弁護士視点で知財ニュース解説

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IoT時代の標準必須特許ライセンス(1)

cont_img_81.jpg特許庁は,平成30年3月9日,「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)」を公表しました。

標準必須特許とは,標準規格に不可欠な技術でありながら,特定の企業が当該技術について特許権を有しているものです。

あらゆるモノがインターネットに接続されるようになるIoT時代においては,多数のモノづくり企業が標準化された通信技術を使用することになります。

特定の通信業界の企業が通信に関する標準必須特許を保有している場合,モノづくり企業は,標準必須特許を保有する企業から特許発明の実施許諾を受けなければなりません。

標準必須特許を保有する企業が,対象となる技術の実施許諾について自由に決定することができれば,実施許諾を求める企業は,標準必須特許を保有する企業の言いなりにならざるをえません。

また,場合によっては,標準必須特許の実施を受けることができないために,IoTを前提にしたモノづくりに参加することができないということにもなりかねません。

このような不都合が生じないように,様々な分野で標準化団体というものが存在し,標準化団体が,標準化させる技術を決定しています。

そして,特定の企業が,自社の特許を標準化させる場合には,標準化団体に申入れを行うことになるのですが,標準化団体は,標準化を求める企業に対して,自社の特許についてFRANDを宣言するように求めます。

なお,自社の特許を標準化させるために行ったFRAND宣言は,取消すことができません。

FRANDとは,「Fair, Reasonable and Non-Discriminatory」の略で,公正,合理的,かつ非差別的な条件で特許の実施を認めることを意味しており,特許権者は,これを宣言しない限り,自社の特許を技術標準として採用してもらえないことになります。

なお,FRANDには,最終的に決定されたライセンス条件の公正性,合理性,非差別性だけでなく,交渉過程における公正性,合理性,非差別性をも意味しています。

そして,標準必須特許のライセンス交渉において,特許権者側が不誠実であると評価されると,特許権侵害による差止請求が認められなくなる方向に働き,実施者側が不誠実であると評価されると特許権侵害による差止請求が認められる方向に働くことになります。

このような考え方は,各国で認められた考え方であり,基本的には,日本の裁判所においても採用されている考え方です。

従前の通信の分野においては,通信業界の企業間で,特許のライセンスが行われていました。
そして,通信業界の企業は,それぞれ標準必須特許を保有していることから,それぞれの企業が自社の特許を,公正,合理的,かつ非差別的な条件で実施することを認めなければならないという自制が働いていました。

ところが,IoTの時代になると,モノづくりの企業が通信業界の企業に対して通信分野に関する標準必須特許の実施を求めるということが多くなります。

モノづくりの企業は,通信分野において標準必須特許を保有していないことから,通信分野の企業間であれば機能していた「自制」というものが機能しなくなり,FRANDを宣言していたとしても実際のライセンス交渉で紛争に発展することが予想されます。

他方で,標準必須特許を保有するものから誠実な提案が行われているにもかかわらず,標準必須特許による差止請求が認められない可能性があることを見越して許諾を受ける側が不誠実な対応を行うという問題が指摘されるようになりました。

これらの問題意識から,現段階における内外の裁判例や競争当局の判断,ライセンス実務の動向を踏まえたライセンス交渉を巡る論点をまとめたものとして「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き(案)」が公表されました。

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