損害賠償の根拠は民法709条
特許権などの知的財産権侵害による損害賠償請求は民法709条に基づくものであるところ、特許権者としては、侵害行為の存在、損害の発生、侵害行為と損害発生との因果関係、侵害者の故意・過失の全て立証する必要があります。
ここで、侵害者の故意・過失は、侵害者の主観的要件であり、客観的事実から推認して認定されます。
しかし、客観的事実から、侵害者の主観を推認することが困難なことがあります。また、知的財産権侵害による損害は、その侵害がなければ得られたであろう利益(逸失利益)ということになります。
このように、現実には知的財産権が侵害され権利者の利益が減少しているにもかかわらず、知的財産権が侵害されていないことを想定し、両者の差額を算定するというのが基本となります。
しかし、現実には侵害されているにもかかわらず、侵害されていない状態を想定すること自体困難である上に、当該技術が所属する市場そのもの変化、同一市場での代替技術の動向や新技術の登場等、想定することを困難にする要因が多数存在し、そもそもこのような想定が不可能であるといっても過言ではありません。
この結果、不法行為と損害との因果関係の立証が極めて困難になります。
そもそも、損害賠償は、本来的には被害者が被った損害の填補のために存在するものの、損害賠償を認めることによる侵害行為の抑止力として機能する必要もあります。
それにも関らず、侵害者の主観的要素や侵害行為と損害との因果関係につき立証が十分になされていないことをもって侵害者による損害賠償を否定したのであれば、特許権者が被った損害を填補し得ないばかりでなく、特許権侵害を誘発することにもなりかねません。
そこで、特許法などの知的財産権法は、侵害者の故意・過失の推定規定及び損害額の推定規定を設けています。