改正入管法が平成30年12月8日成立しました。
施行は,平成31年4月1日となっており,間もなく,外国人労働者の受入れに関して新たな制度が動き始めます。
従前は,弁護士,医師,教授など17資格につき高度な能力を有する外国人に日本での就業が認められ,技能実習生については,技術の習得を目的に,最大5年間の就業が認められてきました。
また,留学生についても週に28時間以内であればアルバイトをすることが認められていました。
私がお付き合いしている企業の中にも,技能実習生や留学生のアルバイトを受け入れており,就業する外国人がめずらしくなくなりました。
みなさんも,日常生活の中で,飲食店やコンビニ,スーパーなで就業する外国人を目にすることがあるのではないでしょうか。
今後5年間で最大34万5150人を目安とし,日本で就業する外国人を受け入れるとされ,高度専門職,技能実習,留学生によるアルバイトに加えて,人手不足となっている特定の業界で活用できる技能を有する外国人に就労を認めるというものです。
新たに設けられた在留資格は,「特定技能1号」と「特定技能2号」です。
「特定技能1号」は,以下の14の業種での単純労働を含めた就労が認められる予定です。
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 介護
- ビルクリーニング
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電子・電気機器関連産業
これらの業界で適切に業務をこなすことのできる技能と,日常生活に支障の無い日本語力(農業・建設業などでは,ある程度の日本語能力があれば認められます。)を有していることが条件となり,試験等により能力の審査が行われます(3年の業務実習を終了した外国人は試験が免除されます。)。
「特定技能1号」の在留上限期間は5年間で,原則として家族の帯同は認められません(より高い能力があると認められた場合には家族の帯同が認められる場合があります。)。
5年の技能実習生の期間を経て「特定技能1号」の認定を受けることができれば,最大で10年間,日本で就業することができるようになるわけです。
「特定技能2号」は,以下の5つの業種でより専門性の高い労働が対象となる予定です。ただし,建設業,造船・舶用工業の2業種については数年見送ることになっています。
- 建設業
- 造船・舶用工業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
「特定技能2号」は,高度な試験に合格し,熟練した技能を持つと評価される外国人に与えられるもので,1?3年ごとなどの期間の更新が可能となります。
そして,更新時の審査を通過すれば更新回数に制限がないため,長期就労も可能となります。
また,家族の帯同も認められることから,事実上の永住を認めることになるともいわれています。
また,「特定技能2号」での滞在期間は,永住権取得の要件の一つである「5年の就労期間」に算入されますので,永住権を取得する道が開かれています。
1号での受け入れ人数を5年間で最大34万5150人を目安とし,業種ごとの受け入れ人数については業種ごとの運用方針で決定することになっています。
また,対象となる業種や在留資格を与える基準についても法案では定められておらず,業種ごとに政府が決定することになっています。
今回の改正入管法が政府に白紙委任をする法案であると指摘されている点は,この点にあります。
政府は,今回の改正入管法が移民政策と一線を隔する制度であると説明していますが,「特定技能2号」の運用次第では,実質的な移民政策の導入となるわけで,この運用が政府に丸投げされている点で,様々な批判がされているのです。
他方で,「特定技能2号」の認定を非常に厳格に行えば,外国人に永住の可能性をちらつかせ,技能実習期間を合わせて最大10年で外国人を確実に追い返す制度とも理解できます。
「我々は労働者を受け入れるつもりであったが,実際に来たのは人間であった。」
これは,日経新聞で紹介されていたドイツの関係者の言葉です。
ドイツでは,トルコやアラブ諸国から多くの労働者を受け入れてきましたが,現在,様々な問題を抱えています。
先に挙げた言葉は,それを端的に示す言葉として,私は,非常に重く受け止めています。
言うまでもないことですが,労働者として受け入れる外国人にも生活があり,日本で働いている間だけでなく,帰国した後にも生活を行っていかなければなりません。
日本に来る外国人が,長期の滞在が事実上不可能であると判断すると,母国に送金することを目的に日本で働き,日本社会と接点をもたないことが予想されます。
そうなると,使用する側も外国人を労働者としてしか見なくなり,何かを契機に外国人が日本人や日本社会と葛藤することも多くなることが予想されます。
他方で,「特定技能2号」の認定が比較的緩やかに認められ,長期にわたり日本に滞在する外国人が多くなると,職に就くことができない,あるいは希望する職に就けない日本人と就労する外国人との間に軋轢が生じ,外国人を排斥する気運が高まり,社会問題化することも予想できます。
今回の改正入管法について,問うべきものは,政府の覚悟ではなく,我々国民一人ひとりの覚悟だと思います。
国民一人ひとりが,外国人が同じ職場で働くということ,社会でともに生活するということを,リアリティーをもって考え,まさに隣人として付き合っていくことについて考えなければなりません。
そして,我々が考えなければならないのは,普段の生活でのお隣さんとしての付き合いだけではなく,お隣さんとなる外国人や,ときにはその家族の教育の問題,医療や社会保障の問題もあります。
これらの問題を日本の国の問題として考えていかなければならないと思うのです。
今回の法改正の過程では,これらの問題が全くおざなりになっています。
国民一人ひとりがこれらの問題を考え,議論し,そこで醸成された意見が政府の運用方針に反映されることを期待します。