弁護士視点で知財ニュース解説

弁護士視点で知財ニュース解説

経済産業省・特許庁 「デザイン経営」宣言 公表

cont_img_68.jpg経済産業省と特許庁は,企業のブランド力とイノベーション力を向上させるためにデザインを活用する提言をまとめた「デザイン経営」宣言を公表しました。

デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営のことを「デザイン経営」と呼び,日本の企業に「デザイン経営」への取組みを促す内容になっています。

あらゆるモノがインターネットに接続される「IoT」の時代になると,商品は情報収集するための端末という位置づけになり,収集された情報に基づきくビジネスモデルの創出において,端末である商品そのもの位置づけが低下することになります。

商品そのもの位置づけにともない,商品に対するデザインを行うことの価値も低下し,商品のみを対象とするデザイナーの存在価値も低下することになります。

この結果,デザイナーは,価値創造サイクルにおいて端末に過ぎない商品のみを対象としてデザインを行うのではなく,収集された情報に基づき創出される新たなビジネスモデルそのものをデザインするということを志向するようになります。

ところで,これまでのユーザーは,提供された商品を選択するだけの存在に過ぎませんでした。

しかし,「IoT」時代になると,ユーザーは,商品によって得られる体験の質を求めるようになり,ユーザーが求める体験の質を充たすことができないビジネスモデル,その中で端末に位置づけられる商品は,ユーザーから支持を得られなくなります。

そして,デザイナーは,ユーザーが求める体験の質を充たすべくビジネスモデル構築の段階から能動的に関与することが求められるようになるのです。

「デザイン経営」宣言において,「デザイン経営」と呼ぶための必要条件の一つとして「事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること」が挙げられていますが,この条件が示されている理由は,IoT時代におけるデザインの対象が,ユーザーが求める体験の質を充たすことができるビジネスモデルの構築にあるからです。

そして,「デザイン経営」と呼ぶための必要条件のもう一つとして「経営チームにデザイン責任者がいること」が挙げられていますが,この条件は,ビジネスモデル構築の段階で,有意な発言を行い,ビジネスモデルの変更等を行いうる権限を有するデザイナーを関与させるための制度的担保といえます。

ちなみに,「デザイン経営」宣言においては,製品・サービス・事業が顧客起点で考えられているどうか,又はブランド形成に資するものであるかどうかを判断し,必要な業務プロセスの変更を具体的に構想するスキルを持つ者を「デザイン責任者」と呼んでいます。

また,デザインは,ブランド力を向上させるもの,また,イノベーション力を向上させるものとしてとらえられており,これらの効果によって企業競争力を向上させるものとしてとらえられています。

端末である商品から様々な情報を収集し,それを分析することにより,ユーザーニーズを満たしたビジネスを提供する,あるいは,ユーザーに新たな価値を提供することで潜在的ニーズを掘り起こすことができます。

そして,顧客ニーズを満たす,新たな価値を提供する際に,企業が大切にしている価値が反映されることになるのですが,それがビジネスモデルに一貫して表現され,それがユーザーに受け入れられ,代替性がないものとして受け入れられると,ユーザーの間でブランドとして認識されるようになります。

また,新たな価値を提供するには,イノベーションを実現する力が必要になります。

「デザイン経営」宣言においては,イノベーションが,研究室の中で行われる新たな技術の創造などではなく,社会において受け入れられ,その結果として社会を変革する技術の創造であるととらえられています。

そして,研究室で創造された技術を社会において適用可能ならしめるもの(研究開発と社会実装とのかけはし)としてデザインが位置づけられています。

ユーザーと共感し,ユーザーが受入れ可能な新たな価値を提供することがデザインであるならば,新たな価値を実現する技術を社会に実装可能な形に整えること(研究開発と社会実装とのかけはし)がデザインであるというのは,当然のこととなります。

デザインというものの定義が再構築され,デザインの対象や目的が見直されたことで,デザインがブランド力向上に資する,また,イノベーション力向上に資するものであることを,常に意識した経営が,競争力を保つ上で不可欠となります。

「デザイン経営」宣言では,経営者のこのことを伝えようとしています。

ちなみに,デザインに投資することで4倍の利益を得られるという調査結果や,Design Value IndexがS&P500全体と比較して過去10年間で2.1倍成長したという調査結果,デザイン賞に登場することが多い企業(166社)の株価がFTSE indexと比較して10年間で約2倍の成長を遂げているという調査結果がされています。

そして,日本の多くの企業が「デザイン経営」を行い得ていない事実が指摘されています。

デザインが商品の整形や色あいの選択であるという考え方から脱し,ビジネスモデルそのものの創作であるという認識,それは,ブランド力向上やイノベーション力の向上につながっているものであるという認識をもっことの重要性を理解する必要があります。。

ページトップへ戻る

〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目11番22号
阪神神明ビル 2F

  • JR大阪駅より徒歩11分
  • JR北新地11-41番出口より徒歩8分
  • 地下鉄東梅田7番出口より徒歩10分
  • 地下鉄淀屋橋1番出口より徒歩10分
  • 地下鉄南森町2番出口より徒歩10分
  • JR新大阪駅より車10分