交通事故
社外取締役読本

不祥事発生時の対応策

上場会社における不祥事対応のプリンシパル」(日本取引所自主規制法人)においては,上場会社の不祥事(重大な法令違反その他の不正・不適切な行為等)は,その影響が多方面にわたり,当該上場会社の企業価値の毀損はもちろんのこと,資本市場全体の信頼性にも影響を及ぼしかねないことから,自社(グループ会社を含む)に関わる不祥事又はその疑いを察知した場合は,速やかにその事実関係や原因を徹底して解明し,その結果に基づいて確かな再発防止を図る必要があるとされています。

そして,①不祥事の根本的な原因の解明,②第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保,③実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行,④迅速かつ的確な情報開示を求めています。

不祥事の根本的な原因の解明

必要十分な調査範囲を設定の上,表面的な現象や因果関係の列挙にとどまることなく,その背景等を明らかにしつつ事実認定を確実に行い,根本的な原因を解明するよう努める。
必要十分な調査が尽くされるよう,最適な調査体制を構築するとともに,社内体制についても適切な調査環境の整備に努める。その際,独立役員を含め適格な者が率先して自浄作用の発揮に努める。

第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保

内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当の疑義が生じている場合,当該企業の企業価値の毀損度合いが大きい場合,複雑な事案あるいは社会的影響が重大な事案である場合などには,調査の客観性・中立性・専門性を確保するため,第三者委員会の設置が有力な選択肢となる。
第三者委員会を設置する際には,委員の選定プロセスを含め,その独立性・中立性・専門性を確保するために十分な配慮を行う。

実効性の高い再発防止策の策定と迅速な実行

再発防止策は,根本的な原因に即した実効性の高い方策とし,迅速かつ着実に実行する。
組織の変更や社内規則の改訂等にとどまらず,再発防止策の本旨が日々の業務運営等に具体的に反映されることが重要であり,その目的に沿って運用され,定着しているかを十分に検証する。

迅速かつ的確な情報開示

不祥事に関する情報開示は,その必要に即し,把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。

社外取締役ガイドラインにおいては,不祥事発生時に社外取締役に期待される役割として,①不祥事を客観的に分析し,社内取締役とは異なった視点から,不祥事の具体的内容,発生原因について,業務執行に関与する取締役とは異なった公平かつ中立的な検討を行い,意見を述べることを,②発生した不祥事に対して,誰がどのような責任を負うべきかにつき,公平かつ中立的な判断をすることであるとされています。

また,社外取締役は,「上場会社における不祥事対応プリンシパル」を念頭に置いて,以下に示す対応を行うべきであるとされています。

社外取締役は,以下示す社外取締役ガイドラインに基づく対応等が求めらえます。

不祥事に関する情報が持ち込まれた場合

情報提供者が不祥事に関する情報を社外取締役に持ち込んだ場合,会社法357条の規定を踏まえ,その情報を直ちに監査役監査役会設置会社においては監査役会(法357条2項),監査等委員会設置会社においては監査等委員会(同条3項),三委員会設置会社においては監査委員会(法419条1項)となります。に報告し,監査役を通じた会社による不祥事対応を促す。

初動対応

  1. ① 社外取締役は,会社から不祥事が発生した旨を確知した場合,会社の不祥事対応策を正確に把握し,法令,上場規則等の関係法令により求められる開示手続等を含めて,会社の対応に問題がないか検討し,必要な意見を述べる。
  2. ② 社外取締役は,不祥事の内容・状況を踏まえた判断に基づき,初動段階において第三者委員会設置の必要性を,日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン例えば,マスコミ等を通じて不祥事が大々的に報じられたり,上場廃止の危機に瀕したり,株価に悪影響が出たり,あるいは,ブランド・イメージが低下し良い人材を採用できなくなったり,消費者による買い控えが起こったりするなど,具体的なダメージが生じてしまった企業等では,第三者委員会を設けることが不可避となりつつあるとされています。」を参考に判断する。そして,問題の概要が不明確な段階である等,第三者委員会選任の必要がなければ自らが調査を行うことも検討し,自らが調査対象となったり経営陣が直接関与しているなどの客観的な調査が必要な場合には,第三者委員会の設置及び適切な委員の選任に積極的に関与する。
  3. ③ 社外取締役は,経営陣から独立した立場において,会社が導入した内部通報制度が適切に運用されているかどうか,また,内部通報に対する報復措置がないかどうか,監督すべきである。
  4. ④ 社外取締役は,会社の制度として窓口となっているCGコードにおいては,経営陣から独立した窓口の設置(例えば,社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきとされている(補充原則2-5①)関係で,社外取締役が窓口として指定されている例が増えています。か否かにかかわらず,内部通報を受けたときは,自ら調査を行い,又は適切な役職員に対して調査等を依頼し,当該調査等を監督すべきである。

会社の不祥事対応が不適切であると判断した場合における対応

  1. ① 社外取締役は,会社が行う不祥事対応について,継続的かつ適切な時期に報告を受け,その対応に不適切な点があると判断した場合は,更に情報の提供を求め,必要な是正を促すために積極的な意見を述べる。
  2. ② 社外取締役は,①の場合において不適切な対応を是正するために,取締役会で必要な発言をして議事録に記録させるほか,監査役,会計監査人とも必要な連携を行う。
  3. ③ これらの取組にもかかわらず,孤立するような事態に至った場合,社外取締役は,辞任を含め,毅然とした対応を取る。

不祥事対応の最終段階における対応

社外取締役は,会社が不祥事対応を適切な形で終えるよう,以下の点に注意し,必要な意見を述べる。

  1. ① 不祥事の原因を的確に分析し,当該分析を踏まえた今後の再発防止策が策定され,実行に移されていること。
  2. ② 不祥事の責任を負うべき者に対して,相当かつ適切な処分あるいは責任の追及を行っていること。
  3. ③ 不祥事により会社が損害を与えた相手に対して,適切な措置を採っていること。
  4. ④ 必要とされる対外的対応を採っていること。

不祥事の発覚が内部通報によるものであり,世間において認識されていないものであるならば,初動体制を整えるまで比較的時間の余裕がありますが,報道機関による報道,行政機関による調査,内部のものによるインターネット上での公開による場合には,初動体制を整えるまでの時間的余裕がありません。

不祥事については,発覚当初の初動体制が非常に重要になりますので,不祥事が外部の者に公開されることによって発覚する前に,内部の者が不祥事を把握している必要があります。
そのために重要になるのが,内部通報制度が有効に機能しているということです。

内部通報制度を有効に機能させるためには,通報者の保護を徹底すること,平時より,従業員に対する周知や,運用状況を確認し,それを公開する等の対応を行っておく必要があります。

また,不祥事発覚の初期の段階では,不祥事の全容が把握できずに事の重大性が理解できていない,あるいは,希望的観測に基づいて事の重大性を理解しようとしないことも考えられるところです。

このような事態を回避するためには,調査を行う者が,不祥事を発生させた部署から独立していることが必要である上に,当該不祥事の直接的な原因となった事実に対する調査に留まらず,当該事実が発生する背景事情に対しても調査を行う必要があります。
基本的には,調査対象が広範に及び,調査事項が多岐にわたるという前提で,初動の段階から調査を行う者の体制を十分に整えておくということも忘れてはいけません。

そして,調査によって明らかになった事実が,会社にどの程度の被害を与えることになるのか適切に評価する必要があります。
ここで,重要になるのが,評価にあたっては,株主,顧客,取引先,債権者,社会をはじめとするステークホルダーの視線に基づくということです。

不祥事に対する評価は,上記したステークホルダーによって行われ,それに基づいて会社に与える被害の程度が決定されるわけですから,社内における評価においてもステークホルダーの視線に基づくことは当然のことです。

さらに,不祥事は会社の企業価値を大きく棄損するおそれがありますので,東京証券取引所が定める有価証券上場規定402条2号xの「当該上場会社の運営,業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事実」,同403条2号l「当該子会社等の運営,業務又は財産に関する重要な事実」に該当し,適時開示の対象になる可能性があることを留意しておく必要があります。

適時開示の対象になると判断される場合には,不祥事を認識した当初の段階で把握している事実の内容,今後の調査の方針(第三者委員会による調査を行う場合には,第三者委員会の内容と調査の行程),調査終了後には調査結果と再発防止のための対応,会社に与える影響等を開示することになります。

なお,調査にある程度の時間を要することになる場合には,調査の進捗状況,当該時点で把握している事実,今後の調査の見込み等について開示することも検討しなければなりません。

不祥事の対応を誤ったために会社の企業価値が大きく損なわれるようになった事例は,枚挙に暇がなく,それによる取締役の善管注意義務が認められた事例も存在することを念頭に,適切な対応を心がける必要があります。

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