危険運転致死傷罪は,自動車運転死傷行為処罰法に定められた犯罪で,危険な運転で相手を死傷させる犯罪のことをいいます。
運転免許を持っていない者が,飲酒した上で,自賠責保険に加入していない自動車を運転して,検問に引っ掛かり,高速で逃走したところ,大学生2名を死亡させるという事件が発生しましたが,当時,自動車で人を死傷させた場合には,業務上過失致死傷罪により,最高で5年以下の懲役しか加えることができず,社会的に問題になりました。
そこで,平成13年に刑法で,危険運転致死傷罪が設けられ,平成26年に自動車運転死傷行為処罰法という法律が新設され,この法律で処罰されることになりました。
危険運転致死罪の「危険な運転」には,以下のものがあります。
- 酩酊状態や薬物を使用した上での運転
- 運転が困難になる一定の病気を抱えた上での運転
- 制御が困難な速度での運転
- 通行妨害になる運転
- 信号無視での運転
- 走行が禁止されている道路での高速運転
酩酊状態や薬物を使用した運転
飲酒や薬物の使用により「正常な運転が困難になっている」場合です。
例えば,飲酒や薬物の使用により,前方注視や,ハンドル・ブレーキ操作が困難になっている状態を指します。
また,「薬物」というと違法薬物を想像しがちですが,危険運転で問題となる「薬物」は,違法薬物に限られません。
合法なものであっても正常な運転を困難にする薬物であれば対象となりますので注意してください。
酩酊や薬物使用の事実が発覚することを免れる目的で,その場から離れて血液中の濃度を低下させる行為は,発覚免脱罪という罪で処罰される上に,救護義務違反でも罪に問われることになります。
運転が困難になる一定の病気を抱えた上での運転
「一定の病気」とは,以下のものをいいます。
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある統合失調症
- 覚醒時に意識や運動に障害を生じる恐れがあるてんかん
- 再発性の失神障害
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある低血糖症
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある躁鬱病
- 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
進行を制御することが困難な高速度での運転
「進行を制御することが困難な速度」とは,どの程度の速度のことを指すのでしょうか。
具体的には,制限速度を50キロを超えている場合に適用が検討されると言われています。
通行妨害になる運転
通行妨害になる運転は,異常接近,無理な割込み,幅寄せ,危険な進路変更などの煽り運転のことを指しています。
その他に,信号無視や通行禁止道路での高速運転が「危険な運転」となります。
危険運転致死傷罪の罰則等
危険運転致死罪は,1年以上の有期刑と定められていますが,有期刑というのは最高で20年となっていますので,1年以上20年以下の範囲で刑が決定されるということになります。
酩酊程度や薬物による影響が少し低い場合,運転が困難になる病気を抱えている場合については15年以下となります。
危険運転致傷罪は,15年以下で,酩酊程度や薬物による影響が少し低い場合,運転が困難になる病気を抱えている場合については12年以下となります。
また,無免許の場合に刑が加重される場合があります。
以上の刑罰に加えて,危険運転致死の場合には,違反点数62点が課されて免許取消しとなり,8年間(前歴のある場合には最大10年間)免許を取得することができません。 また,危険運転致傷の場合には,違反点数45?55点が課されて免許取消しとなり,5年から7年間免許を取得することができません。
危険運転により人を死亡させたり,怪我を負わせると重い刑罰や行政罰が加えられるということを認識しておいてください。