知的財産
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使用者と従業員の間で行われる協議

特許法35条4項の「使用者等と従業員等との間で行われる協議」の「従業員等」とは、「対価を決定するための基準」が適用される従業員等のことです。

「対価を決定するための基準」は、一般的に発明に先立って策定されるものですから、策定の段階で、当該基準の対象となる従業員等と協議を行うことが必要になります。

仮に、全従業員を対象とした基準を作成するのであれば、全従業員が協議の相手方となります。

但し、「協議」は必ずしも一人一人と個別に行う必要はなく、集団的に話合いを行うことも認められます。

そして、集団的に話合いが行われた場合に発言を行わなかった従業員が存在しても、当該従業員に発言の機会が全く与えられていなかったなどの特殊事情がある場合を除き、原則として「協議」は行われたものと評価されます。

従業員に研究職、一般職といった異なる属性の集団が存在したとしても、集団ごとに「協議」を行うことまでは求められていません。

但し、利害関係が異なる集団が存在する場合に、集団ごとに発言の機会を与えなければ、発言を行うことができなかった集団に属する従業員とは「協議」を行わなかったと評価される可能性が多分にあります。

代表者を通じた協議

使用者と従業員の代表者を通じて「協議」を行うことも認められます。

但し、当該代表者が「協議」の対象となっている従業員等を正当に代表していることが必要になり、当該代表者が特定の従業員を代表していない場合には、使用者等と特定の従業員との間では「協議」が行われなかったものと評価されます。

各従業員の代表者に対する委任は、明示的であっても黙示的であってもよいですが、代表者を選任することに反対した従業員に関しては委任関係が存在しませんので、使用者と代表者の「協議」が存在したとしても、当該従業員との関係では「協議」が行われていないものと評価されます。

但し、多数決などの方法により選任された代表者に協議権限を委任することを了承した上で多数決などの方法により代表者を選出した場合には、代表者に賛成票を投じなかった従業員との関係においても、当該代表者は正当な代表者ということになりますので、賛成票を投じなかった従業員との関係においても「協議」が行われたものと評価されます。

過半数の従業員を代表する代表者と「協議」を行った場合、当該過半数の従業員以外の従業員との関係では「協議」は行われていないこととなりますので、過半数の従業員以外の従業員との間でも別途「協議」を行う必要があります。

使用者が「協議」を行う従業員を指名した場合、指名された従業員が対象となる従業員全員の委任(明示・黙示のどちらでもかまいません。)を受ける必要があります。

使用者が組合の代表者と「協議」を行う場合、当該代表者が組合員を正当に代表しているものであるならば、組合員である従業員との関係では「協議」が行われたことになりますが、労働組合への加入権のない役員や非組合員である従業員との関係では「協議」が行われたことにはなりません。

労働組合の代表者が使用者から「協議」の申入れを受けて、各組合員に対して、組合を代表して使用者等と協議を行うことを通知し、各組合員の意見を募集したところ何らの反応もない場合には、当該代表者に使用者と「協議」を行う権限が与えられたものと評価することができます。

したがって、仮に合意にまで至らなかったとしても、使用者等と当該従業員等との間において、実質的に協議が尽くされたと評価できる場合には、その協議の状況としては不合理性を否定する方向に働きます。
なお、協議の結果として、使用者等と従業員等(又は従業員等の代表者)との間で合意に至っている場合には、その事実自体は、協議の状況としては不合理性をより否定する方向に働くものと考えられます。

また、「協議」に応じない従業員がいた場合には、当該従業員との関係では「協議」が行われなかったということになりますが、当該従業員に対していかなる方法による「協議」を求めたのか、それに対して当該従業員がどのように対応したのかといった諸事情が不合理性を判断する上で考慮される事情になると思われます。

協議の時間

使用者と従業員との間で、誠実な協議が十分に行われたにもかかわらず、意見の相違が解消されず、それぞれの主張が対立したまま協議が行き詰まり、協議が打ち切られたとしても「協議」が行われなかったということにはならないと思います。

また、協議を予定された時間の経過により打ち切った場合であっても、予定された時間内に、使用者と従業員との間で実質的に協議が尽くされたと評価できる場合には、協議の状況としては不合理性を否定する事情となりますが、一般的には、協議の時間を予め設定しておき、予定された時間が経過すれば協議を打ち切るという方法は、実質的に協議が尽くさていないと評価される可能性が多分にありますので注意を要するところです。

協議の質

特許法35条4項の「協議」が十分に行われるためには、使用者、従業員とも基準の策定に関係する資料・情報を十分に把握していることが望ましいといえます。

使用者、従業員とも把握しておくべき情報としては以下のようなものを挙げることができます。

  • 会社の作成した基準案の内容
  • 研究開発に関連して行われる従業員等の処遇
  • 研究開発に関連して使用者等が受けている利益の状況
  • 研究開発に関する使用者等の費用負担やリスクの状況
  • 研究開発の内容・環境の充実度や自由度
  • 公開されている同業他社の基準

また、単に情報を開示するだけではなく、従業員に理解してもらう上で必要であるならば、上記した情報につき説明会を開催することも検討しなければなりません。

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