消費貸借契約
消費貸借契約

貸主の責任

貸主の責任

利息付消費貸借

利息付消費貸借は,売買の規定が準用されます(559条)ので,貸主が,種類,品質,及び数量について契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うことを前提に,契約の内容に適合しない場合には,借主は,補修や代替物の引渡し等,貸主に対して履行の追完を請求する(562条1項本文),損害賠償を請求する(564条・415条),契約を解除する(564条・541条・542条)ことができます。

1.履行の追完請求

貸主が借主に契約に適合しない目的物しか交付していない場合,貸主は,売買契約に定められた義務を果たしていないことになりますので,貸主の責任の有無にかかわらず,借主は,契約に適合するように,目的物の補修,代替物の引渡し,不足分の引渡しを請求することができます(562条1項本文)。

借主は,履行追完の方法が複数ある場合,どのような方法により履行の追完を求めるかを選択することができます(562条1項本文)。 しかし,貸主は,借主に不相当な負担を強いることにならない限り,借主が選択した方法とは異なる方法により履行の追完を行うことができます(562条1項但書)。

貸主に履行追完方法の選択の余地を与えた理由は,容易に,また,安価で補修することができるにもかかわらず借主が代替物の引渡しを求めた場合,貸主の負担があまりにも大きくなりすぎるからです。

借主の責任によって目的物が契約に適合しなくなった場合にまで借主に履行追完請求を認める必要がありませんので,この場合には,履行追完請求は認められません(562条2項)。

また,貸主は,履行の追完の義務を負わない特約を行った場合であっても,契約に不適合な事項について知りながら告げなかったものについては責任を逃れることができません(572条)

引き渡された目的物の数量が合意された数量と比較して不足していた場合,不足分を引き渡すことを求めることができるとともに,現に交付された数量で消費貸借契約を成立させる合意を行うこともできます。

この場合には,借主は,損害賠償請求や契約の解除を求めることができなくなります。

2.損害賠償請求

貸主が契約に適合した目的物を引き渡さなかった場合,補修等の履行の追完を受けることができたとしても,それによって補填することができない損害が借主に発生していることがあります。

この場合,借主は,貸主に対して,補修等の追完請求を行った上で,損害賠償請求を行うことができます。
ただし,「契約の性質,契約の目的,契約の締結に至る経緯等の契約に関する諸事情等とともに,取引に関して形成された社会通念を考慮して」貸主の責任によって発生した損害ではない場合には,損害賠償請求は認められません。

借主は,補修等の追完請求を行うことなく損害賠償請求を行うことができるのか,あるいは,補修等の追完請求を行った上で,①補修等が不能である場合,②貸主が補修等を拒否する意思を明確に示した場合に損害賠償請求を行うことができるのかについて,既に考え方が分かれています。

貸主の契約不適合責任に基づく損害賠償請求の根拠を,前者は415条1項とし,後者は415条2項としています。

損害賠償請求関する考え方の対立は,新法が施行された後の裁判例の蓄積によって解消されることになるのでしょうが,それまでに相当の時間を要します。

その間,借主が貸主に対して損害賠償請求を行う際に,補修等の追完請求を行う必要があるのかということが訴訟のたびに問題となり,貸主,借主の双方が不安定な状態に置かれることになります。

このような問題を事前に回避する方法として,借主が貸主に対して損害賠償請求を行う際に,補修等の追完請求が必要であるのか否かを契約書に明記しておくということが考えられます。

借主が貸主に対して求めることができる損害賠償の範囲は,通常生ずる損害(支払った代金の全部あるいは一部),貸主が予見すべきであった事情によって生じた損害(貸主が転売されることを予見すべきであった場合には転売益等)となります。

借主は,売買契約を解除しない限り,売買代金を支払う義務を負うことになりますが,借主が,履行の追完請求に代えて,または,履行の追完請求とともに損害賠償請求を行っている場合には,貸主が損害賠償を行うまで売買代金の支払いを拒否することができます(533条)。

契約解除

貸主の責任の有無にかかわらず,契約内容の不適合が生じた場合,借主は,契約を解除することができます。
ただし,借主の責任よって契約内容の不適合が発生した場合にまで,借主を売買契約の拘束から解放する必要はありませんので,解除は認められません(543条)。

借主に認められた解除には,催告解除(541条)と無催告解除(542条)の二種類があります。

  1. 催告解除

    催告解除は,借主が相当な期間を定めて履行の追完請求を行ったが,貸主がこれに応じない場合に解除を行うことができます。
    ただし,「契約の性質,契約の目的,契約の締結に至る経緯等の契約に関する諸事情等とともに,取引に関して形成された社会通念を考慮して」不適合の程度が軽微である場合にまで解除を認めると貸主に酷な結果となりますので,借主による解除は認められません。

  2. 無催告解除

    旧法から認められていた「契約の全部の履行が不能であるとき」(1項1号),「契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の目的又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき」(1項4号)に加えて,「債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」(1項2号),「債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約目的を達することができないとき」(1項3号),これら以外にも,「債務者がその債務の履行をせず,債権者が催告をしても契約目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」(1項5号)に,借主は,催告をすることなく契約を解除することができます。

    また,「債務の一部の履行が不能であるとき」(2項1号),「債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確にしたとき」(2項2号)には,催告をすることなく契約の一部を解除することができます。

契約不適合の程度が軽微である場合,催告を行ったとして契約を解除することができないのですが,契約の全部の履行が不能であるときには催告をすることなく契約を解除することができます。

しかし,契約不適合の程度が,契約の全部の履行が不能であると判断される重度の場合と軽微な場合との間にある状態が発生する事態が予想されます。

そのような場合に,借主を契約の拘束から解放するのかどうか予め検討しておき,いかなる場合に借主を契約の拘束から解放するのかにつき契約書において定めておく必要があります。

①無利息の消費貸借

無利息の消費貸借契約は,消費貸借の規定(551条項)が準用されます。
貸主は,売主と同様に,種類,品質,及び数量に関して消費貸借契約の内容に適合した目的物を引渡す義務を負っており,消費貸借契約においては,消費貸借の目的として特定した時の状態で消費貸借の目的物を引き渡すことを合意したものと推定されています(551条1項)。

この結果,推定が覆されない限り,貸主は,特定物消費貸借につき目的物が特定した時の状態で引き渡せば足りることになります。 借主は,消費貸借契約の内容に適合した目的物が引き渡されない場合,売買契約と同様に,履行の追完請求(562条),損害賠償請求(415条),契約の解除(541条,542条)を行うことができます。

②借主の返還義務

借主は,目的物と同等の物を返還する義務を負いますが,目的物に瑕疵がある場合,同様の瑕疵のある物を調達して返還することが困難であることから,その物の価額を返還することができます(590条2項)

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