会社の情報開示は,金融商品取引法に基づく開示,会社法に基づく開示(二つの開示を法定開示といいます。)と,証券取引所規則に基づく開示(三つの開示を制度開示といいます。)と任意の開示によって成り立っています。
なお,それぞれの会社が「株主との対話」を図るためには,自社の株主構成を把握しておく必要があります。
この点,CGコードにおいても,「上場会社は,必要に応じ,自らの株主構造の把握に努めるべきであり,株主も,こうした把握作業にできる限り協力することが望ましい。」(補充原則5-1③)とされています。
そして,「上場会社は,自社の株主における海外投資家等の比率を踏まえ,合理的な範囲において,英語での情報の開示・提供を進めるべきである。」(補充原則3-1②)とされていますので,必要に応じて英語での情報開示を検討しなければなりません。
以下で,三つの制度開示について整理した上で,個別の論点について検討を加えます。
会社法
会社法においては,株主に事業報告及び計算書類を開示する必要があります(法435条2項)。
また,有価証券報告書を提出する大会社においては,連結計算書類を開示する必要があります(法444条3項)。
事業報告及び計算書類(連結計算書類)は,株主総会招集通知に添付して株主に交付されるのが一般的で,公開会社においては,総会開催日の2週間前までに発送しなければならない(法299条1項,第437条)とされていますので,総会開催日2週間前までに開示されています。
事業報告及び計算書類(連結計算書類)は,株主に対して会社の財産状況や経営状態等を報告し,議決権等の権利行使の際の重要な判断材料を提供すること,会社債権者に対して会社財産や財務状況等把握するための情報を提供することを目的としています。
株式会社 | 有価証券報告書提出大会社 |
事業報告 |
計算書類
|
連結計算書類
|
なお,公開会社かつ会計監査人設置会社の事業報告の内容は以下のものとなります(規則118条〜126条)。
- 会社の状況に関する重要な事項
- 内部統制システムの整備についての決定・決議事項
- 株式会社の支配に関する基本方針
- 株式会社の現況に関する事項
- 主要な事業内容
- 主要な営業所・工場,使用人の状況
- 主要な借入先と借入額
- 事業の経過・成果
- 資金調達の状況,設備投資の状況,事業の譲渡,吸収分割の状況,他社の事業の譲受けの状況,吸収合併,吸収分割による権利義務承継の状況,他社の株式,新株予約権等の取得又は処分の状況
- 直前3事業年度の財産・損益の状況
- 重要な親会社,子会社の状況
- 対処すべき課題
- その他会社の現況に関する重要な事項
- 会社役員に関する事項
- 株式に関する事項
- 新株予約権等に関する事項
- 社外役員を設けた株式会社の特則
- 会計参与設置会社における報告事項
- 会計監査人設置会社における報告事項
金融商品取引法
上場会社等は,事業年度ごとに,事業年度終了後3ヶ月以内に有価証券報告書(金商法24条1項)及び内部統制報告書当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に係る書類その他の情報の適正性さを確保するための体制について評価した報告書(同法24条の4の4),事業年度を3月ごとに区分した期間ごとに,四半期終了後45日以内に,四半期報告書(同法24条の4の7)を,それぞれ提出しなければなりません。
有価証券報告書,内部統制報告書,四半期報告書は,投資判断において重要な有価証券及び発行者に関する正確な情報の開示を公平かつ適時に求めることで,投資者を保護することを目的としています。
有価証券報告書,四半期報告書は,EDINETを通して公衆縦覧されます(金商法27条の30の3,27条の30の7)。
有価証券報告書の開示内容は,以下のとおりです(企業内容等の開示に関する内閣府令3号様式,連結財務諸表の用語,様式及び作成方法に関する規則92条様式第9号から第11号,財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則第121条 様式第10,様式第11号,第11号の2,第14号)。
- 第1.【企業の概況】
- 1.【主要な経営指標等の推移】
- 2.【沿革】
- 3.【事業の内容】
- 4.【関係会社の状況】
- 5.【従業員の状況】
- 第2.【事業の状況】
- 1.【業績等の概要】
- 2.【生産,受注及び販売の状況】
- 3.【対処すべき課題】
- 4.【事業等のリスク】
- 5.【経営上の重要な契約等】
- 6.【研究開発活動】
- 7.【財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
- 第3.【設備の状況】
- 1.【設備投資等の概要】
- 2.【主要な設備の状況】
- 3.【設備の新設,除却等の計画】
- 第4.【提出会社の状況】
- 1.【株式等の状況】
- 2.【自己株式の取得等の状況】
- 3.【配当政策】
- 4.【株価の推移】
- 5.【役員の状況】
- 6.【コーポレート・ガバナンスの状況等】
- 第5.【経理の状況】
- 1.【連結財務諸表等】
- (1)連結財務諸表
- ①【連結貸借対照表】
- ②【連結損益計算書及び連結包括利益計算書】又は【連結損益及び包括利益 計算書】
- ③【連結株主資本等変動計算書】
- ④【連結キャッシュ・フロー計算書】
- ⑤【連結附属明細表】(社債明細表,借入金等明細表,資産除去債務明細表)
- (2)その他
- (1)連結財務諸表
- 2.【財務諸表等】
- (1)財務諸表
- ①【貸借対照表】
- ②【損益計算書】
- ③【株主資本等変動計算書】
- ④【附属明細表】(有価証券明細表,有形固定資産等明細表及び引当金明細表)
- (2)主な資産及び負債の内容
- (3)その他
- (1)財務諸表
- 1.【連結財務諸表等】
内部統制報告書の記載事項は,以下のとおりです。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 財務報告や財務報告にかかる内部統制における責任者氏名
- 財務報告にかかる内部統制について整備・運用する際に用いた基準
- 代表者・責任者が財務報告にかかる内部統制の整備・運用について責任を有している旨
- 評価の範囲,基準日及び評価手続に関する事項
- 財務報告にかかる内部統制における評価手続きの概要
- 財務報告にかかる内部統制における評価を実施した時点
- 財務報告にかかる内部統制における評価範囲や評価範囲の決定方法・根拠
- 財務報告にかかる内部統制における評価を実施する際,一般において公正妥当と認 められる,内部統制における評価基準に則った旨
- 評価結果に関する事項
- 「財務報告にかかる内部統制は有効である」と評価した場合:その旨を記載
- 「一部の評価手続きは実施できていないが,財務報告にかかる内部統制は有効である」と評価した場合:その旨,実施できていない評価手続き,実施できていない理由を記載
- 「重要な欠陥があるため,財務報告にかかる内部統制は有効でない」という場合:その旨,重要な結果の内容,是正されない理由を記載
- 「重要な評価手続きが実施できていないため,財務報告にかかる内部統制について評価結果が表明できない」という場合:その旨,実施できていない評価手続き,実施できていない理由を記載
- 付記事項
- 財務報告にかかる内部統制の有効性を評価する際,重要な影響を及ぼすもの
- 期末日以降に実施した,重要な欠陥への是正措置
- 特記事項
有価証券上場規程(東京証券取引所)
上場会社は,事業年度又は連結会計年度に係る決算の内容が定まった場合は,決算短信を開示し,四半期決算ごとに四半期決算短信なければなりません東京証券取引所は積極的な開示に取り組むよう,上場会社に要請しています(決算短信・四半期決算短信の作成要領等)。(有価証券上場規程404条)。
これは,有価証券の投資判断に重要な影響を与える企業業績等の情報の提供を適時に求めることにより,投資者を保護することを目的としています。
決算短信の開示は,TDnetを利用して行われ(有価証券上場規程414条1項),決算期末後 30日以内の開示が望ましいとされています。
なお,開示した内容について変更又は訂正すべき事情が生じた場合は,直ちに 当該変更又は訂正の内容を開示しなければなりません(有価証券上場規程416条第1項)。
決算短信(サマリー情報)の内容は,以下のとおりです。
- 1.連結業績,2.配当の状況,3.連結業績予想
- 注記事項(期中における重要な子会社の異動/会計方針の変更・会計上の見積りの変更・修正再表示/発行済株式数)
- (参考)個別業績の概要
- 監査手続の実施状況に関する表示
- 業績予想の適切な利用に関する説明,その他特記事項
また,以下の資料を添付しなければなりません。
一律 | 追加 | |
---|---|---|
添付資料の目次 | ○ | |
1. 経営成績・財政状態に関する分析 | ○ | |
(1)経営成績に関する分析 | ○ | |
(2)財政状態に関する分析 | ○ | |
(3)利益配分に関する基本方針及び当期・次期の配当 | ○ | |
(4)事業等のリスク | ○ | |
(5)継続企業の前提に関する重要事象等 | ○ | |
2. 企業集団の状況 | ○ | |
3. 経営方針 | ○ | |
(1)会社の経営の基本方針 | ○ | |
(2)目標とする経営指標 | ○ | |
(3)中長期的な会社の経営戦略 | ○ | |
(4)会社の対処すべき課題 | ○ | |
(5)その他,会社の経営上重要な事項 | ○ | |
4. 会計基準の選択に関する基本的な考え方 | ○ | |
5. 連結財務諸表 | ○ | |
(1)連結貸借対照表 | ○ | |
(2)連結損益及び包括利益計算書又は連結損益計算書及び連結包括利益計算書 | ○ | |
(3)連結株主資本等変動計算書 | ○ | |
(4)連結キャッシュ・フロー計算書 | ○ | |
(5)連結財務諸表に関する注記事項 | ○ | |
継続企業の前提に関する注記,会計方針の変更,会計上の見積りの変更,修正再表示,セグメント情報,1株当たり情報,重要な後発事象 | ○ | |
連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項,未適用の会計基準等,表示方法の変更,追加情報,連結貸借対照表関係,連結損益計算書関係,連結包括利益計算書関係,連結株主資本等変動計算書関係,連結キャッシュ・フロー計算書関係,リース取引関係,金融商品関係,有価証券関係,デリバティブ取引関係,退職給付関係,ストック・オプション等関係,税効果会計関係,企業結合等関係,資産除去債務関係,賃貸等不動産関係,セグメント情報等(関連情報,報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報,報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報,報告セグメントごとの負ののれん発生益に関する情報),関連当事者情報 | ○ | |
6. 個別財務諸表 | ○ | |
7. その他 | ○ |
開示時期
決算短信(有価証券上場規程)を決算日後1ヶ月程度で開示し,事業報告及び計算書類(会計監査は決算短信の公表前後)等並びに株主総会参考書類(会社法)を決算日後2ヶ月程度(株主総会の2〜3週間前)で株主に発送し,内部統制報告書及び有価証券報告書(金商法・監査報告書は公表直前)を総会開催日の当日あるいは翌日以降に開示するのが一般的です。
会社法の事業報告において,会社の状況に関する重要な事項,内部統制システムの整備・運用状況,会社の支配に関する基本方針など,コーポレートガバナンスの状況に関わる事項の開示が求められ,有価証券報告書においても「コーポレート・ガバナンスの状況等」において同様の事項の開示が求められ,「当該会社における財務報告が法令等に従って適正に作成されるための体制」を評価対象とする内部統制報告書の提出が義務付けられています。
最も詳細なものとなる有価証券報告書を最終形とし,決算短信,事業報告・計算書類等を適時作成するという方法が合理的なのですが,財務諸表以外の情報は,同一の項目であっても制度間で開示の範囲や定義・概念等が微妙に異なるため,一方で作成したものを他方で流用することが困難であることが多く,決算日から株主総会直後までの短期間のうちに三つの制度開示に基づく書面をそれぞれ作成しなければならないという状況にあります。
この結果,株主による権利行使や,企業価値評価や投資判断に資する情報の開示を行うにあたり,十分な準備ができているのかという懸念が残ります。
他方,株主にとっても,似たような情報が異なる形式,書面で提供されることから,必要な情報を効率的に把握することを困難にしているという問題があります。
また,有価証券報告書が株主総会の直後に開示されるのが一般的であることから,議決権行使等に有価証券報告書に記載された情報を使用することができないという問題もあります。
以上のように,会社,株主の両方にとって,決算短信,事業報告・計算書類等,有価証券報告書の開示内容の整理・共通化・合理化を図ることにより開示情報の質の向上が求められるとともに,より効果的なタイミングで開示が行える環境の整備が必要であると言われています。
この点,「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」(内閣官房,金融庁,法務省,経済産業省・2018年12月28日)においては,事業報告等と有価証券報告書の一体的開示を行いやすくするため,当面以下の15項目について可能な範囲で共通化を図るとされています。
有価証券報告書 | 事業報告等 | |
---|---|---|
1 | 「主要な経営指標等の推移」 | 「直前三事業年度の財産及び損益の状況」 |
2 | 「事業の内容」 | 「主要な事業内容」 |
3 | 「関係会社の状況」 | 「重要な親会社及び子会社の状況」 |
4 | 「従業員の状況」 | 「使用人の状況」 |
5 | 「経営上の重要な契約等」 | 「事業の譲渡等」 |
6 | 「主要な設備の状況」 | 「主要な営業所及び工場の状況」 |
7 | 「大株主の状況」 | 「上位十名の株主に関する事項」 |
8 | 「ストックオプション制度の内容」 | 「新株予約権等に関する事項」 |
9 | 「役員の状況」 | 会社役員の「地位及び担当」並びに「重要な兼職の状況」 |
10 | 「社外役員等と提出会社との利害関係」 | 「社外役員の重要な兼職に関する事項」 |
11 | 「社外取締役の選任に代わる体制及び理由」 | 「社外取締役を置くことが相当でない理由」 |
12 | 「役員の報酬等」 | 「会社役員の報酬等」 |
13 | 「監査公認会計士等に対する報酬の内容」 | 「各会計監査人の報酬等の額」及び「株式会社及びその子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額」 |
14 | 財務諸表及び計算書類の表示科目 | |
15 | 財務諸表及び計算書類の1株当たり情報に関する注記 |
以上の開示内容の調整等に加えて,開示情報を拡充させる必要があります。
開示情報の充実を図るべきものとして議論されてきた事項を以下において取り上げます。