作者には,著作者人格権というものが認められており,著作者人格権の一つに同一性保持権というものがあります。
この権利は,自ら創作した歌詞などの著作物を無断に改変することを禁止することができる権利です。
著作物は,人の思想や感情を創作的に表現したものです。著作物が商業的に使用されたとしても,この著作物の本質が変わることがありません。
今回の歌詞も,作詞家が幼少のころに死に別れた母親との思い出に基づいて創作したという作詞家個人の思いれが入っています。
このような作詞家の思いれを損なうような歌詞の変更を行った場合には,著作者の人格を傷つけることとなり,著作権法でいえば同一性保持権を侵害することになります。
他方で,表現の一方法として「パロディー」というものがあります。
ヨーロッパなどではパロディーは,芸術表現のひとつとして広く認められていますが,日本の裁判所では,パロディーということで著作権や著作者人格権を侵害しないという考え方をとっていません。
ですので,今回の件では,裁判所において認められる損害賠償額の多寡は別として,作詞家の同一性保持権が侵害されたという判断が下されるものと思われます。