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新型コロナウイルス感染症(covid-19)拡大に伴う経済的な問題への対応について

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっています。1月23日,中国政府により武漢が封鎖されるという前代未聞の事態が発生し,その後,被害は欧州にも広がり,イタリア,スペイン,フランスでは急増する死者数に医療崩壊となり,都市封鎖を敢行するも現在もまた死者数が増加しています。

 更に欧州からアメリカへも被害が広がり,4月14日現在,死者数は2万3649名と世界トップとなりました。中でもICUを3000床も備えるNYでの被害は凄まじく,統計で把握されているだけで7349名,検査も受けることなく孤独死しているケースも多発しているようです。

 わが国では,そもそもの防疫体制が脆弱で十分な検査体制が整っていなかったことから,クラスター対策中心の対応を続け,いわゆる3つの密(密閉空間,密集場所,密接場場面)を避けるなどの指導を行うことで,結果的に発症者数,死者数を抑えてきましたが,3月以降,欧米からの帰国者を中心に新たな感染者が急激に増加してきました。

 このため早くも医療体制を圧迫する事態となり,4月7日,東京,神奈川,埼玉,千葉,大阪,兵庫,福岡の7都府県に対し,新型インフルエン特措法に基づく緊急事態宣言が初めて発令されました。

 これにより都道府県知事より,学校や保育所,通いで利用する福祉施設などに対して,施設の使用の制限を要請,指示することができるほか、多くの人が集まる劇場や映画館といった娯楽施設や,ナイトクラブなどの遊興施設は感染拡大の状況に応じて必要な場合には施設を使用しないよう,要請,指示することが可能となりました。

 この影響により,緊急事態宣言と前後して,夜の街産業を中心に,営業自粛の要請が行われるようになり,一般市民にも不要不急の外出について自粛要請がなされるようになりました。

 しかしながら,国はこれらの自粛要請に対し,現在のところ,非常に限定的な補償しか行わないと宣言しているため,混乱と戸惑いが広がっており,当事務所にも早速,ローンや家賃が支払えないといった事業者からの相談が寄せられています。

 本来的に,この新型コロナウイルスについては,人を介してしか広がらない以上,全ての人が2週間から数ヶ月間,活動を停止し,接触をすることを避けることができれば,その多くが死滅し,感染拡大が収束することは比較的分かりやすい話ですので,政府としては速やかに市民の生活を補償し,これらの接触制限を徹底するべきと考えられますが,甘い現状認識から混乱した対応が続いています。

 そのような状況でも各自は生活を自衛する必要がありますので,以下,現在考えられる対応を説明したいと思います。

1 賃料・家賃,ローンが支払えない場合

 本来,自粛要請に伴う補償については,国が責務を果たすべきあり,現在各国で,家賃支払の猶予を求める対応が取られています。家賃各国対応.jpg

 日本では,国土交通省が以下の要請を不動産関連団体に出していますが,あくまでも要請止まりであり,賃貸人・家主と交渉が必要になります。この点については,是非,弁護士にご相談下さい。

「新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、飲食店をはじめとする事業者の中には、事業活動が縮小し、入居するビル等の賃料の支払いが困難となる事案が生じていることから、不動産関連団体を通じて、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討頂くよう、要請をしました。」

 またここで賃貸オーナーの皆様にご配慮いただきたいのは,今現在,家賃未納として,テナントや借主を追い出したとしても,コロナ問題が解決しない限り,新たな借主を入れることは事実上不可能という点です。

 このことは既に賃貸オーナーもまた今回のコロナ問題の当事者として既に巻き込まれていることを意味しており,大切な顧客である賃借人を失うことのないよう,手を取り合って問題解決にあたっていただけますと幸いです。

 なお住居に関しては,「離職等により経済的に困窮し、住居を失った又はそのおそれがある者」に対するものとして住居確保給付金という制度があります。これは,?申請日において65歳未満であって、離職等後2年以内の者,?離職等の前に世帯の生計を主として維持していたこと,?ハローワークに求職の申し込みをしていること,?国の雇用施策による給付等を受けていないことと言った要件の下,一定額の家賃が補助されます。

 そして今回の新型コロナウイルス感染症の問題により職を失った方のみならず,「給与等を得る機会が当該個人の責に帰すべき理由,当該個人の都合によらないで減少し,離職又は廃業に至っていないがこうした状況と同程度の状況にある方」についても支給対象に含める方向で調整されているとのことです。

 住宅ローンを抱えておられる場合は,銀行と相談することになります。全銀協においては,「金利を含めた返済猶予等の条件変更に・元本、事業者の状況を丁寧にフォローアップしつつ、迅速かつ柔軟に対応する。」と言った内容の申し合わせがなされていますので,遠慮なく相談をしてみて下さい。

2 税金や社会保険料が支払えない場合

 納税が困難な場合,所轄の税務署に相談することで1年以内の納税猶予が認められることもあるようです。一律の措置ではなく相談が必要であることや軽減されるとは言え延滞税がかかることが示されており不十分ではありますが,まずは電話でご相談されることをお勧めします。

 また健康保険料年金についても,減免猶予される場合がありますので,電話で相談してみて下さい。

3 従業員の給料が支払えない場合

 営業自粛や市況悪化により運転資金が枯渇しそうな場合は,各種の緊急融資をまずはご検討下さい。

 日本政策金融庫では,新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的な業況悪化を来している方であって、次の1または2のいずれかに該当し、かつ中長期的に業況が回復し、発展することが見込まれる方について,無担保,最大6000万円,基準金利-0.9%の低利で融資を受けることができます。

?最近1ヵ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少している方

?業歴3ヵ月以上1年1ヵ月未満の場合等は、最近1ヵ月の売上高が次のいずれかと比較して5%以上減少している方

(1)過去3ヵ月(最近1ヵ月を含みます。)の平均売上高

(2)令和元年12月の売上高

(3)令和元年10月から12月の平均売上高

 やむを得ず従業員の解雇を行いたいと考えられるケースもあるかと思われますが,このような状況でも解雇は非常に制限されています。

 例えば2011年の震災の時においても,「震災を理由とすれば無条件に解雇や雇止めが認められるものでは、ありません。また、今回の震災の影響により、厳しい経営環境に置かれている状況下においても、出来る限り雇用の安定に配慮していただくことが望まれます。」とされており,今回もこれに準じて考える必要があります。

 まずは整理解雇の4要件(?人員整理の必要性,?解雇回避努力義務の履践,?被解雇者選定基準の合理性,?解雇手続の妥当性)に従って検討を行う必要があります。

 この点についてはケースバイケースになりますので,弁護士にご相談されることを強くお勧めします。

 そして現在,解雇を回避し雇用の維持を後押しするものとして「雇用調整助成金」の要件が大幅に緩和されていることから,まずはこちらの検討が求められるのではないかと思われます。

雇用調整助成金.jpg

4 減収により生活ができない場合

 新型コロナウイルス感染症の問題により収入を失い,仕事再開の目処も立たず,各種支払いの調整も困難となり,およそ生活が成り立たないという場合は,債務を整理する,破産して生活保護を受給するというのが最後のセーフティネットになります。

 破産は決して恥ずかしいものではなく,こんがらがった金銭関係を整理して債権者に説明し,経済的再生を果たすための合理的な制度です。

 また生活保護は、保護費の支給以外にも住宅扶助,医療扶助などメリットが大きな制度で,金銭の心配をすることなく,再起を図るために重要な制度です。

 このような手続についても是非,弁護士にご相談いただければと思います。

5 結語 

 新型コロナウイルス感染症問題に関し,直ちに起こりうる社会的な問題について,一通り説明をしてきましたが,どの制度を使うにしても面倒な手続が必要な点では変わりません。

 改めて政府において,日本国民が,今,空前の危機にさらされているという厳しい状況をしっかりと認識した上で,改めて簡便で強力な補償・対策を用意し,国民一丸となって新型コロナウイルス感染症の問題と戦うための足場を固めてもらうよう願ってやみません。

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