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任意の開示書類

多くの企業は,制度開示書類に加えて,任意の開示書類により,投資判断等に有用な企業情報を開示しています。

任意の開示書類は,制度的には有価証券報告書を補完するものと位置づけられていますが,インベスターズ・リレーション(IR)活動を重視する会社においては,有価証券報告書を基礎資料と位置づけ,独自に訴求すべき情報の提供や特定の事項の深堀り等を行うものとして任意開示書類が作成されています。

将来予測や経営成績等に関する参考データや,最近の業績動向を中心とした経営ビジョンや経営方針・経営戦略・経営計画・研究開発活動・将来の設備投資や人材投資・販売戦略などを開示し,投資家等の利便性を考慮して,図表・グラフ等が多用されています。

また,開示の方法も,個人投資家,機関投資家,アナリスト,報道機関等を対象にした会社説明会や会社見学会,会社を紹介するVTRやホームページ等の公開,アニュアルレポート,株主通信,ファクトブック等の作成・配布等,さまざまです。

IR専属部署を設ける会社が多数存在し,経営陣のトップがIR活動を行うということも珍しくなくなりましたし,外国人投資家の増加にともない,海外の主要都市においてIR活動を行う会社も少なくありません。

IR活動が活発になってきた理由に,外国人投資家,機関投資家,アナリストから,企業価値を算出するための情報,投資対象としての適格性を判断するための情報,投資評価のための情報等の提供を求められるようになったという背景事情があります。

また,国境を越えたM&Aが活発に行われるようになり,敵対的な買収が行われることも想定されるところですが,その備えとして,平時より投資家等との対話を積極的に行い,相互理解を深めることで信頼関係を構築しておくことが重要となります。

市場において適正な評価を受け投資家を呼び込む,将来のリスクへの備えとして積極的にIR活動が行われているわけですが,任意開示を積み重ねることにより信頼性の高い中長期的な戦略を構築することができるわけですから,それぞれの会社が持続的な成長を遂げるための手段としても重要な活動であると考えるべきです。

ESGに関する報告書

中長期的な視点で企業価値を評価する際には事業活動の持続可能性に関する課題への対応状況が重要になりますが,市場において適正な評価を受けるためには,それぞれの会社が対応状況を対外的に発信していく必要があります。
また,株主を含むステークホルダーに対する説明責任の観点からも,ESG(環境,社会,ガバナンス)の要素を含む情報の積極的な開示に取り組む必要があります。

以上を踏まえ,「東証上場会社情報サービス」において,ESGの要素を含む任意の開示資料(ESGに関する報告書)が掲載対象に加えられています。

ESGに関する報告書を掲載している会社は,それほど多くありませんが,IR活動の手段の一つとして活用するべきであると考えます。

知的資産経営報告書

知的資産経営の開示ガイドライン」(経済産業省・平成17年10月)が示され,それぞれの会社に,知的資産経営に関する情報開示への取組みが求められています。

同ガイドラインが対象とする「知的資産」とは,特許権,実用新案権,意匠権,著作権,商標権,育成者権等の知的財産権,ブランド,営業秘密等の知的財産に加えて,人的資産,組織力,経営理念,顧客とのネットワーク,技術等を含めた総体を指しています。
このような知的資産は,それぞれの会社に固有のものであり,それぞれの会社にとっての競争力の源泉でもあります。

過去の経験と実績を踏まえた分析を行うことにより,どのような方法で知的資産が形成されてきたのかを再確認し,経営資源の配分を最適化して知的資産に再投資することにより企業価値を向上させることができます(知的資産の創造サイクル)。

それぞれの会社は,知的資産の創造サイクルを知的資産経営報告において整理することにより,将来の価値及び利益の創造に向けた経営方針を明確にすることができるのです。

知的資産経営の開示ガイドラインにおいては,知的資産経営報告に以下の要素を含むことが望ましいとされています。

  1. ① 事業の性格と経営の方向性
  2. ② 将来見通しを含む業績
  3. ③ 過去及び将来の業績の基盤となる知的資産とその組み合わせによる価値創造のやり方
  4. ④ 将来の不確実性の認識とそれへの対処の方法
  5. ⑤ 上記を裏付けるKPI(重要業績評価指標)としての知的資産指標

知的財産経営報告を作成することによって,財務諸表において反映されることのない知的資産を企業価値として加えることができますので,企業価値が増大するという効果を得ることができ,資金調達が容易になるというメリットがあります。

また,アナリストや投資家など企業評価者にとっても,①企業価値の分析精度が高まる,②企業のリスクを評価できる,③成長性の高い企業を見抜くことができるというメリットがあります。

知的財産経営報告を開示している会社は極めて少なく,開示されているもの中には,作成を外部に委託し,慣習的に開示しているだけであると評価されるものも散見されます。

任意開示書類において,知的資産経営の開示ガイドラインの趣旨を反映したものを見受けることがありますが,それを裏付ける知的資産指標まで示されているものは多くないのではないかと思います。

知的資産指標は,それぞれの会社の現状の「強み」を示す資料でもあり,経営資源の最適化,再投資先対象を特定する上での重要な資料です。

知的資産指標の積み重ねが経営方針を明確化し,中長期的な企業価値の向上に直結するわけですから,有価証券報告書あるいは任意開示書類に知的資産指標を示し,知的資産経営の開示ガイドラインの趣旨を反映した経営計画を作成することを心がけるべきであると考えます。

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