育成者権とは
植物の新品種の育成には、専門的な知識、技術、経験が必要な上に、長期にわたる労力と多額の資金やほ場等の設備が必要になってきます。他方、新品種は、一度世の中に出回ると、第三者がこれを増殖することは非常に容易です。
そこで、新品種の育成に投資した育成者に対して品種登録した種苗の利用に関する権利を独占させることで、新品種の育成に要した資金の回収を可能とさせ、新品種の開発の意欲を高める必要があります。
育成者権とは、このような新品種を開発した育成者に対して、投下資本の回収を可能とさせ、新品種の開発意欲を高める権利なのです。
ところで、特許権は、工業製品の発明について、発明者に投下資本の回収を可能とさせ、更なる発明意欲を高める権利です。育成者権は、特許権と同様の趣旨の下、農林水産業の分野における新品種の開発意欲を高める権利と言えます。そして、この育成者権について定めるのが種苗法です。
特許権との比較
特許法は、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発展に寄与することを目的とする。」と規定しています。
これと同様に、種苗法では、「新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする。」と規定されています。
それぞれの法律の目的を比較しても、新品種保護制度が農林水産業分野における特許制度のようなものであることが理解できると思います。
育成者権を得るには、特許権と同様に、品種登録出願を行います。特許権については、出願から1年6ヶ月後あるいは審査請求を行った際に発明が公開されますが、育成者権においては出願後遅滞なく公表されることになります。
また、品種登録出願がなされると、登録要件が備わっているか否かが審査されることになります。
そして、登録審査の結果登録要件が備わっていると判断されたときに新品種登録がなされ、登録要件が備わっていないと判断されたときには、拒絶理由通知が発せられ出願者に意見書を提出する機会が与えられることになります。
このような新品種登録に至るまでの手続においても、特許権と非常に似ているといえます。以上で説明したとおり、育成者権とは、まさしく農林水産業における特許権であるといえます。
育成者権の内容
種苗法では、育成者権者に対して、品種登録受けている品種(これ「登録品種」と呼びます。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を独占的に与えています。
品種
種苗法において「品種」とは、「重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいう。」と規定されています。
植物体
「植物体」とは、農林水産植物の個体をいいます。
「農林水産植物」とは、「農産物、林産物、及び水産物の生産のために栽培される種子植物、しだ類、せんたい類(こけ植物)、多細胞の藻類(のり、わかめ、こんぶ等)、その他政令で定める植物をいう。」と規定されています。
なお、その他政令で定める植物には、32種類の胞子を生じる菌糸組織の集合体であるきのこがあります。
重要な形質
「重要な形質」とは、その植物について品種を区別するときに見るべき重要な要素のことです。例えば、あさがおの花色、花の形状、花の大きさ、葉の形状等が重要の形質となります。
特性
「特性」とは、それぞれの形質ごとに表現される性質のこといいます。
例えば、花色という形質に対する「赤い」が特性となるのです。上記した品種について種苗法で定められた要件を満たす品種の育成をした者がその品種についての登録を受けることができることができるのです。
育成
育成とは、人為的変異又は自然的変異に係る特性を固定し又は検定することをいいます。変異は遺伝的なものでなくてはなりません。
そして、変異は、特性の選抜を繰り返して特定が安定的に発現させることが必要になります。
人為的変異
人為的変異とは、人為交雑、放射線照射、薬品処理等により生じた変異のことです。
自然的変異
他方、自然的変異とは、自然交雑や枝変わり等の突然変異により生じた変異のことをいいます。