弁護士視点で知財ニュース解説

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JASRACによる音楽教室に対する著作権行使問題

cont_img_72.jpg日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から,楽曲の著作権料を徴収する方針を打ち出したことで物議をかもしています。

著作権法では,「著作者は,その著作物を,公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し,又は演奏する権利を専有する。」と規定されています。

先生が生徒たちに見本を示すための演奏が「公に演奏した」といえるのか,生徒が先生や他の生徒の前で演奏する行為が「公に演奏した」といえるのかということが問題となります。

ところで,著作権法では,「演奏」には,生の演奏だけでなく,著作物が録音されたものを再生することを含むとされています。 音楽教室とよく似た事例で,録音物による音楽の演奏が著作権を侵害するのではないかということで問題となったものに,ダンス教室があります。

ダンス教室の事例で,名古屋地裁平成15年2月7日判決は,著作権法では,「公衆」に,「特定かつ多数の者」が含まれると規定されているが,著作権法が公衆概念の内容を明らかにし,著作物の演奏権の及ぶ範囲を規律する理由は,著作物が不特定一般の者のために用いられる場合はもちろんのこと,多数の者のために用いられる場合にも,著作物の利用価値が大きいことを意味するから,それに見合った対価を権利者に環流させる方策を採るべきとの判断によるものと考えられるとし,このような著作権法の趣旨に照らすならば,「著作物の公衆に対する使用行為に当たるか否かは,著作物の種類・性質や利用態様を前提として,著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点をも勘案して判断するのが相当である(このような判断の結果,著作権者の権利を及ぼすべきでないとされた場合に,当該使用行為は「特定かつ少数の者」に対するものであると評価されることになる。)。」と判示しました。

そして,名古屋地裁は,ダンス教室での音楽著作物の再生が,以下の条件で行われていることを理由に,ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的,物的条件が許容する限り,何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ,このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は,組織的,継続的に行われるものであるから,社会通念上,不特定かつ多数の者に対するもの,すなわち,公衆に対するものと評価するのが相当であると判断しました。

  1. ダンス教室においてダンス教師が受講生に対して社交ダンスを教授するに当たってなされるものであること
  2. 社交ダンスはダンス楽曲に合わせて行うものであり,その練習ないし指導に当たって,ダンス楽曲の演奏が欠かすことができないものであること
  3. 格別の条件を設定することなく,その経営するダンス教授所の受講生を募集していること 受講を希望する者は,所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができること
  4. 受講生は,あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく,事前に受講料に相当するチケットを購入し,レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって,営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられること
  5. レッスン形態は,受講生の希望に従い,マンツーマン形式による個人教授か集団教授(グループレッスン)かを選択できること

4つ目の事実は,生徒の都合に応じてレッスン時間を決定することができることで,より多くの者に受講機会が開かれていることを示す事実ですが,「公衆」といえるか否かの判断において決定的理由になるものではなく,レッスン時間が固定されていたとしても「公衆」の要件が認められたであろうと思います。

この裁判例を前提とする限り,音楽教室での音楽の演奏も公衆に対する演奏と言えなくはありません。cont_img_49.jpg

ただし,名古屋地裁では,「著作物の種類・性質や利用態様を前提として,著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点をも勘案して判断する」とされており,学校教育とは異なる現場で行われるものの,古くから義務教育の対象である音楽の指導にあたり,著作物利用料を徴収することが社会通念上適切といえるのかという問題が残るのではないかと考えています。

そして,名古屋地裁がいうところの「社会通念」との関係でいうならば,音楽教育に携わる多くの方の意見を裁判所に提出し,最終的な裁判所の判断を仰ぐということになるのではないでしょうか。

ところで,著作権法では,「公表された著作物は,営利を目的とせず,かつ,聴衆又は観衆から料金を受けない場合には,公に上演し,演奏し,上映し,又は口述することができる。ただし,当該上演,演奏,上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は,この限りでない。」とも規定されています。

先のダンス教室の事例でも,音楽を上演することの対価は受領していないと主張されました。 しかし,名古屋地裁は,上記した著作権法の規定が,公の演奏等が非営利かつ無料で行われるのであれば,通常大規模なものではなく,また頻繁に行われることもないから,著作権者に大きな不利益を与えないと考えられたために設けられた規定であり,著作権者の許諾なくして著作物を利用することが許されるのは,当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものではなく,かつ聴衆等から名目のいかんを問わず,当該著作物の提供の対価を受けないことを要すると解すべきであると判示しました。

そして,受講生の資格を得るための入会金とダンス教授に対する受講料に相当するチケット代を徴収していることは,ダンス教授所の存続等の資金として使用されていること,ダンス教授に当たって音楽著作物の演奏は不可欠であることから,入会金及び受講料は,ダンス教授と不可分の関係にある音楽著作物の演奏に対する対価としての性質をも有するというべきであると判断されました。

ですから,音楽教室においても,生徒(の両親)から受け取る対価は,楽曲を演奏することの対価ではないとの主張は,受け入れられないのではないかと思います。

音楽教室での,先生の演奏,生徒の演奏に対して,著作権者の権利を及ぼすが否かの問題は,そのことが社会通念上適切か否かという問題に尽きると考えています。

そして,この問題は,限られた証拠(裁判所に提出された証拠)に基づいて少数の裁判官によって決定されるべき事項ではないのでないかと考えています。

音楽教室の実情,音楽教室が子供たちの情操教育に果たしている役割等を多くの情報に基づいて精査し,国民的な議論を行った上で,立法によって解決すべき問題ではないかと考えています。

著作者が亡くなって50年以上経過した音楽については著作権が及びませんので,この問題は発生しました。 しかし,著作権は,著作者の死後50年間も権利が存続するため,この問題を回避するためには,本当に古いクラシック音楽しか使用できないということになります。

音楽教室で,比較的小さな子供たちに音楽を通じた情操教育を行う場合に,JASRACが一方的に定めた著作権料を支払わなければ,本当に古いクラシック音楽しか使用することができないということでよいのかという疑問を個人的には持っています。

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