弁護士視点で知財ニュース解説

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「デザイン経営」宣言 意匠法の再考

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経済産業省と特許庁が公表した「デザイン経営」宣言では,いくつかの政策提言が行われており,その一つに意匠法の保護対象の拡大があります。

IoT化進み,商品が,情報を収集するための端末としての位置づけられるようになると,収集された情報を分析し,ユーザーニーズに沿った商品やサービスを提供していく,あるいは,潜在的なニーズを提案していくビジネスモデルが重要になり,商品のデザインは,ビジネスモデル構築の一環として行われることになります。

当然,デザイナーの役割も,端末である商品のデザインにとどまらず,ビジネスモデルのストラクチャリングにシフトしていき,デザイナーは,ビジネスモデルのブランディング,ユーザー体験の品質向上を志向し,これらを実現する上で,社会を変革させるようなイノベーションを誘発することが期待されているのです。

デザインの役割が,ブランディングやユーザー体験の品質向上にあり,イノベーションの起爆剤として位置づけられるようになると,保護すべきデザインというものが従前とは異質のものになってきます。

ところが,現在の意匠法は,意匠を「物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義し,専ら,商品を対象としたデザインの保護を行っています。

意匠法では,物品の操作の用に供される画像(ユーザーインターフェース・UI)が保護の対象とされているものの,物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるもの,物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものに限定されおり,UIの保護としては十分ではありません。

「デザイン経営」宣言の政策提言では,意匠法による保護の対象として,UIの保護対象の拡大に留まらず,ユーザー・エクスペリエンス(UX)の重要性を意識した投影画像の保護を検討すべきであるとされています。

また,ユーザー体験の品質向上,潜在的ニーズの発掘にはユーザーとの接点が重要になることを前提に,リアルの世界で企業とユーザーが設定をもつことができる空間デザインの保護を検討するべきであるとされています。

意匠法によって保護する対象を検討する場合,「デザイン経営」宣言の政策提言において示された例にとどまらず,現在の先進的なデザイナーの役割,これからデザイナーに期待される役割を前提に検討されていくことになると思います。

このような保護対象の質的な変化にともなって問題となってくるのが,登録された意匠権の権利範囲を決する基準です。

意匠法では,登録意匠の権利範囲が,登録意匠と同一の意匠と類似する意匠と定められています。 そして,意匠が類似するか否かは,「需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う」と定められています。

つまり,意匠の類否判断は,ユーザー目線を基準に,「美感」に基づいて行われることになります。intellectual_01.jpg

「美感」というものは,本来,主観的に決せられる感覚ですが,法律で用いられている基準である以上,ユーザーの主観に委ねわけにはいきません。

何からの客観的な基準でなければならないのですが,意匠法には,その客観的な基準が定められていません。

この結果,専ら商品のデザインを保護する現在の意匠法においても,二つの意匠が類似するのか否かの判断に苦慮させられることになっています。

そこに,商品のような有体物に限られず,投影画像や空間などの無体物が含まれてくると,より一層,判断に苦慮するのではないかと考えています。

当面の意匠法の保護対象の拡大は,意匠を,「物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」の定義を変更せず,意匠には,「これも含める。」,「あれも含める。」といった形で法改正をすることにより対応していくことになると思います。

その際に,二つの意匠が類似するか否かの基準についても十分に議論する必要があると思います。 意匠の類否判断の基準は,デザインが果たす役割と切り離して考えることはできません。

デザインの機能が,ビジネスモデルの全体のブランディング構築とイノベーションの誘発(研究所で行われた開発と社会での実装の橋渡し)にあるのですから,そういうものとして機能するデザインの類否判断の客観的基準というものを検討していく必要があるのではないでしょうか。

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