弁護士視点で知財ニュース解説

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リーチサイトは著作権を侵害しているのか?

リーチサイトは,違法コンテンツを直接掲載せず,違法コンテンツが掲載されたサイトに誘導するリンクを複数掲載するサイトです。

リーチサイトの主な収入源は,アクセス数を増やすことで有力な広告媒体となることで得られる広告収入だと言われています。

そもそも,違法コンテンツを配信するサイトは,検索エンジンで検索することができないようにしていますので,URLを知らない限り,一般の人は容易にアクセスすることができません。
他方で,リーチサイトは検索エンジンにより検索することができ,一般の人でも容易にアクセスすることができ,一般の人は,リーチサイトにアクセスすることで違法コンテンツを配信するサイトにもアクセスすることができるようになります。

リーチサイトの運営者が,違法コンテンツを配信するサイトの運営者と共謀して違法コンテンツの配信に関与していることが確認できる場合には,違法コンテンツの配信を行っているものと評価され,刑事,民事の両方の制裁を受けることになります。

しかし,リーチサイトの運営者が,違法コンテンツを配信するサイトの運営者と共謀していない場合や,共謀の事実を確認することができない場合であっても,リーチサイトが著作権侵害を助長していることに間違いないわけですから,リーチサイトの運営者を法の制裁の対象にすることができないかという議論が行われているわけです。

これとよく似た議論は以前からカラオケでありました。

当初は,店側が機会を操作し楽曲と歌詞を提供し,客が歌唱するというカラオケスナックが問題となり,最高裁は,店側が楽曲や歌詞を提供し,客が心地よく歌唱することができる環境を積極的に醸成しているなどの点をとらえて店舗経営者の著作権侵害を認めました。

カラオケボックスが主流になると,カラオケボックスの経営者が著作権を侵害しているといえるのかという問題が発生しました。
カラオケボックスの場合,店側は,カラオケの機器を操作するリモコンと個室の空間を提供するだけであり,カラオケスナックよりも店側の関与は小さいと言えます。
しかし,東京地裁は,経営者の管理下で顧客が歌唱していること,経営者はそれによって利益を得ていることから,著作権侵害の主体をカラオケボックスの経営者である判断しました。

時代が変わり,インターネット掲示板が盛んに利用されるようになると,掲示板で著作権を侵害する記事が掲載された場合に,掲示板の運営者が著作権を侵害しているといえるかという問題が発生しました。cont_img_46.jpg


この問題については東京高裁が,掲示板の運営者には,投稿者に著作権を侵害する記事を掲載しないように注意を喚起するだけでなく,実際に書込みが行われた場合には適切な是正処置をとる義務があり,著作権侵害の主体として掲示板の運営者も含める判断を行いました。

この東京高裁の考え方は,カラオケボックスに関する東京地裁の考え方の延長上にあり,掲示板運営者は,掲示板の管理をしていること,掲示板を運営することにより利益を得ていることから,著作権侵害の主体と認められたと言われています。

裁判所は,直接的に著作権侵害行為を行っていない者に,著作権侵害の主体性を認める基準として,管理していること,利益を受けていることの二つの要件を設定していると言われていますが,リーチサイトの運営者は,基本的に,違法コンテンツを配信するサイトを管理下においていません。

ですから,リーチサイトをカラオケボックスやインターネット掲示板と同様に議論することはできないと思います。

名誉毀損やプライバシー侵害といった人格権侵害の事例では,リンク先の記事を取り込んでいると認めることができる場合には、リンク先の記事に記載された内容も含めて権利を侵害しているといえるのかを評価すると判断した東京地裁の判決があります。

そして,誘導文言がなく,単にURLのみが表示されている場合であっても,リンク先の記事に権利を侵害する内容の記載が行われていれば,人格権を侵害したことになると判断した裁判例も存在します。

他方,東京地裁では,著作権侵害のコメントをリツイートしただけでは著作権侵害にならないと判断されたことがあり,リンクによる引用は著作権侵害にならないという考え方が主流になっています。

人格権と著作権とで結論が異なる理由は,著作権という権利の性格にあるのかもしれません。

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私達は,著作者が取得する権利を「著作権」と呼んでいますが,「著作権」という言葉は,著作権法に定められた複製権,上映権・演奏権,公衆送信権などの総称として使用されています。

そして,「著作権」は,著作物をコントルールする権利であると理解されているのですが,インターネット上で著作物をコントロールする方法の一つである「リンク設定権」とも呼ぶべき権利は,著作権法によって設けられていません。

著作権が個々の権利の総称に過ぎないこと,著作権法ではインターネット上で著作物をコントロールする権利として「リンク設定権」と呼ぶべき権利が設けられていないことから,「サイト上でリンクを貼っただけでは著作権侵害にならない。」という考え方が主流になっていると思います。

リーチサイトの問題は,忌々しき問題で放置することができません。
しかし,カラオケボックスやインターネット掲示板での裁判所の考え方を拡張し,管理下にあったか否かの要件を不要とする考え方は誤っていると思います。

他のサイトに簡単に写ることができる「リンク」という機能そのものは有用で,著作権法的には中立な技術なわけですから,「リンク」そのものを法律で規制することは,過度に情報流通を妨げると言わざるを得ません。

リンク全般を法によって規制するということは,人を傷つける道具であることから包丁の製造・販売を一切禁止すると言っているようなものだと思います。

リーチサイトの問題は,「リンク」という機能と離れて,特定の問題行為のみを法の規制下におくべできあり,そのためには立法的に解決する以外にないと思います。

なお,2020年10月1日より,違法コンテンツへのリンクを提供する行為が差止め・損害賠償の対象となり,3年以下の懲役,300万円以下の罰金,あるいはその併科という刑罰の対象となりました。

また,サイト運営者・アプリ提供者が,リンクを削除できるにもかかわらず,リンクの提供を放置した場合等も,差止め・損害賠償の対象となり,5年以下の懲役・500万円以下の罰金,あるいはその併科という刑事罰の対象となりました。

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