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社外取締役読本

監査役会設置会社における社外取締役の職務

社外取締役の職務

社外取締役は,内部の取締役と異なる「法の支配の番人」としての役割を担うことが期待されているわけですが,取締役会の構成員として会社法が定める職責の中で上記した職責を果たすことになります。

そのため,社外取締役の職務を理解する上で,会社法が定める監査役会設置会社,三委員会設置会社,監査等委員会設置会社における取締役会の権限を理解しておく必要があります。社外取締役は,取締役会の構成員としての職責と別に,株主総会において,株主から説明を求められた場合には,当該事項につき必要な説明を行わなければならない(法314条),他の取締役の行為が法令・定款を遵守し,適法かつ適正にされていることを監視しなければならない(最判昭和48年5月22日)ということにも留意しておく必要があります。

以下では,会社法が定める取締役の職責の概要を説明します。

社外取締役は,業務執行取締役でないことが前提になっていますので(法2条15号),社外取締役の職務は,取締役会の構成員としての活動になります。
そして,取締役会の権限は,業務執行の決定(法362条2項1号)と取締役の業務執行の監督(同行2号)です。

業務執行の決定

会社法上の職務

取締役会は,会社の業務執行の決定を行います(法362条2項1号)。
ただし,取締役会は,取締役会の専決事項以外の事項の決定を代表取締役等に委任することができます。

以下の各事項は,取締役会の専決事項とされており,定款によっても代表取締役,その他の取締役に移譲することができません(法362条4項法362条4項に基づき,それぞれの会社では,取締役会付議事項を定めています。取締役会付議事項が法362条4項に沿ったものでない場合,取締役の任務懈怠責任(法423条)を負う可能性があります。)。

  • ① 重要な財産の処分及び譲受け
  • ② 多額の借財
  • ③ 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
  • ④ 支店その他の重要な組織の設置,変更及び廃止
  • ⑤ 募集社債に関する重要事項(法676条1号,規則99条)
  • 内部統制システムの構築取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令(規則100条)で定める体制の整備
  • ⑦ 取締役等による免除に関する定款の定め(法426条)に基づく役員等の損害賠償責任(法423条1項)の免除
  • ⑧ その他重要な業務執行の決定

なお,取締役が6名以上であり,社外取締役が1名以上である場合には,重要な財産の処分・譲受け,多額の借財の決議については,取締役会であらかじめ選任した3人以上の特別取締役による決議をもって,取締役会決議とすることができます(法373条1項特別取締役の互選で定めた者は,決議後,遅滞なく,決議の内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければなりません(法373条3項)。)。

取締役会は,取締役の中から,少なくとも1名の代表取締役を選任し(法362条2項3号,同条3項),会社の業務を執行する取締役を選任することができます(同条1項2号)。

CGコード上の責務

CGコードにおいては,業務執行の決定に関する取締役会の責務についての原則が定められていますので整理しておきます。

上場会社の取締役会は,株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ,会社の持続的成長と中長期的な企業の向上を促し,収益力・資本効率等の改善を図るべく,(1)企業戦略等の大きな方向性を示すとともに(基本原則4(1)),株主以外のステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重,健全な事業活動倫理などについて,会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則の策定・改訂(原則2-2),株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を策定することが求められています。

そして,取締役会は,会社の目指すところ(企業理念等)を確立し,戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え,具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきであり収益力・資本効率は,株主の目線を前提にすると短期的なものになりがちであるが,取締役会としては,持続的成長と中長期的な企業の向上を見据えた判断が求められていることに留意する必要があります。
そして,社外取締役には,慣行的に行われてきた政策に対しても,外部の者の視線で,収益力の有無や資本効率が合理的なものとなっているかにつき検討を行い,取締役会において,積極的議論することが求められていると思います。
,重要な業務執行の決定を行う場合には,上記の戦略的な方向付けを踏まえるべきであるとされ(原則4-1),取締役会は,取締役会自身として何を判断・決定し,何を経営陣に委ねるのかに関連して,経営陣に対する委任の範囲を明確に定め,その概要を開示すべきである(補充原則4-1①)とされています。

また,経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことが求められ(基本原則4(2)),取締役会は,経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え,経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ,説明責任の確保に向けて,そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに,承認した提案が実行される際には,経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである,経営陣の報酬については,中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ,健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである(原則4-2)とされています。CGコードは,取締役による業務執行を単純に抑制していこうとするものではなく,「健全なリスクテイク」を志向した上で,社外取締役が独立かつ客観的な視点でコントロールすることを期待しているといえます。

そして,政策保有株式として上場株式を保有する場合には,政策保有株式の減縮に関する方針・考え方など,政策保有に関する方針を決定し,個別の政策保有株式について,保有目的が適切か,保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し,保有の適否を検証し,政策保有株式に係る議決権の行使について,適切な対応を確保するための具体的な基準を作成することとされています(原則1-4上場株式を政策保有株として保有すること自体に問題があるとするものではなく,保有に伴う便益やリスクと資本コストが見合った形で保有することが求められています。  ある程度定量的,定性的な政策保有の方針を設けた上で,業務提携等の保有することの合理的な理由等を考慮して保有の適否を判断すべきであると考えます。 )。

職務執行の監督

会社法上の職務

取締役会は,代表取締役及び業務執行担当取締役による執行を監督します。

なお,取締役会は,いつでも代表取締役を解任することができ(法362条2項3号),代表取締役の解任権,代表取締役・業務担当取締役の選任権を後ろ盾にして,監督機能の職務を行うことになります。

取締役は,3ヶ月に1回以上の頻度で行われる業務執行担当取締役の報告(法363条2項),業務・財産に対する調査,内部統制システムの運用状況と結果の報告に基づいて職務執行の監督を行います。

CGコード上の責務

CGコードにおいては,取締役の職務執行の監督に関する取締役会の責務についての原則が定められていますので,整理しておきます。

独立した客観的な立場から,経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む。)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと(基本原則4(3)),それを前提に,適切に会社の業務等の評価を行い,その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映する,適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに,内部統制やリスク管理体制を適切に整備する,経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理する(原則4-3)ことが求められています。

また,中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち,その実現に向けて最善の努力を行い,仮に,中期経営計画が未達に終わった場合には,その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し,株主に説明を行うとともに,その分析を次期以降の計画に反映させる(補充原則4-1②),会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ,最高経営責任者(CEO)等の後継計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに,後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう,適切に監督することが求められています(補充原則4-1③)。

そして,上場会社がその役員や主要株主等との取引(関連当事者間の取引)を行う場合には,そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないように,また,そうした懸念を惹起することのないよう,あらかじめ,取引の重要性やその性質に応じた適切な手続を定めてその枠組みを開示するとともに,その手続を踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うこと(原則1-7)が求められています。

さらに,株主以外のステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重,健全な事業活動倫理についての行動基準を国内外の事業活動の第一線にまで広く浸透し,遵守されるようにすること(原則2-2),従業員等が,不利益を被る危険を懸念することなく,違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう,また,伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう,内部通報に係る適切な体制整備を行い,その運用状況を監督すること(原則2-5)が求められています。

加えて,開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ,そうした情報(とりわけ非財務情報)が,正確で利用者にとって分かりやすく,情報として有用性の高いものとなるようにすること(基本原則3)が求められています。

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