医療過誤

医療過誤

治療・検査上の注意義務

  • C型ウィルス性肝炎に対する治療・検査上の注意義務
  • 東京地判平成17年11月30日判決参考
  • 3,295万円の支払いを命じた事例

ケース

【C型肝炎の罹患】

父は、平成2年ころ、勤務先の定期健康診断で、高血圧と肝機能の異常所見を指摘され、同年9月22日に今回問題となっている医院で診察を受けました。
その病院では、父が高血圧症であると診断し、父は、その病院に通院して、降圧剤の投薬治療を受けるようになりました。

平成3年3月16日、通院していた医院で血液検査を受け、慢性肝炎と診断され、同月26日から肝庇護薬であるパンパール、ウルソ等の投薬治療を受けるようになりました。

平成4年2月10日には、通院していた医院でC型ウイルス性肝炎と診断されました。

【治療の経過】

父が通院していた病院では、父がC型ウイルス性肝炎であると診断したのですが、インターフェロン投与の適応を判断するためのHCV―RN父定量検査(C型肝炎ウイルス(HCV)量の検査)やHCVセロタイプ測定検査(C型肝炎ウイルスの遺伝子群を血清学的にみる検査)を行いませんでした。

平成4年には17回通院しましたが、15回は診療されることもなく、投薬のみされていました。

平成5年には17回、平成6年には24回、平成7年から平成10年まではそれぞれ27回、平成11年には26回、平成12年には33回、平成13年には27回、通院しましたが、そのほとんどは高血圧及びC型慢性肝炎についての診療を受けていました。

この間の平成7年11月、総合病院でCT検査を受けたところ、肝血管腫の疑いと診断されました。

平成13年3月には、近所の診療所で、CT上肝臓に多発性腫瘤を認め、肝腫瘍(悪性疑い)の、胃癌(疑い)、胃炎、高血圧症、胃粘膜不整、ヘリコバクターピロリ菌感染症、高血圧症、慢性C型肝炎であると診断され、数日後には、腫瘍マーカー検査の結果が高値で、多発性肝癌の可能性が大であり、精査・加療と、父への説明が必要であると判断されました。

しかし、父は、その後診療所にいかず、数日後に通院していた病院で受診し、近所の診療所に運ばれたこと、諸々の検査を受けたことなどを説明したそうです。

父は、平成13年12月3日、腹部に激痛を訴えましたが、かかりつけの医師が不在であったため、以前検査を受けた近所の診療所に父を搬送しました。
この診療所では、父が癌であることを告げられ、後日のFP定量検査により多発性肝癌と診断され、上腹部CT検査を踏まえて肝細胞癌の可能性がある説明されました。

父は、平成14年1月8日、大学病院で診療を受け、腹部超音波検査、CT検査等を受け、肝臓の右葉に多発性の腫瘍が認められ、多発性肝細胞癌と診断されました。また、左季肋部には大きな球形の腫瘍が発見され、脾腫の疑いと診断されました。

さらに、大学病院での検査を続けると内視鏡検査により、胃穹隆部に大きな静脈瘤が認められ、腹部CT検査により、肝右葉全体がびまん性の腫瘍で占められており、左葉にも巨大な腫瘍が発見されました。

その後、父は、いくつかの病院で治療を継続しましたが、平成14年6月23日午前11時、C型肝硬変による肝細胞癌で亡くなりました。

質問

父は、平成4年2月にはC型ウイルス性肝炎であると診断されたのですから、診断した医師は、適正検査を実施してインターフェロンの投与をすべきではなかったかと思うのです。

また、父は、かかりつけの病院に長年通院していたのですから、早期に肝細胞癌の発見をしてくれれば、肝細胞癌で死ぬことはなかったと思うのです。

父が長年通院してきた病院に責任はないのでしょうか。

説明

【C型肝炎と肝細胞癌との関係】

肝癌発症のほとんどはウイルス性肝炎が関連しています。肝細胞癌の92.6%が肝炎ウイルスを原因としており、その内76%がHCV抗体陽性(C型肝炎)とされています。

そして、C型肝炎患者は、原発性肝癌発症の危険性が極めて高いハイリスク群に属します。肝線維化が緩徐に進行し、一般的には約30年の経過で肝硬変さらには肝発癌に至ります。

【C型肝炎の検査方法】

●血小板数検査

血小板数の測定は、患者と肝細胞癌との距離を推し量り、ハイリスク群からさらに危険性の高い群(スーパーハイリスク群)を囲い込むために必要な検査で、定期的・継続的にされるべきものです。

血小板数の測定により、肝線維化の進展度が明らかになります。
肝線維化の進展度は、線維化のないF0から、肝硬変を表すF4の5段階に分類されます。
そして、10年間の推定発癌率において、肝線維化の進展度、血小板数との関係は、F1(血小板数17万/μl)で5%、F2(同15万/μl)で15%、F3(同13万/μl)で30%、F4(同10万/μl)では80%に及ぶとされています。

●腫瘍マーカー検査

癌が発生すると血液中に増えてくる特殊なタンパク質を腫瘍マーカーといいます。
肝癌に関する主な腫瘍マーカーは、AFP(アルファ・フェトプロテイン)と、PIVKA?(ピヴカツー)があります。
C型慢性肝炎患者には、これらの検査を定期的に行うことで、肝細胞癌の早期発見が可能となります。

C型肝炎と診断された場合には、少なくとも3ヶ月か4ヶ月に1回、肝硬変に移行しているバイには、月1回行うべきであるとされています。

●腹部超音波検査(エコー)

2cm以下の初期の肝細胞癌では、腫瘍マーカー検査をしても陰性であることが多いため、肝細胞癌の早期発見のためには、腫瘍マーカー検査と画像検査を組み合わせて行う必要があります。

画像検査の中でも腹部超音波検査は、侵襲が少なく、簡便かつ安価で、小さな病変の発見が可能です。平成7年ころから、肝細胞癌の早期発見に最も役立つ検査であるとされています。

●CT検査

腹部超音波検査では描出困難な部位もあり、また見落としも皆無とはいえません。
そこで、腹部超音波検査を補うためにCT検査が必要なのです。

【治療の説明】

C型慢性肝炎の治療には、原因療法と対症療法の2つがあります。

●原因療法

原因療法には、ウイルスの増殖を抑え、排除することを目的とするインターフェロン療法があります。
この療法は、すべてのC型肝炎患者に奏功するわけではありませんが、3割程度の患者にはC型肝炎ウイルスが完全に消失し、根治することが期待できます。
インターフェロンは、肝線維化を改善ないし抑制しますので、根治しなくても肝癌発症の時期を遅らせる効果があります。

そして、インターフェロン療法は、平成4年に保険適用の対象となり、広く臨床で行われるようになりました。

●対処療法

対症療法としては、強力ネオミノファーゲンC、ウルソ、パンパール、プロヘパール、小柴胡湯等の肝庇護薬の投与があります。

これらは、インターフェロン療法によりウイルスを駆除してC型肝炎の原因であるウイルスを除去することができない場合に、GPT値をできるだけ低値に抑え、肝病変の進行を抑えようとするもので、二次的、補充的な治療です。

【裁判所の判断】

裁判所では、C型肝炎患者を診る医師は、平成4年当時においても、その頻度についてはともかくとして、血小板数検査、腫瘍マーカー検査、腹部超音波検査、CT検査を定期的に行い、その結果肝細胞癌が発生したとの疑いが生じた場合には、その確定診断を行うようにすべき注意義務を負っていたというべきであると判断されました。

そして、C型肝炎患者に対しては、インターフェロン療法をまず第1に選択すべきであり、インターフェロン適応の有無を判断するために、速やかにHCV―RNA定量及びHCVセロタイプの検査を行い、適応がある場合には、自らこれを行うか、被告医院において行えないのであれば行うことができる他の医療機関に転院させるべき注意義務を負っていたとも判断し、インターフェロン療法を実施しなかった病院側の過失を認定しました。

また、平成4年2月にはC型肝炎との確定診断をしたのであるから、当時の開業医の医療水準を前提にしても、肝細胞癌の早期発見のために、定期的に血小板数検査及び腫瘍マーカー検査を行い、更には腹部超音波検査及びCT検査を実施し、その結果肝細胞癌が発生したとの疑いが生じた場合には、その確定診断を行うようにすべき注意義務を負っていたというべきであるとも判断し、各検査を実施していない病院側の過失を認定しました。

次に、インターフェロン療法を実施しなかったことそれ自体と、お父さんさんの死亡との間の因果関係については、インターフェロン療法を実施していたならばお父さんがその死亡の時点においてなお生存していたという相当程度の可能性の存在については証明しているものの、高度の蓋然性については証明が尽くされていないとして、両者の因果関係が認めることができないと判断しました。

他方、定期的な検査義務を適切に尽くし、お父さんの肝臓に発症した腫瘍を1cm未満の段階で発見するとともに、それについて肝細胞癌の発症を疑い、その確定診断を得るように検査を行っていれば、肝細胞癌を初期の段階で発見することができ、その段階で、適応する治療法を選択し、手術をすれば,お父さんが平成14年6月23日の時点においてなお生存していたことについては高度の蓋然性が認められ、肝細胞癌の早期発見のための検査を怠った過失とお父さんの死亡との間には、因果関係が認められるとしました。

そして、病院側には、約3,295万円の損害賠償が命じられました。

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