欧州議会は,インターネット上の著作権に関する著作権新指令案を否決しました。
EUにおける指令は,条約のような強い拘束力を有するものでありませんが,加盟国に指令に沿った措置をとることを求めるという意味では,加盟国に対して強い影響力をもっています。
今回,採決を行った著作権新指令案は,
- 科学調査を目的とするテキストデータマイニングに関する権利制限の追加
- 教育目的でのデジタル利用に関する権利制限の追加
- 文化遺産の保存に関する権利制限の追加
- 報道機関に対する複製権,公衆利用に関する権利の付与
- プラットフォーマーに対するフィルタリング義務の設定
に関するものでしたが,特に最後の2つについては,世界中で物議を醸しだしました。
報道機関に対する複製権,公衆利用に関する権利の付与については,「リンク税」という言葉が多用され,リンクを貼るだけで著作権利用料が発生するという誤った情報まで飛び交っています。
報道機関に対する複製権,公衆利用に関する権利の付与については,著作権新指令案11条に規定されています。 著作権新指令案11条では,概要,加盟国は,加盟国で設立された報道出版社に対し,情報社会サービスプロバイダによる報道出版物のオンライン利用について,複製権及び公衆に利用可能にする権利を付与しなければならないと規定されています。
ただし,指令案の前文には,それが公衆に伝達する権利の侵害に当たらない限り,ハイパーリンキング行為にまで拡張されてはならないと明記されており,単なるハイパーリンキングが報道機関に付与される権利を侵害するものではないとの解釈指針が示されています。
また,著作権新指令案11条では,報道出版物の重要でない部分の利用には適用されないとも規定されています。
ですから,著作権新指令案前文において単なるリンキングが含まれないとの解釈指針が示され,単なるリンキングが報道出版物の重要な部分の利用に該当しないため,「リンク税」を課すものであるとの評価は明らかに誤りです。
問題は,単なるリンクキングではなく,ニュースキュレーションサイトのような記事のタイトル,サムネイル画像,記事概要などが表示される「スニペット」が報道機関に付与される権利を侵害するのかという点です。
著作権新指令案においては,報道出版物の重要でない部分の利用には適用されないと規定されていますが,加盟国は,報道出版物の一部分について,当該部分が著作者による知的な創作の表現であるかどうか,もしくは当該部分が個別の言葉もしくは非常に短い抜粋であるかどうか,またはその両方の基準を考慮して,重要ではないかどうかを自由に決定できるとも規定されており,加盟国によって判断が分かれうるところであり,EU内で加盟国によってスニペットに対する対応が異なるという非常に複雑な問題が生じかねません。
また,スニペットに対して報道機関に付与される権利を及ぼすとして,ニュースキュレーションサイトから各報道機関に対する使用許諾料の適切な分配が行われるのかという実務的な問題も懸念されるところです。
ところで,プラットフォーマーに対するフィルタリング義務の設定については,現在の技術水準を前提とした場合に,プラットフォーマーに設定された義務の履行が可能であるのかという問題あり,プラットフォーマー側で,過度なフィルタリングが行われることが危惧されているところです。
また,成長途上のプラットフォームが,必要かつ十分なフィルタリングを行うことなど不可能ですから,事業から撤退する,新規に参入することが困難になるということが予測され,現在の寡占化状態が,より強固なものとなり,現在指摘されている一部のプラットフォーマーによる独占によって生じつつある問題を解消することが,より困難になると懸念されるところでもあります。
今回,著作権新指令案は否決されましたが,これにより完全に廃案とされたわけではなく,著作権新指令案に修正を加えた上で,9月の欧州議会で再度採決される予定になっています。
欧州議会にどのような訂正案が上程され,どのような審議が行われることになるのか,注目されるところです。