弁護士視点で知財ニュース解説

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「違法漫画サイト」の根絶に向けて

cont_img_56.jpg違法漫画サイトの問題が深刻化しており,国内のコミックスなどが70,000冊以上掲載されているサイトや,月間1000万アクセスを超えるサイトも存在するようです。

他方で,コミックの売上げは大幅に低下しており,政府も,「漫画家やクリエーターに入るべき収益が海賊版サイトに奪われることは,コンテンツ産業の根幹を揺るがす事態となりかねない」として,早急に対策を講じることを発表しました。

違法漫画サイトを根絶する最も簡単かつ効果的な方法は,「我々が違法漫画サイト」を利用しないというものです。

しかし,このような方法による違法漫画サイトの根絶は期待できず,利用者の自主性に訴えてきた結果が,現在の惨状を生み出しているといえます。

そもそも,無断でコミックスをインターネット上に配信する行為は,著作権者の公衆送信権(送信可能化権)や出版業者の出版権を侵害する行為で,差止め・損害賠償といった民事的制裁が加えられるだけでなく,10年以下の懲役,1000万円以下の罰金といった刑罰の対象にもなります。

そこで,違法漫画サイトは,サイト運営者を特定されないようにURLを公表せず,検索できないようになっています。 そこで,ユーザーを違法漫画サイトに誘導するリーチサイト(まとめサイト)が存在するわけですが,このリーチサイトが多数のアクセスを獲得することから広告媒体となり,多額の広告収入を得ることができるという仕組みになっています。

政府は,広告業界の団体などに海賊版サイトに広告を出稿しないよう協力要請し,広告業界でも,広告配信先のコンテンツのチェックなど自主的な取り組みを行っています, しかし,業界団体に加盟していない広告事業者が多数存在し,海外の業者も広告を行っていることから,効果は限定的であるといわれています。

そこで,政府は,プロバイダー事業者に対し,海賊版サイトへの接続そのものを遮断する「サイトブロッキング」実施の要請を検討しています。cont_img_47.jpg

政府が通信事業者に対して要請を検討しているものが「DNSブロッキング」といわれているものです。 ユーザーは,DNSサーバーに対してIPアドレスを問い合わせ,IPアドレスに基づていて目的とするサイトが記録されているサーバーにアクセスして閲覧を行っています。 サイトブロッキングは,DNSサーバーがユーザーに対してダミーのIPアドレスを回答し,本来のサーバーと異なるサーバーに誘導し,警告画面などを表示させる方法です。

DNSブロッキング(サイトブロッキング)は,ユーザーがリーチサイトのIPアドレスを求めた場合,DNSサーバーが技術的にダミーのIPアドレスを返信するシステムですが,これが,「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない。」と規定された電気通信事業法4条1項に反すると指摘されているのです。

そして,電気通信事業法では,電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵した者には,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科すると規定されています。

最高裁は,「通信の秘密」が「通信当事者以外の第三者が,通信の内容又は存在を知得・窃用し,または,秘密を知得した者が第三者にこれを漏洩すること」であると判断しています。 DNSサーバーが,ユーザーによるリーチサイトのIPアドレス要求を認識することは,通信の存在を知得することになり「通信の秘密」を侵害することになり,上記した刑罰が科されることになるのです。

そこで,政府が提案しているのが,刑法37条の「緊急避難」の適用です。 刑法37条では,「自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。」と規定されています。

差し迫った「現在の危難」を回避するためには,他に有効な手立てがなく(補充性),制限される権利が保護される権利を超えない(法益の権衡)限り,違法とはならないというものです。

違法漫画サイトの存在により日々体力が削がれているコミック業界の現状を前提にする限り,「現在の危難」が存在することは認められます。 また,制限されるのは違法にアップされたコミックを閲覧する自由であるのに対し,保護される利益は,コミックを創作し,あるいは世に広めることで対価を得る権利ですので法益の権衡も認められます。

ところが,他に有効な手段がないかというと,そうではないと考えています。 動画や音楽と同様にコミックなどについても,違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードする行為を取り締まる立法措置や,リーチサイトを著作権法違反で取り締まる方法があります。 動画や音楽に限らず,コミックなどの紙媒体についても違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードする行為は規制の対象に加えるべきです。

なお,動画や音楽は,違法にアップロードされることを前提にした業界による業態の変化が違法アップロードの問題を解消したのであり,著作権法の改正により,この問題が解消したのではないと指摘されているところです。

確かに,違法にアップロードされた動画や音楽をダウンロードする行為を取り締まるのは,物理的にみて困難を伴うものであると理解します。 しかし,個々人に心理的な抑制を働かせることは可能ですし,併せて,リーチサイトを取り締まるという方法もあります。

リーチサイトは著作権を侵害しているのか」という投稿でも説明しましたが,現在の著作権法を前提にする限り,違法漫画サイトのリーチサイトを著作権法違反で取り締まることができず,立法的な手当てが必要です。

しかし,このようなリーチサイトを取り締まる立法的に手段を講じることなく,ブロッキングを認めることは非常に危険であると考えています。

少なくとも,ブロッキングという有効な技術的手段を認めるとしても,それを認める基準について議論を尽くし,立法化する必要があるのではないかと考えています。

なお,2020年10月1日より,違法コンテンツへのリンクを提供する行為が差止め・損害賠償の対象となり,3年以下の懲役,300万円以下の罰金,あるいはその併科という刑罰の対象となりました。

また,サイト運営者・アプリ提供者が,リンクを削除できるにもかかわらず,リンクの提供を放置した場合等も,差止め・損害賠償の対象となり,5年以下の懲役・500万円以下の罰金,あるいはその併科という刑事罰の対象となりました。

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