交通事故
社外取締役読本

内部統制システムと社外取締役の責任

内部統制システム(法362条4項6号)は,取締役の業務執行の適正を確保するための体制であり,大会社においては,内部統制システムの構築は義務化されています(法362条5項)。

内部統制システムの趣旨は,①リスク管理,②法令順守,③業務の効率化,④適正な財務報告にあります。

そして,具体的に構築すべき体制として以下のものがあります(規則100条監査等委員会設置会社については,監査役が監査等委員会法399条の13,規則110条の4において規定されており,⑪,⑬,⑭,⑱の監査役が監査等委員会,⑮の監査役に報告をするための体制が監査等委員会に報告をするための体制,⑰の監査役が監査等委員と読み替えることになります。

三委員会設置会社については,法416条,規則112条において規定されており,①,②,④,⑫の取締役が執行役,⑪,⑬,⑭,⑱の監査役が監査委員会,⑮の監査役に報告をするための体制が監査委員会に報告をするための体制,⑰の監査役が監査等委員と読み替えることになります。)。

  1. ① 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  2. ② 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に対する体制
  3. ③ 損失の危険の管理に関する規定その他の体制
  4. ④ 取締役の職務執行が効率的に行われることを確保するための体制
  5. ⑤ 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  6. ⑥ 当該株式会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を保するための体制
  7. ⑦ 子会社の取締役等の職務の執行に係る事項の当該株式会社へ報告に関する体制
  8. ⑧ 子会社の損失の危機の管理に関する規定その他の体制
  9. ⑨ 子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われていることを確保するための体制
  10. ⑩ 子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法定及び定款に適合することを確保するための体制
  11. ⑪ 監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
  12. ⑫ 使用人の取締役からの独立性に関する事項
  13. ⑬ 監査役のその職務を補助すべき使用人に対する指示の実行性の確保に関する事項
  14. ⑭ 取締役及び会計参与並びに使用人が監査役に報告をするための体制
  15. ⑮ 子会社の取締役,会計参与,監査役,執行役,業務を執行する社員,法598条1項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が監査役に報告をするための体制
  16. ⑯ 報告した者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
  17. ⑰ 監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
  18. ⑱ その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

株主代表訴訟において,従業員の架空計上による会社の損害が内部統制システムの不備による任務懈怠によるものであると争われた事件において,①代表取締役が通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えていたこと,②不正行為が通常容易に想定し難い方法によるものであったこと,不正行為の発生を予見すべき特別な事情も見当たらないこと,④リスク管理体制が機能していなかったとはいえないこと,に該当する場合には任務懈怠とはいえないと判断されています(最判平成21年7月9日)。

すなわち,通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整え,当該体制が機能していることが,取締役の善管注意義務違反による責任回避の前提になっているわけです。内部統制システムの趣旨の一つに業務の効率化が挙げられているとおり,内部統制システムは,取締役の責任回避のためのものではなく,持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するために積極的利用されるべきものです。

内部統制システムに係る決定または決議の内容の概要と当該体制の運用状況の概要について事業報告に記載しなければならず(規則118条2号),取締役は,計算書類と事業報告を定時株主総会に提出・提供し取締役会設置会社においては,定時株主総会の招集通知の際に,計算書類・事業補酷暑が提供されるので(法437条,規則133条),株主総会の際に,改めて株主に配布する必要はありません。,その内容を報告しなければなりません(法438条1項,3項)。

事業報告は監査の対象であることから,これを受け取った監査役会(監査等委員会・監査委員会)が,内部統制システムの整備に関する決定内容が相当でないと認めるときは,その旨とその内容が監査報告の内容となります(規則129条,130条2項2号,130条の2第1項号,131条1項2項)。

ですから,事業報告に示された内部統制システムに係る決定または決議の内容の概要と当該体制の運用状況と,監査報告に示された自己評価を確認することができます。

会社の業務において発生するリスクをコントロールするためには,リスク事象の洗い出し,リスク事象の発生可能性・頻度,発生時に会社に与える影響を分析・評価し,①リスクを完全に回避する,②許容範囲まで低減を図る,③許容する,等に区分し,回避,低減のための手順を構築することになります。

そして,このようにして構築されたリスク管理体制は,改めて評価し,改善点がある場合には改善を施していくという作業が必要になります(リスク管理体制のPDCAサイクル)。

社外取締役は,事業報告及び監査報告に基づいて,就任直後,内部統制システムが十分な内容を伴っているか確認し,確立されたリスク管理体制を改めて評価し,改善すべき点につき改善を行うということが取締役の職務の執行の一部として定着しているかについても確認する必要があります。

そして,現存の内部統制システムにおいて会社に損害を与える事象が発生した場合には,当該事象の発生原因を特定し,当該事象の発生を防止する体制を整える必要がありますが,社外取締役は,当該体制を整えるにあたっての監督者として積極的に関与していく必要があります。

金融商品取引法上の社外取締役の責任

①取締役を含む役員は,金融商品取引法に定める有価証券届書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは,当該有価証券を募集または売出しに応じて取得した者に対し,記載が虚偽でありまたは欠けていることにより生じた損害を賠償する責任を負います(金商法21条1項)。

また,②取締役を含む役員は,金融商品取引法の定める開示書類(有価証券届出書,有価証券報告書,四半期報告書,半期報告書,臨時報告書等)のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは,かかる虚偽記載等を知らないで,提出会社が発行した有価証券を募集または売出しによらないで取得した者または処分した者に対し,記載が虚偽でありまたは欠けていることにより生じた損害を賠償する責任を負います(金商法22条1項,24条の4,24条の4の7第4項,24条の5第5項等)。

①は有価証券発行の場面,②は有価証券流通の場面における取締役を含む役員の責任です。

いずれも,取締役を含む役員が,記載が虚偽であり,または欠けていることを知らず,かつ,相当な注意を用いたにもかかわらずしることができなかったことを立証しないかぎり賠償責任を免れることができません(金商法21条2項1号,22条2項)。

社外取締役も取締役である以上,原則として,上記した責任を負うことになりますが,社外取締役という地位の性質上,社内の業務担当取締役と比べて「相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかった」という免責のための要件の立証が比較的認められやすいと考えられてはいます。

ただし,社外監査役につき,常勤監査役の職務執行の適正さに疑念を生ずべき事情があるときは,これを是正するための措置を執る義務があるにもかかわらず,取締役等による報告等を信頼していただけでは,相当な注意を用いていないとして損害賠償請求が認められた裁判例が存在します(東京高判平成30年3月23日)。

社外取締役は,監査役のような調査権を有していないため,社外監査役に関する上記裁判例を社外取締役に適用することはできないと考えることも可能ですが,上記裁判例の存在には注意を要するところです。

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