賃貸人たる地位の移転
1.賃貸借の対抗要件が備わっているとき
賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときには,原則として,賃貸人たる地位は譲渡人から譲受人に移転することが明確化されました(605条の2第1項)。
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合,その契約の相手方の承諾が必要であるとする539条の2の特則となります。
賃貸不動産の譲受人は,所有権の移転登記手続を完了しなければ,賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗することができません(605条の2第3項)。
また,費用償還債務,敷金返還債務は,賃貸人たる地位の移転とともに賃貸不動産の譲受人に承継されることになりました(602条の2第4項)。
ところで,資産の流動化等を目的として賃貸不動産の譲渡が行われる場合に,譲渡人が賃貸人として賃貸物件の管理を引続き行い,譲受人は賃貸不動産の所有権のみを取得して収益のみを得るとういことが行われています(投資組合が投資家から資金を集め,賃貸不動産を取得するものの,賃貸業務は,もとの所有者に任せるような場合)。
このような賃貸不動産の流動化の現状にかんがみて,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意をし,譲受人が譲渡人に当該不動産を賃貸する旨の合意をしたとき,例外的に,賃貸人たる地位が譲渡人のもとに留保されるとされています(602条の2第2項前段)。
ただし,賃借人を保護するため,譲渡人と譲受人との賃貸借契約が終了したときは,譲渡人のもとに留保されていた賃貸人たる地位が譲受人に,当然に移転するとされています(602条の2第2項前段)
2.賃貸借の対抗要件が備わっていないとき
賃貸借の対抗要件が備わっていない賃貸不動産が譲渡された場合,譲渡人と譲受人の合意によって,賃貸人たる地位が移転されることになりました(605条の3)。
賃貸借の対抗要件が備わっている場合は,譲渡人と譲受人の合意がなくても当然に賃貸人たる地位は譲受人に移転するのですが,賃貸借の対抗要件が備わっていない場合には,譲渡人と譲受人の合意が条件となっています。
譲受人が所有権移転登記を行っていないと,賃借人に対して賃貸人たる地位を対抗することができないこと,費用償還債務,敷金返還債務が譲受人に承継されることは,賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産の譲渡と同一です。