弁護士視点で知財ニュース解説

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デザイン保護と著作権法

cont_img_68.jpg著作権法が保護する著作物には,絵画,彫刻,音楽など様々なものがあります。 これら代表的な著作物は,創作者が,表現の対象を選択し,自らが抱く美を表現するというところに特徴があります。 そして,このような代表的な著作物は,この世に一つしか存在しない,いわゆる一品ものとして著作権法によって保護されています。

ところが,世の中には,量産される実用品に装飾を施すという場合もあり,このような工業デザインが著作権法によって保護されるのかという問題があります。

この問題は,比較的古くから議論されている問題で,現行の著作権法は,昭和41年4月20日著作権制度審議会の答申第二案を採用して制定されていると言われています。

この「答申第二案」は,以下のとおりの内容になっています。

今回の著作権制度の改正においては以下によることとし,著作権制度および工業所有権制度を通じての図案等のより効果的な保護の措置を,将来の課題として考究すべきものと考える。

  1. 美術工芸品を保護することを明らかにする。
  2. 図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては,著作権法においては特段の措置は講ぜず,原則として意匠法等工業所有権制度による保護に委ねるものとする。ただし,それが純粋美術としての性質をも有するものであるときは,美術の著作物として取り扱われるものとする。

ここで「美術工芸品」とは,実用品ではあるものの一品ものを指しています。 そして,著作権法では,美術工芸品が著作物に含まれるという規定が設けられています。

他方,「量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするもの」については,答申が示しているとおり,著作権法には規定が存在しません。

しかし,裁判所では,答申第二案が示す「それが純粋美術としての性質をも有するもの」については著作物として保護する考え方が採用されています。

そして,ひな型や模型に限らず製品についても,「それが純粋美術としての性質をも有するもの」すなわち「本来の用途と離れて鑑賞の対象となるもの」であるならば,著作物として著作権法の保護の対象にするという基準が採用されています。

また,それが鑑賞の対象となるものであるか否かは,一般人を基準に判断さえていますので,商品デザインが著作物と認められ,著作権法によって保護される場合というのは非常に限られた場合ということになります。

ところで,著作権法は,美術家などが創作したものに限らず,一般の方であっても,その方の個性が表現されていれば創作性が認められ,著作物として保護しますので,保護の対象は比較的広く,高い創作性が求められていないと言われています。

それでは,著作権法が求める創作性と,量産品に求められる「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」との関係は,どのように考えればよいのでしょうか。

「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件は,量産品については通常の著作物よりも高い創作性が求められていると説明されることがあります。

しかし,著作権法が求める創作性と量産品に求められる「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件は異質のものであると考えています。

そもそも,裁判所において,「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件が求められている理由は,答申第二案において,量産品が「純粋美術としての性質」を備えた場合には,例えば彫刻の著作物と同様に著作権法によって保護するとされているからです。

つまり,「純粋美術としての性質をも有するもの」という要件は,絵画や彫刻の著作物のように一般的な著作物であれば顕在化することのないよう要件が,本来,鑑賞の対象となるものではない量産品について顕在化しているだけであると考えるべきです。

知財高裁平成27年4月14日判決(TRIPP TRAPP事件)では,以下のとおり判示されました。

著作物性の要件についてみると,ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号),「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。

表現が平凡かつありふれたものである場合,当該表現は,作成者の個性が発揮されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできない。

応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり,表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。

この判決では,答申第二案において,著「作権制度および工業所有権制度を通じての図案等のより効果的な保護の措置を,将来の課題として考究すべき」とされていることから,一歩踏み込んだ判断を行うという趣旨ともとれる理由が示され,量産品について「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件が不要になったと解説されることがありました。

しかし,それは誤りであると考えます。

あくまで,量産品を著作物として著作権法で保護する限りにおいては,量産品が彫刻や建築などの立体物の著作物と同様に「純粋美術としての性質」を備えている必要がありますし,この結果,創作性の程度とは異質の「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件が不可欠であると考えます。

その後,知財高裁平成28年10月13日判決では,実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上,美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である(これは,美術の著作物としての創作性を認める上で最低限の要件というべきである)と判示されています。

また,知財高裁平成28年12月21日判決では,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえないと判示し,創作性と「純粋美術としての性質」,つまり「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件が全く別物であることが明確に示されています。

著作権法による商品デザインの保護を検討する場合,当該デザインに創作者の個性が表れているかという問題とともに,「純粋美術としての性質」,つまり「本来の用途と離れて鑑賞の対象となる」という要件について検討する必要があります。

そして,この基準を前提にする限り,商品デザインが著作権法によって保護される場合というのは非常に稀なケースだといわざるを得ません。

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