交通事故
社外取締役読本

社外取締役の会社に対する善管注意義務

取締役の善管注意義務

会社と取締役の関係は委任に関する規定に従うと規定されていることから(法330条),取締役は,職務を遂行するにあたり善管注意義務を負っています(民法644条会社に対する任務懈怠について悪意または善意重過失があっときは第三者に生じた損害を賠償する責任を負うことになります(法429条1項)。また,取締役が,計算書類等の虚偽記載等を行った場合にも,第三者に対して損害を賠償する責任負います(429条2項)。なお,複数の取締役等が責任を負う場合には連帯責任となります(法430条)。)。
そして,取締役は,取締役会において,業務執行の決定,業務執行の監督が職務ですので,その両方に善管注意義務を負っています。

しかし,取締役の業務執行によって会社に損害が発生した場合,常に,取締役の責任を追及することができるとすると取締役に過大な責任を負わせることになってしまいます。
そこで,裁判例においては,経営判断の原則や信頼の原則に基づき,取締役の責任を一定程度限定されています。なお,業務執行の決定の場面では,経営判断の原則,信頼の原則が適用され,業務執行の監督の場面では信頼の原則が適用されます。

ここで,経営判断の原則とは,取締役が積極的に行為したことで会社に損害を生じさせた場合については,行為当時の状況に照らして合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか,その状況と取締役に要求される能力水準に照らして不合理な判断がなされなかったかを基準に判断し,当該状況下で事実認識や意思決定過程に不注意がなければ,当該取締役は責任を問われないあくまで取締役が法令・定款の範囲内で行う職務執行に適用される原則であり,取締役に法令・定款違反が認められる場合には適用されません。という考え方です。

他方,信頼の原則とは,情報収集・調査・検討等に関する体制が十分に整備されていれば,特段の事情がない限り,取締役は,他の取締役や使用人等から提供された情報・調査・検討等の結果を信頼することができ,これに依拠して意思決定を行ったとしても,当該取締役は責任を問われないという考え方です。

信頼の原則は,あくまで,会社の組織として,最低限,情報収集・調査・検討等に関する体制やリスク管理等に関する体制が十分に整備されていることが前提となります社外取締役に内部統制システム構築義務違反を認めたものに大阪高判平成27年5月21日があります。

また,他の取締役・使用人の業務執行に対する監視・監督等についても,リスク管理等に関する体制が整備されている限り責任を問われず,他の取締役・使用人の業務活動に問題のあることを知り,又は知ることが可能であるなどの特段の事情がある場合に限り,これを看過したときに責任を問われることになるという考え方が裁判所において定着しています。

社外取締役の善管注意義務違反

取締役の責任は,基本的には社外取締役も負う責任です。
ただし,社外取締役は,監査役のような独自の権限監査役は,いつでも,取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求めることができ(法381条2項),子会社に対しても同様の報告請求・調査をすることができます。を有していない上に,社外者であることから触れることができる情報等に限界があることから,主な役割が,取締役会の構成員として取締役会に出席し,報告事項および議案について審議を行うことであり,かかる職責を全うすることが善管注意義務の中心となります。

なお,社外取締役も取締役である以上,他の取締役と同様に,株主に対する受託者責任を認識し,ステークホルダーとの適切な協働を確保しつつ,会社や株主共同の利益のために行動するべきである(CGコード原則4-5)ことは言うまでもありません。

日本弁護士連合会「社外取締役ガイドライン」(2019年改訂版)においては,「会社に対する忠実義務・善管注意義務を果たすため,社外取締役は,下記の職務を行う。」とされ,過去の裁判例に基づいて,社外取締役が行うべき職務が詳細に整理されています。

極めて有用な整理となっており,社外取締役に就任される方には是非知っておいて欲しいので,以下で転載します社外取締役は,原則として株主総会に出席するべきであり,社外取締役も,株主総会における株主の質問に対し,取締役として説明義務を負うことから,上場企業では,コーポレートカバナンス・コードで示された社外取締役の果たすべき役割,責任等の履行状況につき説明を求められることが想定されるので,総会時のみならず日頃から留意しておくべきであるとされています。

  1. ア 取締役会の上程(付議)事項に関して
    1. (ァ) 審議の過程について
      説明や資料社外取締役としては,取締役会における審議及び採決に関連した情報収集を中心に,善管注意義務を尽くすことなる。この情報収集については,取締役会やその事前説明おける役職員の報告や説明に依拠することになり,信頼の原則に基づき,それで善管注意義務を果たせることになる。
      ただし,役職員による報告や説明について疑問,齟齬,不自然な事項その他の特別な事情があった場合には,これを疑い,更なる調査,報告を要求する必要がある。
      そして,取締役会での報告,従業員からの事前説明や報告,内部通報その他の方法により,通常でない事態を把握した場合,まず,監査役に当該事実を報告することが望ましい。なお,会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を把握した場合には,直ちに監査役(会)に報告する義務が生じる(法357条)。その後は,随時,どのような対処がなされているかの情報について,業務執行取締役や監査役,従業員,又は必要に応じて会計監査人等との間で情報を交換する必要がある。
      に基づき,必要な調査と検討が行われているか,合理的な手続がおこなわれているかという観点から審査を行う。
    2. (ィ) 決議内容について
      取締役会の決定が,その業界における通常の経営者の経営上の判断として著しく不合理でないかという基準から検討する。
  2. イ 取締役会の上程(付議)事項以外について
    1. (ァ) 取締役相互間で役割の分担がなされ,相応の内部統制システム,リスク管理体制に基づいて職務執行に対する監視が行われていれば,次の(ィ)の場合を除き,担当取締役の職務執行が適法であると信頼することが許容される。
    2. (ィ) 社外取締役は,特に他の取締役の職務執行が違法であることを疑わせるような特段の事情がある場合には,適切な措置(監査役への報告等)を採る必要がある。
  3. ウ 内部統制システムの構築,運用等について
    1. (ァ) 社外取締役は,就任後
      社外取締役は,就任後のなるべく早期に,会社法上の内部統制,リスク管理体制の構築,整備について,会社の状況,業界の水準に応じた合理性を有する内容となっているか点検しておくことコンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備は,適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが,取締役会は,これらの体制の適切な構築や,その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり,個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない(CGコード補充原則4-3④)。が推奨される。
    2. (ィ) 財務報告に係る内部統制については,独立監査法人の監査証明を受けた内部統制報告書において有効であるとされている場合には,その後に粉飾決算等の財務計算書に関する特段の不祥事等が現実に発生していない限り,報告時点において有効に整備,運用されていると信頼してよい(社外取締役が,公認会計士である等会計についての専門性を有する場合にも同様。)
    3. (ゥ) 会社に損失を発生させる事態,粉飾決算,反社会的勢力との取引等の不祥事が現実に発生した場合又は財務報告に係る内部統制報告書において開示すべき重要な不備があるとされている場合には,社外取締役は,内部統制,リスク管理体制の見直しを行うプロセスの監督責任を有する。

なお,社外取締役は,法的責任を果たす上では,上程事項については取締役会に提出されている資料,説明基づいて判断すれば足り,上程事項以外のものについては,取締役相互間で役割の分担がなされ,相応の内部統制システム,リスク管理体制に基づいて職務執行に対する監視が行われていれば,担当取締役の職務執行が適法であると信頼することが原則許容されています。

しかし,CGコードにおいては,社外取締役は,経営の方針や経営改善について,自らの知見に基づき,会社の持続的な成長を促し,中長期な企業価値の向上を図る,との観点から助言を行うこと(原則4-7)が求められており,就任の際には,会社の事業・財務・組織等に関する必要な知識を取得し,取締役に求められる役割と責務(法的責任を含む)を十分に理解する機会を得るべきであり,就任後においても,必要に応じて,これらを継続的に更新する機会を得るべきである(補充原則4-14①),社外取締役は,透明・公正かつ迅速・果断な会社の意思決定に資するとの観点から,必要と考える場合には,会社に対して追加の情報提供を求めるべきである(補充原則4-13①),必要と考える場合には,会社の費用において外部の専門家の助言を得ることも考慮するべきである(4-13②)とされています。

また,取締役会は,①取締役会の資料が,会日に十分先立って配布されるようにすること,②取締役会の資料以外にも,必要に応じ,会社から取締役に対して十分な情報が(適切な場合には,要点を把握しやすいように整理・分析された形で)提供されるようにすることが求められているところ(補充原則4-12①),社外取締役としては,取締役会において,係る体制が確立されているか確認し,確立していない場合には整備を求めるべきです。

社外取締役に就任する以上は,法的責任を負うことになる限界線というものを正確に理解しておく必要はあるのですが,そのような社外取締役としての最低限の職責に終始することなく,CGコードにおいて求められている社外取締役としての役割を踏まえた上で,CGコードに定められていることを実践し,会社の持続的な成長を促し,中長期な企業価値の向上を図ることに積極的に貢献するべきであると考えます。

善管注意義務違反の責任

取締役が,善管注意義務に違反し,会社又は第三者に損害を与えた場合,当該会社または第三者に対して,損害賠償責任を負う場合があります(法423条1項,429条1項)。

取締役の会社に対する損害賠償責任は,総株主の同意がなければ免除することができません(法424条)。
ただし,以下のいずれかの場合であって,当該取締役が職務を行うにつき善意かつ重大な過失がない場合には一定の限度代表取締役は報酬の6年分,その他の業務執行取締役は報酬の4年分,それ以外の取締役は報酬の2年分に相当額と,有利発行新株予約権を行使して得た利益の額の合計で免責が認められています。

  1. ① 株主総会の特別決議を得た場合(法425条一部免除に関する議案を株主総会に提出するにあたり監査役等の同意を得ること(同条3項),株主総会において一定の事項を開示することが必要になります(同条2項)。
  2. ② 定款の規定に基づき取締役会の決議を得た場合(法426条予め定款に定めておく必要がある上に,定款変更に関する議案を株主総会に提出するにあたり監査役等の同意が必要となります。
    また,定款の定めに基づいて責任免除の議案を取締役会に提出する際にも監査役等の同意が必要になり,(同条2項,425条3項),取締役会におい責任を免除する決定をした場合には,遅滞なくその旨を公告するか株主に通知しなければならず,一定の要件を満たす株主から一定期間内に異議が述べられたときは,免除することができません(同条7項)。
  3. ③ 非業務執行取締役であって,定款の規定に基づき責任を限定する契約を締結した場合(法427条予め定款に定めを設ける必要があり,かかる定めを置くための定款変更にする議案を株主総会に提出する際には監査役等の同意が必要になります(同条3項,425条3項)。

社外取締役は,非業務執行取締役にあたりますので上記の③に該当します。
社外取締役は,就任あたり,定款に非業務執行取締役の責任限定契約関する定めの有無を確認し,会社との間で責任限定契約の締結を要請するべきです。

また,責任限定契約の締結に加えて,会社役員賠償責任保険(D&O保険)へ加入できるように会社に要請するべきです。

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