- 腹部内のカテーテル残置
- 大阪地裁平成15年11月28日判決の事例を参考
- 30万円の支払いを命じた事例
ケース
【事実経過】
私は、3月31日、急性膵炎のため病院に入院し、4月8日に後腹膜腔膿瘍のドレナージ術として、超音波ガイド下に膿瘍の穿刺を行い、ピッグテールカテーテルを留置してもらいました。 そして、私は、7月7日、病院を退院しました。
私は、2年後の8月7日、慢性膵炎と糖尿病の精査のために、同じ病院に入院して、腹部X線撮影を行ってもらったところ、左腎周囲腔に、1.5?から2.0?の糸状のものが発見されました。医師の説明によると、以前行ってもらった手術に用いられたガイドワイヤーの一部かガイドワイヤーのコーティーング部分が残置されているようでした。
この異物を取り除くには、全身麻酔の上で開腹手術を受ける必要があり、手術を行っても異物を取り除くことができない可能性があると言われました。
質問
私は、確実に取り除くことができないような手術を、痛い思いをしてまで受けるつもりはありません。手術を受けてから4年経過した時点では何もありませんが、腹部に異物が残されたことで、将来どのような不具合が発生するかもしれません。
医師や病院に異物を残置させた責任はないのでしょうか。
説明
【大阪地裁の判断】
本件異物が残存していることにより、異物による痛みや感染症等が生じる可能性は低いというべきであるとし、金属製のステント等を治療目的で体内に残置させるのとは異なり、ガイドワイヤーは、長期間にわたって体内に留置する前提で設計されたものではないし、現に使用されるものでもないから、現在までの間に原告に何らかの症状が発生していないからといって、将来にわたって、本件異物が、原告に対して,異常を生ぜしめる可能性がないと断言することはできないと判断しました。
また、本件異物を除去しようとすれば、全身麻酔下に、約5?の皮膚切開を加える手術を行わなければならず、本件異物を完全に除去することができる保証はないことに加えて、かかる全身麻酔下の手術においては、麻酔の危険性や手術による合併症としての感染症等を生じる危険性も否定できないことが認められるとし、かかる危険性に加えて、手術による痛みなどの点から、本件異物の除去手術に踏み切ることができず、そのために、自己の体内に本件異物が残存していることによる恐怖感・不安感があるというのも理解できると判断しました。
そして、その精神的苦痛は法的保護に値するというべきであるとされ、今後定期的にCT検査等を受ける必要があること等により、慰謝料等合計30万円の支払いを命じました。