知的財産権侵害については侵害者の過失が推定される
知的財産権侵害につき損害賠償請求を行うためには、侵害者の故意・過失が必要になります。
ただし、特許法などでは、各知的財産権の保護を図る(1条)ため、侵害者には過失があるものと推定されており、侵害者において過失がないことを反証する必要があります。
ここで、推定される対象は、侵害者において特許権の存在を認識していたこと、侵害者の製品や方法が当該特許権の特許請求の範囲に含まれることとなります。
そして、侵害者の反証としては、当該特許発明の存在を知らなかったことに相当の理由があったこと、侵害者の製品や方法が当該特許権の特許請求の範囲に含まれないと信じるにつき相当の理由があったことを立証することになります(「ガスセンサー事件」判決・大阪地裁平成8年2月29日判決参照)。
侵害者の製品や方法が当該特許権の特許請求の範囲に含まれないと信じるにつき相当の理由があったことの立証は、非常に困難であり、仮処分手続で非侵害の認定を受けていたこと(東京地裁昭和39年10月31日判決)、弁理士等の専門家に相談したところ非侵害の意見を受けたこと(東京地裁昭和38年9月21日判決、東京地裁昭和47年6月29日判決、大阪地裁昭和59年10月30日判決、大阪地裁平成元年8月30日判決)をもって過失の推定は覆られないとされています。
ただし、侵害者において特許権の存在を認識することが困難な場合があることにも配慮し、特許法などでは軽過失による特許権侵害に関しては、相当な実施料額の限度を損害賠償額の裁量的減額を認めているところ、損害賠償額の裁量的減額の余地があると考えます。
過失の推定規定は、発明の内容が特許公報により公示されていること、業としての実施のみが侵害とされているところ、業者に対して調査義務を課したとしても酷ではないことから、過失の推定規定が設けられています。
この結果、公報が未公表のため侵害者に権利内容の認識を求めることが酷である場合には過失の推定規定が適用されないと判示された裁判例があります(大阪地裁昭和47年3月29日判決、大阪地裁昭和48年11月28日判決、大阪高裁平成6年5月27日判決)。